第21回 昼食のモンダイ
公開日:2020年8月14日 09時00分
更新日:2020年8月14日 09時00分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
私は同い年の夫と2人暮らし。子どもはいない。喧嘩の種も少ないためか結婚してからの30年、とても仲良く暮らしてきた。コロナウイルス感染が広がった4月以降、彼の会社は在宅勤務が基本となった。一方の私は、週に3回訪問看護のバイトに行くのは相変わらず。ただし、研修への出講がキャンセルとなり、外出の機会は以前より減っている。
今年57歳の私たちにとって、今の暮らしは、定年後の暮らしのリハーサルのようだ。実際、彼が定年退職したら、私はバイト、彼は在宅。そんな暮らしになる可能性は高い気がしている。
ところで、今の暮らしになる前、1つ夫婦で話し合った。それは昼食をどうするか。互いに働きに出ている時は、彼は社員食堂、私は外回りの途中で調達する弁当。在宅の時は、あり合わせのものと、それぞれが適当に済ませていた。
それが、2人でいる日も増えるとなると、これまでのように適当に済ませるでいいものだろうか。2人の時は、きちんと作るようにするか?考え込んでしまった。
「定年後の昼食問題」には、いささか思うところがあった。実際、精神科病棟で働いていた時出会ったうつ病の女性のうち、何人かの人が、その負担を口にしていた。以下は、彼女たちの言葉である。
「朝食が終わってすぐに『昼ご飯は?』と聞かれるともう、消えてなくなりたい気持ちになりました。1人の時は、適当に済ませていて。負担もなかったんですよ」「主人が定年になったら、昼ご飯作らなくちゃならなくて。さらに1食、死ぬまで作り続けるんだと思ったら、絶望的な気持ちになりました」。
彼女たちの夫は、私の親の世代に近い。男尊女卑の傾向や、性別役割分業の考え方も強く、家事を分担する男性は少なかっただろう。今はこれよりマシと思いたいが、どうなのだろう。
コロナ禍で夫婦がともに在宅勤務となり、家事を分担しない夫への我慢が限界に達した。そんな話も聞く。このあたりは、依然深い問題なのに違いない。
わが家の場合、家事全体としてはだいたい半々分担しているが、掃除やゴミ出しは夫中心、料理は私中心と大まかに分かれている。そのため、昼食をきちんとやろうとすると、私の負担が増える。うつになるほどではないが、「あ~、ちょっと面倒だな」と思ったのが、正直なところである。
そこで、私たちは「昼食はこれまで通りそれぞれが適当にやろう」と決めた。レトルト食品、インスタントラーメン、シリアルなど保存の利くものを予め準備しておき、あり合わせのもので済ませる。これがこれまでのやり方だった。
その上で、晩ごはんでも活用している作り置きのおかずを、いつもより多く作るようにした。より多く昼食をとる夫は、特に熱心である。今まではあまり作らなかったおかずを、いくつか作るようになった。
看護師の仕事を通して、自分よりも年長の人の暮らしを見る。そこから時代の変化と、変わらないものを改めて考える。期せずして暮らしが変わる中で、そんな思索がとても役に立つように思う。
これでますます、定年後の準備は万端になっただろうか。
著者
- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
『宮子式シンプル思考─主任看護師の役割・判断・行動1,600人の悩み解決の指針』(日総研)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。ホームページ: