第38回 対面+メールなどの新たな詐欺に注意
公開日:2022年1月14日 09時00分
更新日:2022年11月 9日 09時40分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
12月半ばのある日、訪問看護にうかがう予定の利用者の男性から、キャンセルを希望する電話があった。明日は知人の葬儀があり、そちらに行きたいと言う。
状態は落ち着いている方なので、キャンセル自体はかまわない。しかし、身よりもなく、親しい友人もいない彼が、いったい誰の葬儀に行くのか.........。気になり、尋ねてみた。
すると、彼はしどろもどろになり、「お金を払えば、誰かわかるんですが」。これはいかにも怪しい。「明日がダメなら、今日行きます」と言い、やや強引に訪問してしまった。
結論から言うと、彼は詐欺に遭っていた。元々お金がうまく使えず、金銭管理のサービスを受けている人。その担当者や、福祉の担当者とも相談しながら、対応することになった。
そして、その詐欺の手口は目新しく、この原稿を書いている時点で、ネットなどでも報告が見当たらない。ぜひお知らせしておきたいので、以下に経過を書きたいと思う。
まず、利用者の男性は、街で突然弁護士を名乗る男性に声をかけられ、喫茶店で長時間話した。その時、このように言われたという。
「病気で間もなく亡くなる運命の女性が、全財産50億円を贈与する先を探しています。私は依頼を受けた弁護士で、そのお手伝いをしているのです。今日お話をして、あなたも候補とわかりました。電話番号を教えてください。依頼人と相談して、了承されたらお電話します」。
利用者の男性は、電話番号を教え、翌日弁護士を名乗った男性から電話が入る。「依頼人が亡くなりました。死ぬ前、あなたを相続人に選んだので、これから手続きに入ります。説明はメールの方がいいので、私がこれからショートメールでメールアドレスをお知らせします。この先は、そちらにメールをください」。
利用者の男性は教えられたメールアドレスにメールをすると、以後は「故人の情報を教えますが、個人情報を教えてもらうのに、いろいろな手続きが必要になります。2万円ほどお金を準備しておいてください。告別式についての情報は、それとは別に1万円が必要です」などと、金銭を要求された。
巨額の贈与先を探している、あなたが相続人に選ばれた、などというストーリーはいかにもありがちなメール詐欺である。私も一時何通も似た内容のメールを受け取った。
しかし今回の詐欺は、出だしが対面であるのがミソ。会った時の印象が残るため、心寂しい人ほど信じ込み、不義理はできないと金を注ぎ込んでしまう。手当たり次第メールを送るやり方より、巧妙で悪質な詐欺と言える。
幸い、利用者の男性は、いったんは私の説明に納得し、詐欺だと理解してくれたように見えた。そこで私は、弁護士を名乗る人からのケータイ電話番号の着信拒否と、メールアドレスのブロックを提案したが、受け入れてもらえなかった。
「連絡が来ているかどうかはきちんとわからないと不安です。絶対に連絡しないから、そのままにしておいてください」。そう言われると、それ以上のことはできない。もし自分が身内なら、強引にでもやりたい気持ちだった。
今回、詐欺である事実を納得させるのがなかなか難しかった。その理由として、ネットなどにも情報が出ていない、新しい手口だった点があがる。
なぜなら、私はこれまで、詐欺事件について書かれたネットの記事を見せて、詐欺に気づいてもらってきた。これができなかったのは、とても残念。だからとりあえず、機会を見つけて、この件については書いていこうと思う。
もし周辺に危ない人がいたら、ぜひ、この記事を使って説明してあげてください。
著者
- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
『宮子式シンプル思考─主任看護師の役割・判断・行動1,600人の悩み解決の指針』(日総研)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。ホームページ: