第18回 布マスクは限界を知って使う
公開日:2020年5月 8日 09時00分
更新日:2020年5月 8日 09時00分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
新型コロナウイルスの感染予防策として、政府から布マスクが配布されている。すでに介護関連施設には送付が行われ、この後個人を対象とした1世帯あたり2枚の郵送が開始になる。
この背景には、盛んに報じられている深刻なマスク不足がある。日本で使われていたマスクは、多くが中国製。早期に感染爆発が起きた中国からの輸入が止まったため、一気に品不足が起きた。
現在、これまで比較的安価に入手できていた不織布マスクは、希少品となっている。連日マスクを求めてドラッグストアなどに並ぶ人も多い。この状況で布マスクが届けば、好むと好まざるとに関わらず、使わざるをえない人も多いだろう。
ここでお知らせしたいのは、布マスクの限界についてである。布マスクは、不織布マスクに比べると、目が粗く、多くの物質を通過させてしまう。ごくごく小さいウイルスを防ぐ効果は期待できない。では、なんのために布マスクをするかといえば、自分自身が唾液を人に飛ばさないためなのである。
新型コロナウイルスについてはまだわからないこともあるが、人にうつるのは、飛沫感染と考えられている。飛沫感染というのは、主に唾液に入ったウイルスが人の手を介して口の中に入り、うつる形である(詳しくは第16回「新型コロナウイルスへの対策」参照)。
従って、布マスクでも唾液を飛ばさない効果は期待できる。この考え方から、これまでマスクをする習慣がなかったアメリカでも、布マスクやストールなどを使い、口元を布で覆うことが政府からも推奨されるようになった。
補足すると、アメリカが布にこだわるのには理由がある。感染予防により役立つ不織布マスクを医療現場に回す、という考えが徹底しているからだ。そのくらい、アメリカのマスク不足は深刻。世界中のマスクを買い占める勢いとも言われている。
今回の新型コロナウイルスの流行を機に、世界中でマスクをする習慣が日常化した場合、これまでのように安価なマスクが市場に流れるかは、不透明である。ことによると、布マスクの限界を知りつつ、これも利用しなければならない状況が、長く続く可能性がある。
本来であれば、こうした説明を十分した上で、布マスクは配布されるべきであった。この説明が不十分だった点は、今後の政策に生かされてほしい。
ともあれ、今は布マスクをうまく活用し、コロナウイルスの流行をやり過ごすしかない。また、市場に流通する不織布マスクにしても、実はウイルスを通さないほどの気密性はない。その点では、布マスクと大差ないとも言える。マスクを過信してはならない。この事実も強調しておきたい。
結局のところ、市販のマスクをしていても、感染予防には不十分である。手を洗うこと、人と距離を取ること。これを確実に行う必要がある。そして、人と距離を取るには、なるべく外に出ず、家にいること。今しばらくは、辛抱の日々が続くだろう。
著者
- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
『宮子式シンプル思考─主任看護師の役割・判断・行動1,600人の悩み解決の指針』(日総研)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。ホームページ: