第71回 米の品薄
公開日:2024年10月11日 08時30分
更新日:2024年10月11日 08時30分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
8月に入り、私が普段使っているスーパーから米の姿が消えた。米売り場の空いている棚には、おかゆのレトルト、パックの米飯、カップ麺。米が買えない人が、代わりに求めそうなものが並んでいる。
その頃、政府は新米が流通するようになれば、品薄は解消するとの見解を出していた。実際、9月半ば以降、新米が入荷し、種類は少ないながら、どうにか米売り場の棚が埋まるようになってきている。
今回の米の品薄には、いくつかの要因が指摘されている。まずは、昨年の猛暑による不作。これに、新型コロナ感染流行後の急激なインバウンド(訪日客)増加、南海トラフ地震災害への備えとして米の備蓄、小麦粉の値上がりによる割安感などによる需要の増加が加わった。
この要因のひとつひとつは予測不能かもしれない。しかし、一時的とはいえ、ひとたび何か起こればここまで品薄になる米の現状に、不安を感じるのは私だけではないだろう。
思えば米余りと言われ、生産量が抑制されるようになって久しい。改めて調べてみると、1969(昭和44)年から、米の生産は基本的に減少に転じている。
主食といえば米という時代は、確かに終わった感がある。私自身、余り米を食べず、年間を通せば、パンや麺類の方が、はるかによく食べている。
私もすでに60代なので、若い範疇には入らないが、上の年代ほど米を好むという漠然とした思い込みがあった。
しかし、看護師という仕事を通して、自宅での食生活について尋ねてみると、主な食事はパン、と答えるお年寄りは意外に多いのだ。
理由は、菓子パンや調理パンなら、買ってすぐにそれだけで食べられるから。男性が女性の介護をしている場合は、なおこのパターンは多い。
では嫌々食べているのかといえば、そうでもない。これまで米を食べていた人ほど、目新しさにひかれるのだろうか。お年寄りは米が好き、とは決めつけられないと感じた。
とはいえ、こうした例ばかりでないのも事実である。サンドイッチばかり食べていた人が、いざ宅配弁当をとるようになると、こちらがいいとの声もあった。
「やっぱりごはんはいいわね。お腹に貯まるし」
食べ物の好みといっても、値段や調理のしやすさなど、実はさまざまな条件で規定されている。糖尿病や高血圧などに罹患すれば、食事療法が求められるわけだが、こうした制約が、しばしば障害になる。
実際、小麦の値段が上がり、麺が高くなると、米に流れる人も出てきた。そこに品薄。新米の値段も上がっている。一体何を食べればいいのか。年金暮らしのお年寄りの悲鳴が聞こえるようだ。
<近況>
お米を食べないわが家ですが、見切り品のお刺身が手に入ると、冷凍してあるご飯を食べたりします。ご飯は雑穀入り玄米。米が品薄の時期には、玄米も品薄。なかなか手に入りませんでした。
それから、悲しいお知らせがひとつ。第68回の近況でお知らせした歌舞伎町のたにゃちゃん。8月15日夕刻に虹の橋を渡ったそうです
。動物とのお別れは本当に悲しい。飼い主さんの気持ちを考えると、私も泣けてしまいます。写真はそんな気持ちでいたら、そばに来てくれたもふこ。飼い主にできるのは、悔いのないようかわいがる。それだけです。
著者
- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
「まとめないACP 整わない現場,予測しきれない死(医学書院)、『看護師という生き方』(ちくまプリマ―新書)、『看護婦だからできること』(集英社文庫)など多数。ホームページ: