健康長寿ネット

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第49回 受診できない発熱外来

公開日:2022年12月 9日 09時00分
更新日:2022年12月 9日 09時00分

宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業


 新型コロナ感染が広がってから、「熱が出たら発熱外来」という流れが定着している。しかし、実際にコロナにかかった人の話を聞くと、受診の大変さを嘆く声が多い。

 「受付開始の時間に電話しても、お話中。繋がった時には『今日の予約はいっぱいになりました。明日また電話してください』。翌日の予約は取れなくて、また翌朝連絡すると予約がいっぱい」。

 その人は結局、オンラインで診療してくれる医師を見つけ、届け出などを済ませたという。最近では自宅療養が勧められているため、医師にかからないまま、自宅で検査し、解熱剤を飲み、対処している人も多い。

 このような現状で、コロナ以外の病気で発熱しても、診療を受けられない問題も起きている。先日夫が発熱。報道などで聞いてはいたが、その大変さを実感することとなった。

 夫はしばしば薬剤性アレルギーを起こし、発熱してしまう。特徴的なのは足の甲だけに出る発疹。上から見ると、足袋を履いたように見える。

 これまで原因になったものを列挙すると、ヨード系の造影剤、抗生物質、解熱剤など薬剤のほか、ハンドクリーム、石鹸など。ハンドクリームを手に塗っても、手はなんともならず、足だけに症状が出るのである。

 今回は私が間違えて購入したベビー石鹸で手を洗ったところ、数日で38度台の熱が出てしまった。「ベビー石鹸で還暦間近のおじさんが発熱するなんて!」と2人で言い合って笑った。

 かかりつけ医でステロイド入りの抗アレルギー剤をもらえば、すぐに治る。何度か繰り返す中で、私たちはすでに慣れっこになっていたのである。

 ところが、今回はまったく勝手が違った。私たちがかかりつけにしているクリニックも、今は発熱があると、発熱外来にかからなければならない。サイトを見ると、事前に電話するように、と書いてある。

 そこで翌日の朝早速電話したところ、お話中。繋がった時には予約がいっぱいで、「また明日電話してください」。1日がまんして翌日かけても、同じように繰り返しだった。

 2日電話して予約が取れなくなった段階で、私はもう、私が代理で受診し、薬だけもらうと決めた。すでに10年以上通院し、同じ症状で数回かかっている。その都度薬をもらっているので、話せばもらえるはずだ。

 そして、代理で受診した結果、難なく薬をもらうことができた。すぐに内服し、その日のうちに解熱。これなら昨日のうちにもらいに行けばよかったと、胸を撫で下ろした。

 今回改めてわかったことが2つある。

 ひとつは、かかりつけ医の大切さ。本人が受診できなくても、家族が代理で薬をもらえたのは、これまでの経過がわかるかかりつけ医だったから。もし私が今も訪問看護の仕事をしていたら、一人暮らしの利用者さんに代わって薬をもらう可能性もあっただろう。

 そしてもうひとつは、発熱したら診療が受けられなくなる、現状の理不尽さ。夫の場合、受診を決めた時点で、医療用抗原検査キットでコロナ陰性は確認していた。そのことと、アレルギーの熱であることを話し、一般の外来にかかれないか相談したが、「発熱患者は発熱外来でないと診られない」の一点張りだった。

 今は多くの医療機関がこのような対応をとっている。亡き母は膠原病でしょっちゅう熱を出していたのだが、今なら病院にかかるのも大変だったろう。

 発熱を伴う病気は多く、中には迅速な対応が必要な病気も少なくない。発熱があれば発熱外来以外では診てもらえない今の体制で、病気をこじらせる人もいるのではないだろうか。

 かかりつけ医を持つこと、発熱があれば、なるべく余裕を持ってかかりつけ医に相談すること。残念ながら、今は、そのくらいの対策しか思い浮かばない。

 改めて、コロナが早く収まるようにと、心から願っている。

写真:クレヨンハウスのレストランで開かれた吉武輝子氏の出版記念パーティの入り口に飾られたお花の様子を表わす写真。
<私の近況>
 ひとつ嬉しいお知らせです。私が住んでいる吉祥寺に、作家落合恵子さんが経営しているクレヨンハウスが表参道から移転してきます。オープンはクリスマスあたりの予定。詳しくはホームページをご覧ください。
落合さんは、亡き母・吉武輝子がとても仲良くしていただきました。写真は、2009年にクレヨンハウスのレストランで開いた、母の出版記念パーティで飾ったお花。地下に降りる入口に置かれました。母を思い出しつつ、新しいお店に行きたいと思います。

著者

筆者_宮子あずさ氏
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。

著書

「まとめないACP 整わない現場,予測しきれない死(医学書院)、『看護師という生き方』(ちくまプリマ―新書)、『看護婦だからできること』(集英社文庫)など多数。ホームページ:ほんわか博士生活(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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