第24回 9060問題?
公開日:2020年11月13日 09時00分
更新日:2020年11月13日 09時00分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
80代の親に丸抱えで面倒をみてもらっていた50代の子どもが、親の死後ひとりで生きられない「8050問題」。1人になった子どもが精神科医療につながり、その後訪問看護がフォローする場合もある。
少し前に、「8050問題」のさらに上を行く、「9060問題」とも言うべき複数のお宅を訪問していた。いずれも子どもは男性で、60代後半。世話をしているのは90代の母親であった。
とは言え、90代の母親は軽度認知症で、彼女自身要介護2程度の自立度である。ひとりで息子の世話ができるはずもない。母親についているヘルパーの生活支援が、結果として息子の世話にもなっていたのである。
ほぼ同じ時期に、複数の家で母親が体調を崩し、最終的には施設へ入所した。施設に入れば、ヘルパーなどの居宅支援は当然終了となる。60代の男性は支援者が誰も来ない家で1人生活するようになった。
当初男性たちは一様に、強気だった。「1人で気楽ですよ」「好きなものをコンビニで買ったりするから大丈夫です」「掃除は適当にやります」ヘルパーなどの支援を入れるため、自分も介護認定を受けるよう勧めたが、必要を感じていなかった。
しかし、半年くらい経つ頃には、室内が明らかに荒れ始めた。部屋中にほこりがたまり、切れた電灯は切れっぱなし。エアコンが動かないと泣きつかれ、見ればリモコンの電池が切れていた。
これらは母親が対応するか、できなければヘルパーが支援していたのだろう。男性は、支援を受けているという自覚もなく、母親と共にしっかり世話をされていたのである。
結局ある男性は不安から不眠になり、精神状態が悪くなって精神科病院に入院した。他の人は、通所している作業所のスタッフから強く勧められ、ようやく介護認定を受けてくれた。結果は要介護1。母親よりも低い認定だったが、1日か2日ヘルパーが来るようになり、室内はかなり整った。
できることなら、母親の施設入所が決まった段階で、男性に介護認定を受けてもらい、1人になったらすぐに、居宅支援がスタートする。それは理想だと思う。
しかし、こと介護の問題は、合理的に話が進むとは限らない。なるべく1人でやりたいと思う人、できるだけ助けてほしいと思う人......。同じ状況でも、人の気持ちはさまざまだからである。
特に入院した男性は、母親が自宅に戻れない事実を、なかなか受け入れられなかった。そのため、荒れた状況でひとり暮らしを続け、結局入院になってしまった。
そして、その男性が介護認定を受けると決めたのは、施設入所していた母親が亡くなってからである。もう母親が帰ることはないと諦め、ひとりで暮らす覚悟をしたのだった。
90代まで生き、子どもの世話までしている人は、多数ではないと思う。しかし、こうした例では、本当に親子の結びつきは強い。その気持ちを十分に察した支援が必要だと改めて思った。
著者
- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
『宮子式シンプル思考─主任看護師の役割・判断・行動1,600人の悩み解決の指針』(日総研)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。ホームページ: