第30回 いわゆる「ゴミ屋敷」問題
公開日:2021年5月14日 09時00分
更新日:2021年5月12日 10時16分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
好きな言葉ではないが、「ゴミ屋敷」と称される家の問題が、たびたび報じられるようになった。戸建ての場合もあれば、集合住宅の場合もあり、とにかく家の中がモノで埋まり、外にあふれ出す。そして、そのモノの大半が私たちからみれば、不要品なのである。
近隣住民にとって「ゴミ屋敷」の何が問題かと言えば、路上にあふれたモノによる交通妨害や異様な景観のほか、立ちこめる悪臭、ネズミやゴキブリなどの害獣・害虫の繁殖など、多岐にわたっている。
私が従事している精神科病院から派遣される訪問看護の仕事でも、うかがう先が「ゴミ屋敷」という場合がいくつかあり、対応の難しさを経験している。
まず、比較的対応しやすい例では、捨てようと思ったものが捨てられず、たまってしまった家である。これは、高齢者のひとり暮らしでは非常によくある例で、原因のひとつはゴミ分別の難しさ。認知機能が若干落ちただけでも、分別法や収集日がわからなくなってしまう。
この場合、本人に捨てる気があるので、いったんたまったゴミを捨て、以後何らかのサポートを行うようにすればよい。介護度次第ではヘルパー支援のほか、自治体によって実施している、細かく分別しなくてもゴミを収集してもらえるサービスが使える場合もある。
これに対して難しいのは、本人がたまったモノの要不要を判断できず、結果としてモノがたまり続ける家。なんとかしようとヘルパー支援を入れても、本人に捨てる気がなければ、有効な支援は不可能である。
ところが最近、対応が難しかった家になんとか改善の兆しがあり、スタッフ一同少し気持ちが明るくなっている。もしお困りの方が読んでくださったら、多少の参考になればと思い、ポイントを挙げてみたい。
まず、最初の突破口は、ケアマネによるヘルパー事業所の変更であった。これは、サービスの質の保証という見地からは望ましくないのだが、現実として、事業所ごとの得手不得手は存在する。料理を作る支援が得意なヘルパーを多く抱える所もあれば、掃除が得意なヘルパーが多い所もある。ヘルパーも人間だから、こうした違いはどうしてもあるのだと思う。
この例では、元々要不要を判断せずモノをためる傾向にあった利用者さんが、モノをため続け、居住困難になってきていた。ネズミとゴキブリの被害、悪臭もひどく、支援者が入り続けるためにも、最低限の衛生状態にもっていきたい。そんな切実な事情も生じた。
ケアマネの英断で事業所をいくつか変え、ようやく掃除に長けた人が居るところに巡りあった。また、それが若い男性ヘルパーで、利用者さんの女性には、良い刺激になったように見える。頑なに拒んだゴミ出しも、彼が「捨てましょう」というと、素直に応じていた。
こうしたジェンダーが絡む問題は、なかなか判断が難しいのだが、実際、ヘルパーに限らず、居宅支援者については、相性も重要である。かなり片付いた家をみて、ケアマネも私たちも大いに感動し、彼の頑張りに今後も期待している。
今回のことで私は、「ゴミ屋敷」はかなりすごい状態からでも、よくなる可能性があると学んだ。諦めずになんとか知恵を絞っていきたい。
著者
- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
『宮子式シンプル思考─主任看護師の役割・判断・行動1,600人の悩み解決の指針』(日総研)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。ホームページ: