健康長寿ネット

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第67回 妻への支援

公開日:2024年6月14日 09時00分
更新日:2024年6月14日 09時00分

宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業


 日本は国際的に見ると男女の不平等が未だ大きく、特に家事・子育て・介護といった、ケアの担い手は、圧倒的に女性が多い。

 こうした社会では、男性の多くが女性に世話をされるのを、当たり前と感じがちなのではないだろうか。

 特に目立つのが、社会的地位の高かった人。中には、ケアにあたる女性を見下し、偉そうな態度を取る人さえいるのが、残念でならない。

 以前訪問看護にうかがっていた男性は、大企業の元幹部。まさにこのタイプだった。80代半ばになって、認知症を患い、さらに威張るようになったと聞く。

 ある日の訪問看護で、私は、男性が妻に不満を爆発させている場面に出くわした。

 「なんで、あのシャツを洗っておいてくれないんだ。あれが一番着やすいんだ。前も言ったじゃないか。あのシャツ、あのシャツだ」

 男性は、軽い脳梗塞を繰り返していて、右手の動きがやや不自由。シャツのボタンを止めるのが難しい。そのため、止めやすいシャツが準備されていないことに、腹を立てたのだった。

 看護師の目から見れば、これはよくある話。自分でうまくできないことに苛立ち、八つ当たりをしていると見た。これは、老いとうまく折り合えない人にはよくある心理だが、共に暮らし、お世話する妻にすれば、たまらないだろう。

 「お前はいつもダメだ。一体何度言えばわかるんだ。俺の部下だったら、そんな気のきかない人間は使えない」

 いつにも増してしつこく攻撃する男性に、妻はむっと押し黙っている。いつもなら、「まあまあ、そんなことを言わないで」と曖昧に間に入るところだが、この日は私も、腹が立ち。黙っていられなかった。

 「お言葉ですが、奥様は部下ではありませんよね。そのおっしゃりようは、あまりにも奥様に失礼。聞いていていたたまれません」

 私の言葉に、男性は一瞬驚き、顔を真っ赤にして黙った。間違いなく、腹を立てたのだろう。それでも悪態をやめただけでも、良しだ。そう思った。

 この日は気まずい雰囲気で訪問が終わったが、帰り際玄関まで1人見送ってくれた妻は、とても喜んでくれた。

 「ありがとうございます。昔からあんな人です。認知症になって、ますます威張るようになりました。私も黙ってばかりじゃなくて。我慢できない時は、言い返します」

 これ以後私は、妻を支援する気持ちで、このお宅にうかがった。

写真:筆者が20歳のころにイスラエルの旧約聖書の遺跡をバックにイスラエルの子供2人と一緒に撮影したことを表す写真。
写真:筆者が20歳のころにイスラエルの旧約聖書の遺跡をバックに撮影したことを表す写真。

<私の近況>

 イスラエルのガザへの攻撃に、日々胸を痛めています。1983年3月、私は怪我で行かれなくなった母の代役で、イスラエルへの旧約聖書の遺跡を訪ねる旅に急きょ参加しました。今はどこで撮ったのか記録もないのですが、その旅の写真を2枚。20歳の私が写っています。

著者

筆者_宮子あずさ氏
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。

著書

「まとめないACP 整わない現場,予測しきれない死(医学書院)、『看護師という生き方』(ちくまプリマ―新書)、『看護婦だからできること』(集英社文庫)など多数。ホームページ:ほんわか博士生活(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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