健康長寿ネット

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第68回 うれしい知らせ

公開日:2024年7月12日 08時30分
更新日:2024年7月12日 08時30分

宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業


 ある日友人から連絡があり、10年近くかわいがってきた飼い猫が、がんで死んでしまったという。聞けば、病気がわかってから3か月程度で急激に病状が悪化。抗がん剤治療は行ったものの、効果はなかったそうだ。

 動物の死は本当に悲しい。私も18歳から猫と暮らし始め、多くの猫を見送ってきた。人間の死は複雑で、嘆く間もない慌ただしさがある。しかし、猫の死は、ただただ悲しい。両親を見送る経験と比較して、そのように感じてきた。

 治療の意思決定は、飼い主が行うため、悔恨も残りがちである。もう少し早く異常に気づけなかったのか。抗がん剤の副作用でかえって衰弱したのではないか・・・・・・。

 友人も、涙しながら、さまざまな後悔を語った。気持ちを受け止めつつ、ただただ聞く。純粋な悲しみに浸るのも、動物を飼うことの一部。何匹も見送ったあとで、私はこのような諦観を持つに至った。

 泣きじゃくる友人に私は言った。「いろんな気持ちがあるだろうけど、猫は人間に飼われただけでも幸せだったと思う。雨風をしのげる温かい家、お腹いっぱい食べられるご飯。それだけでも幸せなのよ」

 これは偽らざる私の気持ち。がんになってあっという間に命を取られても、最後まで看取られたのは、幸せだったのだ。それでも、泣きじゃくる友人がそのような気持ちにいつなれるのか。こればかりはわからなかった。

 そして1年後。LINEに若い猫の写真が送られてきた。保護猫をもらい受け、一緒に暮らし始めたという。クリクリしたまだ幼い目を見ていると、目頭が熱くなった。こんなにうれしい知らせはない。

 世界の中で、1匹幸せな猫が増えた。猫を愛する者として、まずそれがうれしい。そして、新しい猫との暮らしは、先代の猫を見送ったつらい思い出を上書きする。結局の所、猫を失った悲しみは、新しい猫によってしか、乗り越えられないように思う。

 精神科領域でも、ともに暮らす動物を失って、精神的不調が続くと訴える人がいる。いわゆるペットロスと言われるものだが、動物を飼うことの大切さが理解されるようになったのは、社会のよい変化だと思う。

 ただ、年齢が上がるにつれ、新しい猫を迎えるのは難しくなる。私たち夫婦も還暦を超え、飼い猫は今9歳。考えるのはつらいが、70代で今の子を見送ったあと、自分たちの余命を思うと、新たな猫を迎えられるだろうか。

 実際、動物愛護団体は、高齢者への譲渡には拒絶的で、それはやむを得ないと思う。一方で、高齢者が増えている社会で、若い人だけに限れば、譲渡は進まないだろう。動物と暮らしたい高齢者は多い。幸せな猫を増やすためにも、高齢者が協力できないものだろうか。

 少し調べると、飼えなくなった時の備えとしての信託制度や、猫の借受制度など、さまざまな方法が模索されていることがわかった。まだ決定打はないが、今後の変化には期待ができそうだ。

 人も動物も幸せに暮らせるように。年を重ねるにつれて、その気持ちが強くなっている。

写真:著者が撮影した「たにゃと僕」の書籍を表す写真。

<私の近況>

 SNSで猫に関連したアカウントをいろいろフォローしています。なかには書籍になったものもあり、「歌舞伎町の野良猫『たにゃ』と僕」はそのひとつです。(たにゃ、https://x.com/kabukinoraneko)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)コロナで仕事がうまくいかなくなり、自暴自棄になった歌舞伎町で働く中年男性が、野良猫「たにゃ」との関わりを通して再生していく、素敵なフォト・ストーリー。私はずっとX(旧Twitter)で見ていましたが、本になるとまた、さらに素敵ですね。

 ところがたにゃちゃん、腎不全が悪化して一時かなり危ない状態になりました。治療で状態は安定し、今はお家で過ごしています。たにゃちゃんが1日でも長く大好きなパパさんと過ごせるよう祈りながら、この本をデスクに飾り、たにゃちゃんのことを思っています。

著者

筆者_宮子あずさ氏
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。

著書

「まとめないACP 整わない現場,予測しきれない死(医学書院)、『看護師という生き方』(ちくまプリマ―新書)、『看護婦だからできること』(集英社文庫)など多数。ホームページ:ほんわか博士生活(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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