明るい長寿社会とは
公開日:2016年7月25日 21時00分
更新日:2022年3月22日 11時33分
日本人の平均寿命と健康寿命
厚生労働省によると、令和元年(2019年)の日本人の平均寿命は、男性81.41年、女性87.45年となっています1)。厚生労働省によると、令和元年(2019年)の日本人の平均寿命は、男性81.41年、女性87.45年となっています1)。また、健康上の問題に制限されることなく日常生活をおくることができる期間のことを「健康寿命※」といいますが、令和元年(2019年)の日本人の健康寿命は、男性で72.68年、女性で75.38年でした。健康寿命は図1のとおり過去10年ほどで比較すると、男女ともに数年伸びています。今後も平均寿命と健康寿命は延びていくと予測できます。
- ※ 健康寿命:
- 健康寿命は現在、日本では「日常生活に制限のない期間の平均」と「自分が健康であると自覚している期間の平均」の2つが健康寿命として算出されている。「日常生活に制限のない期間」は、3年ごとに実施される国民生活基礎調査(大規模調査)の健康票における「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という質問に対する、「ある」という回答の割合を「不健康割合」とみなし、「自分が健康であると自覚 している期間」は、同調査の「あなたの現在の健康状態はいかがですか」という質問に対する、「あまりよくない」と「よくない」という回答の割合を「不健康割合」とみなして、サリバン法により算出した期間のこと。なお、健康寿命、平均寿命ともに、正確には「年齢」ではなく「期間」の指標であるため、単位は「歳」ではなく「年」とすることが適切である点に注意すること。
老年学の先進国であるアメリカでは、高齢者の望ましい老いの姿を「サクセスフル・エイジング(健やかな老い)」と呼び、高齢になっても心身の障害がなく、いつまでも自立した幸せな社会生活を送ることが望ましいと考えてきました。さらに、高齢者が長く貯えてきた生産的な側面をproductivity(プロダクティビティ)といいますが、これは「サクセスフル・エイジング(健やかな老い)」の必要条件の一つでもあります。
高齢者の若返り
高齢者の若返りに対し、最も有効であるのが「高齢者の社会活動」であると考えられています。その中で重要視されるのが、高齢者におけるプロダクティビティです。この考え方が提唱されたころ、高齢者におけるプロダクティビティの定義とは
- 有償労働(就労)
- 無償労働(家事手伝い、介護や孫の世話など)
- ボランティア活動
- 相互扶助
- 保健行動(自分自身による健康管理)
の5つの活動とされました。つまり、当初のプロダクティビティの定義によると有償、無償を問わずに経済的価値を伴う物品やサービスを産出することであり、さらに、健康障害を予防する「保健活動」や、お互いが助け合うことを指していました。
しかし、世代間の協調、次世代への貢献という視点が重視されるようになり、高齢者の幸福を優先することや、「自分のため」という目的での保健行動や趣味・レクリエーション活動が、除外されるように考え方が変わってきました。そこで、米国の老年学者Herzog博士は、新たな定義として、「有償労働」「無償労働」「他人への支援提供(=ボランティア+個人的な相互扶助)」の3種類の活動をプロダクティビティであると定義しました。この定義の下で社会活動をすることによって高齢者の若返りを推進しているのです。
健康長寿社会2)
2013年に閣議決定された「日本再興戦略」という成長戦略。ここではさまざまな分野の成長戦略が掲げられていますが、今後、特に力を入れていくテーマの一つとして「国民の『健康寿命』の延伸」が挙げられています。
健康長寿が推進された社会、いわゆる「健康長寿社会」とは、2030年の日本社会にあるべき姿であると、政府が考えている社会像を指します。具体的には次の通りです。
- 効果的な予防サービスや健康管理の充実により、健やかに生活し、老いることができる社会
- 医療関連産業の活性化により、必要な世界最先端の医療等が受けられる社会
- 病気やけがをしても、良質な医療・介護へのアクセスにより、早く社会に復帰できる社会
わが国の高齢者からはこれまでにも「若い者の迷惑にならないように......」「若い者にはできるだけ世話をかけないように......」という言葉が聞かれることがありました。しかし、少子化によって頼りにしたい「若い者」が少なくなり、これからの時代は本当の意味で「若い者の世話になる」ことが困難になると考えられます。これからの高齢者は、健康寿命をできるだけ伸ばし、なんらかの社会的な役割を担い続け、いつまでも元気に過ごしていくことが、明るい長寿社会の一助となるでしょう。
高齢者像の変化3)
現在の日本は、少子高齢化がますます進む国です。戦後のベビーブーム世代と言われる「団塊の世代」は、2015年に65歳以上になり、2025年には75歳以上の「後期高齢者」に到達します。特に、高齢者の増加数、増加率は、都市部で大きくなる傾向があります。
また、平均寿命が延びたことで、高齢者像は大きく変化しました。社会活動や地域社会との関わりを積極的に行う「生涯現役」という考え、年をとっても自分のことを自分で行うという「各々の価値基準」を持つ高齢者が増加しました。さらに、健康への意識を高める高齢者も増え、生活習慣病による受診率も増加しています。
一方で、家族像の変化による独居高齢者の増加、結果的に「子への依存心の低下」も見られるようになっており、高齢者は今後、健康な体を維持し、日常生活を自分の力で遂行し続ける力が求められます。
参考文献
- みずほ情報総研:NAVIS 021 | SEPTEMBER 2013~特集:健康長寿社会を目指して~予防医療と医療・介護分野の新産業育成