第76回 姓名正しく書けますか
公開日:2025年3月14日 08時20分
更新日:2025年3月14日 08時20分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
皆さんは、ご自身の姓名を正しく書けるだろうか。この時の「正しく」というのは、戸籍と同じという意味。知っているつもりで知らない人が意外に多く、しばしば困るのが、死亡届の提出時である。
患者さんが亡くなると、死亡届を役所に提出するが、この時記載する姓名は戸籍と同じでなければならない。しかし、近しい身内であっても、これを理解しておらず、「記載された氏名が間違っている」と訂正を求められる場合がある。
緩和ケア病棟で働いていた時には、ある時期こうしたトラブルが重なり、管理者である私が、正しい名前を聞いておくようになった。
特にトラブルが多かったのは、「渡辺」の「辺」、「斉藤」の「斉」。いずれも、旧字体の種類が多い上に異体字も存在している。
普段は新字体で簡便な字を使っている人も多く、「本当の名前は難しい字なんだけど、よくわからない」という人も、実際何人もいた。
保険証はというと、これも当てにならない。結局最後は、戸籍を見てもらうしかない。実際、がん専門病院の中には、入院時に持参する書類の中に、戸籍抄本もあると聞く。
いかにも死亡届のためで、抵抗感はあるのだが、確かにこれに代わる確実な方法がないのも事実。最後まで悩み、結局そこまでは踏み切れなかった。
実は私の母が亡くなった時も、若干の混乱を経験した。
母は父の死後旧姓の「吉武」という姓に戻している。従って、この姓で死亡届を出したのだが、親族の指摘で、元々の旧姓は「吉」の横棒が、上より下が長い、異体字だったと初めて聞いた。
葬儀場に出す名前の記載が違っていたか、とドキドキしたが、確認の結果、間違いではなかった。母は旧姓に戻る際、「吉」の字を上の方が長い新字体に変えて登録していたのである。
国もなるべく旧字や異体字は減らしたいようで、改姓していた人が旧姓に戻る際、新字体に直すのは問題なく受け付けてくれる。母も、この時新字体としたようで、知らなかった親族は驚いていた。字体へのこだわりは人それぞれ。母は性分から考えて、書きやすさを優先したように思う。
そして私はといえば、母の旧姓がそのような異体字だったとはつゆ知らず。もし母が元々の異体字にこだわって旧姓に戻していたら、間違えるところであった。
今、人生の閉じ方を考える終活が盛んになっている。その際は、ぜひ名前の確認もお勧めしたい。
<近況>
私は何かに集中すると、別のことを忘れる名人なので、タイマーを愛用しています。職場ではユニフォームのポケットに入れて、「15分後に患者さんのところに点滴の残量を見にいく」などという時に、タイマーを15分セット。こうすれば、他の作業に集中していても、忘れずに済みます。
この写真は20年近く前の写真ですが、胸元に小さな緑のクリップ型タイマーをつけています。忘れっぽい方に、タイマーは絶対お勧めです。この原稿を書いている今も、私の手元ではタイマーが稼働中。閉店までにスーパーに行けるよう、カウントダウンしています。
著者

- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
「まとめないACP 整わない現場,予測しきれない死(医学書院)、『看護師という生き方』(ちくまプリマ―新書)、『看護婦だからできること』(集英社文庫)など多数。ホームページ: