第54回 思いがけない「骨休め」
公開日:2023年5月12日 09時00分
更新日:2023年5月12日 09時00分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
前回ツキがない、と嘆いたところで、さらなる災難に見舞われてしまった。
春分の日に池上本門寺へ両親の墓参りに行った帰路、電車に駆け込み乗車をして、車内で転倒。思い切り腰から転んで、仙骨を骨折したのである。
初めての骨折で、整形外科の知識も乏しかったが、それでも、骨折は部位により固定などの処置が行えないこと、仙骨、尾骶骨はそうした部位に当たることは知っていた。
実際、受診した整形外科医からは、「治療は特にないので、痛くないように工夫して生活するしかない」とあっさり言われてしまった。
サポーターでもあれば楽だと思い、ネットで探したが、「尻が小さくなる」を売り物にした怪しげなサポーターが、見つかるばかり。すぐに諦め、痛みが落ち着くまで、勤務は休むと決めた。
幸いなことに、経過はすこぶる順調で、受傷から10日目には病棟勤務に復帰できた。週3日のパート勤務のうち、休んだのは5日。それでも十分申し訳ない気持ちだが、上司や同僚は骨折と聞き、1か月くらいは復帰できないと覚悟していたそうだ。
治りの早さに驚かれた一方、私にとってはまあまあ予想通りの回復だった。整形外科医からは、「1週間から2週間は痛いよ」と言われていた。だから、1週間くらい経つと楽になってくるのかな、と。かなり楽観的に考えていた。
肝心の痛みはといえば、とにかく、前屈みになると激痛が走った。ただ、前屈みにならない限りは、座っているのも平気。歩くのも不自由しなかった。
しかし、前屈みにならないように暮らすには、ちょっとした工夫がいる。以下、いくつか列挙してみる。
- 低い場所にある物を取る時は、片膝をつき、背筋を伸ばして手を動かす。
- 椅子など低い位置からの立ち上がり、あるいは座る時は、周りにある物に手をついたり握ったりして、腕の力で身体を上下させる。
- 低い位置から立ち上がる際、手をついたり握ったりできる物がない場合は、自分の腿に両手をつき、腕の力で立ち上がる。
- 洗面は、流しの中に片方の手をつき、空いている方の手で行う。
これは、文字で書くと複雑に見えるかもしれないが、実際は痛くないように動く中で、自然に身についた所作であった。この獲得のプロセスは、実験のようで、なかなか興味深かった。
看護師として働いている際も、さまざまな身体の痛みに悩む人と出会う。痛みが出ないように暮らす工夫は、そんな時にも参考になりそうである。
回復は復職後も順調で、受傷から2週間経つと、動き方に気を使うことがほとんどなくなった。また、量を減らしながら飲んでいた痛み止めも、この頃には全く不要。受傷前の生活に戻ったといえる。
このように、今となっては過去の話になりつつある骨折事件。最大の教訓は、やっぱり、駆け込み乗車はしない。これに尽きる。そのためには、時間に余裕を持ち、乗り換えや電車の行き先について十分調べておくようにする。
今回の失敗は、乗り換えの際、目の前に来た電車に乗って良いのか悪いのか判断できず、ギリギリになって駆け込んでしまったことだった。
そして、まもなく還暦を迎える年齢になり、30代の頃のように機敏には動けない。サッと動いたつもりが、実際は動けておらず、引っかかったり、つまずいたりしてしまう。
こうしたリスクを考えないと、また似たような失敗をしないとも限らない。喉元過ぎれば......とならぬよう、今後の教訓とするつもりだ。
そして、振り返ってみれば、看護師になって36年このかた、丸々2週間勤務に出なかったのは初めてだった。やっぱり、勤務に出ないのは、なんとも寂しい。改めて、この仕事が自分にとって大切であることを再確認した。
今年度もがんばろう、と思える日々。思いがけず、いい「骨休め」になったようだ。
<私の近況>
久しぶりの病棟勤務も2年目を迎え、ようやく業務になれてきたところです。余裕がでるにつれ、欲もでて、知識の不足も感じるようになっています。
ちょうどそんな気持ちでいたところ、今年度から、私が卒業した看護専門学校で、精神看護の授業をまとめて引き受けることになりました。早速いただいた教科書は、内容が新しく、執筆陣も豪華。またとない学び直しのチャンスに、わくわくしています。
もふこは睡眠学習(笑)。私はしっかり起きて学びますよ!
著者
- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
「まとめないACP 整わない現場,予測しきれない死(医学書院)、『看護師という生き方』(ちくまプリマ―新書)、『看護婦だからできること』(集英社文庫)など多数。ホームページ: