サクセスフル・エイジングとは
公開日:2016年7月25日 07時00分
更新日:2022年11月24日 14時32分
サクセスフル・エイジングの定義
厚生労働省が公表している令和3年(2021年)の簡易生命表1)によると、日本人の平均寿命は、男性81.47歳、女性87.57歳に達しています。つまり、定年の年齢を65歳とした場合、男性では15年以上、女性では20年以上の人生が残っていることになります。
誰でも、定年後の人生を「幸福に送っていきたい」と考えるでしょう。こうした想いに応え、「サクセスフル・エイジング(幸福な老い)」とは何かを考えていくことが、老年社会学に求められることかもしれません。
サクセスフル・エイジングとは、アメリカで生まれた言葉であり、「日本語で正確に言い表す和訳はない」とされています。サクセスフル・エイジングの持つ意味とは「良い人生を送り、天寿を全うすること」とされており、日本に元々ある言葉では「生きがい」や「幸福な老い」がその意味に最も近いものではないかと考えられています。
サクセスフル・エイジングを構成する要素は、アメリカや日本の研究者の中でも意見が分かれており、画一したものは提示されていません。しかし、おおよその意見としては、
- 長寿
- 生活の質(QOL)
- 社会貢献(Productivity)
などの要素で構成されると考えられています。
生活の質(QOL)
生活の質(QOL)の構成要素を細かくみてみると、
- 身体の健康
- 機能的な健康(ADL, IADLなど)
- 認知能力
- 時間の消費 (レクリエーションなど)
- 社会的行為 (独創的リーダーシップなど)
とされています。
社会貢献(Productivity)
社会貢献(Productivity)の構成要素としては、
- 有償労働
- 無償労働
- 相互扶助
- ボランティア活動
- 保健行動
などが該当すると考えられています。
現在も、このような「サクセスフル・エイジングの構成要素」に関する研究が進められており、文献等によっては微妙に異なることがあります。
また、構成要素にある社会貢献は、元々サクセスフル・エイジングの中には含まれていませんでした。その理由は「有償労働」という言葉が入っているからであると考えられてきました。しかし、多くの日本人が持つ「生涯現役」という活動理論や、日本人の労働に対する倫理観や美意識によって組み込まれたものであり、初期のサクセスフル・エイジングの概念から変化している部分であると考えられます2)。
実際、日本人高齢者は「働けるうちはいつまでも働きたい」という人が28.9%であり、働きたい年齢に制限を設けている群を加えても約71.9%の高齢者が就労に意欲的であることが分かっています3)。
サクセスフル・エイジングの様々なモデル4)
現在のところ、サクセスフル・エイジングには、確固たる統一したモデル像があるわけではありません。主に社会学や医学、倫理学などの領域で高齢者の加齢について研究を進めている研究者たちが、自らの関心や専門性によって独自に作り上げているものが多くなります。ここでは、さまざまなモデルの具体例を挙げていきます。
社会学におけるモデル
まずは社会学におけるモデルです。これは1950年ごろに提唱された活動理論を指します。高齢者も中年と同じような心理、社会的ニーズを持っているということに着目し、活動から引退させようという社会の風潮を否定、中年と同じように活動を継続させるということをサクセスフル・エイジングとして定義しています。
また、活動理論と反対の意見として出されたのが離脱理論で、これは社会システムが高齢者から若い人に権力を移行させ、高齢者も社会の要請に応じて権力を若い人に譲るようにという理論です。社会学からはこのように社会全体の受け入れと排除という全く異なる視点からモデルを提示しています。
医学におけるモデル
次は、医学におけるモデルです。医学の分野では1990年に提示されたモデルがあります。「加齢に伴う変化は、人為的に制御可能なリスク要因を排除することで予防できる」というものです。医学では、エイジングとサクセスフル・エイジングを区別し、サクセスフル・エイジングは「疾患に罹患していない、または疾患のリスク要因を有しておらず、機能に障害がなく、社会参加をしている場合」としています。
心理学におけるモデル
最後に心理学的なモデルです。心理学では、成長・発達という視点から想定される良好な心理的状態を、サクセスフル・エイジングとしています。良好な状態は、自己受容、人生の意味、環境制御、人間的成長、自律性、肯定的人間関係の6要素で表すというものです。さらに、これらの要素に加え、高齢者が直面するであろう「衰退」に適応していくモデルが、「補償を伴う選択的最適化」という名称で、提唱されています。