高齢者の経済状況
公開日:2019年5月31日 10時00分
更新日:2022年7月21日 10時42分
高齢者の経済状況について
我が国の男性、女性ともに平均寿命が80歳を超えるにようになり1)、高齢者は健康と同様に老後の経済的な暮らしについて不安を感じています。内閣府の平成30年(2018年)版の高齢社会白書によると、内閣府が60歳以上の男女を対象に行った調査(平成28年(2016年) 高齢者の経済・生活環境に関する調査)では「経済的な暮らしに心配はない」と感じている高齢者は約64%というデータがあります2)。しかし、36%の人、つまりおよそ3人に1人は経済的な暮らしに心配があるということです。
平成13年(2001年)、平成18年(2006年)、平成28年(2016年)の同じ調査による高齢者の経済的な意識については表1の通りです。調査当時の日本の景気の動きや高齢者の収入、家庭構成、貯金などにより経済的な暮らしについての意識はさまざまです。
高齢者の経済状況とは実際にはどのようなものなのでしょうか。
平成13年 (2001年) (n=2,077) | 平成18年 (2006年) (n=1,729) | 平成23年 (2011年) (n=2,095) | 平成28年 (2016年) (n=1,976) | |
---|---|---|---|---|
家計にゆとりがあり、 全く心配なく暮らしている |
15.1 | 11.5 | 18.0 | 15.0 |
家計にあまりゆとりはないが、 それほど心配なく暮らしている |
56.4 | 49.2 | 53.0 | 49.6 |
家計にゆとりがなく、 多少心配である |
21.2 | 27.2 | 21.7 | 26.8 |
家計が苦しく、 非常に心配である |
6.7 | 10.6 | 6.6 | 8.0 |
その他 | - | 0.2 | 0.3 | 0.6 |
わからない | 0.6 | 1.3 | 0.4 | - |
心配はない(計) | 71.5 | 60.7 | 71.0 | 64.6 |
心配である(計) | 27.9 | 37.8 | 28.3 | 34.8 |
高齢者世帯の所得4)
平成29年(2017年)に行われた厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、高齢者世帯の平均所得は、平成28年(2016年)の1年間で318.6万円、全世帯平均は560.2万円となっており、高齢者世帯の平均所得はその他の世帯と比較すると56%程度に留まっています(図1、表2)。
全世帯 | 高齢者世帯 | 児童のいる世帯 | |
---|---|---|---|
2008年 | 547.5 | 297.0 | 688.5 |
2010年 | 538.0 | 307.2 | 658.1 |
2012年 | 537.2 | 309.1 | 673.2 |
2014年 | 541.9 | 297.3 | 712.9 |
2016年 | 560.2 | 318.6 | 739.8 |
また、高齢者の年間所得を階層別に見てみると、150万円~200万円が最も多く約13%を占めており、その前後となる100万円~150万円が約12%、200万円~250万円も約12%、50万円~100万円も約11%と、所得が250万円以下という高齢者世帯が約半数となっています。
さらに、その所得のうち、公的年金・恩給が占める割合が100%で、年金のみで暮らしているという高齢者は、全体の約54%と半数以上です。さらに年金の割合が80%以上という世帯を合わせると約66%となります。高齢者世帯の多くは公的年金・恩給で暮らしていることがうかがえます(図2、表3)。
公的年金・恩給を受給している高齢者世帯における公的年金・恩給の 総所得に占める割合 | 世帯数の構成割合(%) |
---|---|
100%の世帯 | 52.2 |
80%~100%の世帯 | 13.6 |
60%~80%の世帯 | 13.5 |
40%~60%の世帯 | 10.8 |
20%~40%の世帯 | 6.2 |
20%未満の世帯 | 3.8 |
高齢者の貯蓄
それでは、高齢者の貯蓄額はどうでしょうか。
総務省の平成29年(2017年)の「家計調査」の結果から、二人以上の世帯を対象とした世帯主の年齢別の純貯蓄(貯蓄額から負債額を引いた額)を全年齢階級別に見ていくと、世帯主の年齢階級が高くなるにつれて、1世帯当たりの純貯蓄は増加しています。特に世帯主が60~69歳の世帯や70歳以上の世帯では、他の年齢階級よりも大きな純貯蓄があることが分かります(表4)。
平均 | 29歳以下 | 30歳~39歳 | 40歳~49歳 | 50歳~59歳 | 60歳~69歳 | 70歳以上 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
貯蓄額 | 1,812 | 397 | 634 | 1,074 | 1,699 | 2,382 | 2,385 |
負債額 | 517 | 611 | 1,203 | 1,055 | 617 | 205 | 121 |
純貯蓄額 | 1,295 | -214 | -569 | 19 | 1,082 | 2,177 | 2,264 |
また、内閣府の平成30年(2018年)版の高齢社会白書によると負債額を考慮せずに、貯蓄現在高だけを見た場合、世帯主の年齢が60歳以上の高齢者世帯の中央値は1,567万円、その他の全世帯の中央値は1,064万円(いずれも二人以上の世帯)と、高齢者世帯がその他の世帯の約1.5倍となっています。
さらに、4,000万円以上の高額な貯蓄がある世帯を年齢階級別に見ると、世帯主の年齢が60歳以上の高齢者世帯(二人以上の世帯)では18.6%、全世帯では12.6%と、高齢者世帯の方が高額な貯蓄のある世帯が多くなっています2)。
高齢者世帯の収入は、その他の年代の世帯と比較すると高くはないものの、貯蓄額に比較的余裕がある世帯が多いということが分かります。
また、高齢者の貯蓄の目的については、「より良い生活をするため」や「旅行や大きな買い物をするため」などの、生活の楽しみに使用するといった回答は全体のわずかに留まり、約半数が「万一の備えのため」と回答しています2)。
高齢者の生活保護者数2)
経済的に困窮している人を対象に、最低限度の生活を保障するための生活保護制度は、年々その受給者が増加しています。生活保護受給者数の推移をみると、平成17年(2005年)は143万人、平成27年(2015年)は213万人と、10年間で約50%も増加していることになります。
その中で、65歳以上の生活保護受給者数をみると、平成27年(2015年)は97万人で全体の約46%を占めており、平成17年(2005年)の56万人と比較しても、70%以上も増加しています。
年々高齢化が進んでいることを考えれば、65歳以上の受給者数の増加や、占める割合の増加については納得がいきますが、全人口に占める生活保護受給者の割合が1.67%なのに対して、65歳以上の人口に占める生活保護受給者の割合は2.86%となっており、他の年代と比べて、生活に困窮する高齢者は多いと言えます。
生活に困窮する理由としては、収入や貯蓄が不十分であることはもちろん、高齢になるにつれて医療費がかかることも理由の一つと考えられます。厚生労働省保険局「医療保険に関する基礎資料」によると一人当たりの医療費を年齢階級別に見てみると、平成27年(2015年)の平均額は、65~69歳が約47万円、70~74歳が約63万円、75~79歳が約80万円と、年齢が上がるにつれて医療費は高額になっており、80歳以上もさらに上昇しています(図3)。
医療保険制度により、自己負担額はこの内の一部のみですが、前述した高齢者の所得や貯蓄と合わせて考えると、決して安くはありません。
寿命が長くなったことで、定年後に自分の時間を十分持てるなどの楽しみがある一方、生活費や医療費のことなどを考えると、健康のことはもちろんのこと、老後の蓄えには一層の余裕が必要といえます。