第43回 訪問看護でも大事なコンビニのトイレ
公開日:2022年6月10日 09時00分
更新日:2022年6月10日 09時00分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
外出中、コンビニのトイレを使った経験がある方は多いのではないだろうか。これを公共化したい自治体も出てきて、賛否の声が聞こえるようになった。
使用する側の市民には賛成が多く、受け入れるコンビニ側は、負担増や使用者のマナーの悪さを理由に、反対の声が多く聞かれている。
実は、訪問看護の仕事をしていた時、外出中のトイレは大きな問題だった。訪問先にトイレがあっても、使わないのが基本になっているからだ。
これは訪問看護以外にもヘルパー、ケアマネなど、多くの居宅支援者も同じだと思う。
実際、私が初めてうかがった訪問先で、このように言われた経験がある。
「訪問看護が来る日は掃除していますが、そんなにきれいにはできません。だから、トイレは絶対に入らないでください。昔来た看護師さんに、トイレを見られて、すごく恥ずかしかったので」。
この言葉を聞いて、訪問看護を受ける人が、それを受け入れるのに大きなプレッシャーを感じているのがよくわかった。自分自身を考えても、人を招く時、トイレは特にきれいにする。準備なく入られたら、とても嫌だと思う。
従って、私もまた、外でトイレに行く時は、かなりの確率でコンビニのお世話になった。そして、出てくる時は、弁当や菓子などを買い、トイレだけを使うことはまずなかったと思う。
公園や駅近くにも、公衆トイレはあったが、できれば使いたくなかった。理由はおわかりだと思うが、掃除が行き届かず、はっきり言えば汚いからである。多少義理買いをしてでも、コンビニのトイレが良かったのだ。
ただし、コンビニのトイレは、維持管理に手間をかけているからきれいなのである。この負担を自治体が担わずに、公共化するのは困難だろう。
報道によれば、千代田区内の38カ所(2019年8月時点)ある公衆トイレについて、今年度の予算に計上された維持管理費は8846万4000円。東京23区では、公衆トイレを設置するのに1500〜2500万、維持費も年に100〜150万程度かかるという。
しかし、現在コンビニの公共化に対して自治体が行っている補助は、全くない所から、200個のトイレットペーパー支給という程度。決して十分とは言えず、公共化の呼びかけに応じるコンビニは増えていない。
ちなみに、トイレットペーパー支給については、いっぺんにもらっても置き場に困る、との声もある。確かに、在庫も極端に減らし、省スペースを図っているコンビニであれば、トイレットペーパー200個置く余裕を求めるのは酷だろう。
私は、自治体が補助をしてでも、コンビニのトイレが使いやすくなってほしい。使った人が何かを買う、というのが徹底できれば良いが、経済的にそれが難しい人もいるだろう。無理強いはできない。
居宅支援者としては、自分自身のトイレのみならず、高齢者の外出も気になっている。近くに出かけるだけでも、トイレが心配な高齢者は想像以上に多い。「おしっこが近いから」「下剤を飲んでいるから」と、排泄は外出の障害になりやすいのだ。
実際、新型コロナウイルスの感染が今より激しかった時は、トイレを使わせないコンビニがほとんどだった。感染予防のためのステイホームと合わせ、トイレの閉鎖もまた、高齢者の外出を阻んだと言える。
感染予防に気をつけながらの外出もできなくなった結果、鬱などの精神的問題や、身体機能の低下を来した高齢者がどれだけいたか。それを考えると、改めて、コンビニのトイレの大切さを思い知らされる。
今、病棟で働き、行きたい時にいつでもトイレに行ける幸せをかみしめつつ。やはりトイレの問題は大きいのだと、痛感している。
参考
著者
- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
「まとめないACP 整わない現場,予測しきれない死(医学書院)、『看護師という生き方』(ちくまプリマ―新書)、『看護婦だからできること』(集英社文庫)など多数。ホームページ: