第35回 オンラインか対面か
公開日:2021年10月 8日 09時00分
更新日:2021年10月 8日 09時00分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
私は訪問看護の仕事をする傍ら、いくつかの市民運動に関わっている。新型コロナウイルス感染が長引き、みんなで集まる活動がきわめて難しく、スマホやパソコンを使うSNS※1の活用が嫌が応にも進んできた。
SNSの活用というと、若い人のイメージがある。しかし実態は必ずしもそうではない。80代でもFacebookで発信し、ZOOMなどを使ったオンライン会議に積極的に参加する人は意外に多い。
特にコロナ禍では、持病があり、感染に気をつけている人は、高齢者でも対面よりオンライン会議を好む。また、マスクをしての対面での会議は、聴覚機能が衰えた人には、とても聞き取りづらい。初め対面会議を強く希望した人が、やがて会議に出てこなくなり、その後オンラインで参加するようになったと言う話も聞いている。
さらに、外出がつらくなってきた高齢者にとって、家にいながら参加できるオンライン会議はまさに天からの贈り物。オンラインだからこそ参加できるという人も、一定数いることがわかった。
そしてこれは、高齢者に限った話ではない。仕事や子育てで忙しい現役世代の多くは会議のために外出し、何時間も拘束されるのは、難しい状況にある。そのため、市民運動の担い手はリタイアした人が中心。多くの団体で世代交代が問題になり、有効な手立てが講じられないまま日が経ってきた。
オンライン会議が活動に導入されて以降、50代以下のメンバーが少しずつ増えている。それも、名前だけのメンバーではなく、実際に活動するメンバーとして。58歳で最年少、という立場が長かった私には、本当にうれしいことだ。
問題は、今後感染が収まった時、オンライン会議を続けるかどうかである。今でも「できれば対面を」と望む人と、「オンラインならば参加できる」という人の間で、温度差を感じる。理想は各自が望む形で参加できることだろう。
とはいえ、希望する人がオンライン会議に参加できるとは限らない。例えば、私が働く精神科訪問看護の領域では、依存症の人たちが集う自助グループ。ここではオンラインミーティングを始めても、パソコンやスマホがないといった端末の問題、あってもZOOMを設定できないという技術的な問題もあり、参加できない人がいる。
かねてより、デジタル機器を使いこなす能力差が、情報格差を生む、デジタルデバイド※2が問題になっている。オンラインでできることが増えるほどに、この情報格差は深刻さを増すだろう。
少なくとも、技術的な問題であれば、設定を教える人、代行する人がいればよい。子や孫などの肉親、友人にやってもらえる人がいなければ、何らかの公的サービスがあればありがたいと思う。
新型コロナウイルスは多くの人の命を奪い、感染対策は人と人を疎遠にした。自粛によりうつになった人、飲酒量が増えた人もいる。まさに社会全体の被害は甚大である。その中で、オンライン会議による、活動メンバーの増加は、本当にわずかなよい出来事。これを今後に生かしたいと思っている。
- ※1 SNS:
- ソーシャルネットワークサービスのこと。オンライン上でアプリケーションソフトを使って会話ができるサービスの総称。
- ※2 デジタルデバイド:
- コンピュータやインターネットなどの情報技術(IT:Information Technology)を利用したり使いこなしたりできる人と、そうでない人の間に生じる、貧富や機会、社会的地位などの格差のこと。 個人や集団の間に生じる格差と、地域間や国家間で生じる格差がある。
著者
- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
『宮子式シンプル思考─主任看護師の役割・判断・行動1,600人の悩み解決の指針』(日総研)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。ホームページ: