高齢者の就業
公開日:2019年5月31日 09時30分
更新日:2019年6月 3日 12時00分
定年後に働くこと
「働く」ということは、何かの目的のために行動することです。働くことで、人との繋がりを持ったり、やりがいを感じたりと、金銭の収入以外にも得るものがたくさんあります。
定年後も働くことは、働く人にとって以下のよう良い効果があるといわれます。
- 社会との繋がりができる
- 心の健康を保てる
- 健康寿命を延ばせる
- 医療費が圧縮できる
- 収入源を確保できる
身体が動く限り働きたいという人は多いのではないでしょうか。そこで、高齢者の就業事情について各調査データをもとに解説します。
高齢者の労働人口
総務省統計局の「労働力調査」によると、65歳以上の高齢者の労働力は年々増加しています。平成30年(2018年)の全国の労働力人口※1は6,830万人でしたが、そのうち65~69歳の労働力人口は450万人、70歳以上でも425万人、合わせて875万人、全体の12.8%となっています1)。働く人が10人いれば1人以上は65歳以上の高齢者ということです。
全体と比較して高齢者の労働力の割合が高いことは、少子高齢化であることを踏まえると当然の結果であり、実際に労働力人口に占める65歳以上の割合は、1980年の4.9%以降上昇し続けています(図1)。
- ※1 労働力人口:
- 労働力人口とは、15歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせたもの
それでは、それぞれの年代における労働力人口比率※2はどうでしょうか。
総務省統計局の「労働力調査」によると平成30年(2018年)の65~69歳の労働力人口比率は47.6%となっており、ほぼ半数です。2004年の34.4%以降、上昇し続けています。また、平成30年(2018年)の70~74歳の労働力人口比率も30.6%となっており、こちらも2004年の21.4%以降、上昇し続けています。75歳以上になると9.8%となり、2000年以降、8~9%を推移しています1)。
65~74歳の高齢者は、2004年以降、労働人口が増えているだけでなく、労働人口比率も増え続けているようです。
- ※2 労働力人口比率:
- 労働力人口比率とは、15歳以上人口に占める「労働力人口」の割合
高齢者の都道府県別の有業率2)
全国的に働く高齢者が増えているようですが、地域差はあるのでしょうか。総務省統計局の「平成29年就業構造基本調査」の結果から、65歳以上の有業率を都道府県別に見てみると、ほとんどの都道府県で65歳以上の有業率は20%台となっており、30%台は山梨県と長野県のみ、10%台は沖縄のみ(19.7%)でした(表1、表2)。
順位 | 都道府県 | 65歳以上の有業率 |
---|---|---|
1位 | 長野県 | 30.4% |
2位 | 山梨県 | 30.3% |
3位 | 福井県 | 27.8% |
4位 | 東京都 | 27.7% |
5位 | 栃木県、岐阜県 | 27.3% |
順位 | 都道府県 | 65歳以上の有業率 |
---|---|---|
1位 | 沖縄県 | 19.7% |
2位 | 北海道 | 20.7% |
3位 | 兵庫県、奈良県 | 20.8% |
4位 | 大阪府 | 21.5% |
5位 | 秋田県、徳島県 | 22.5% |
長野県と沖縄県との差は約10%ありますが、その他の都道府県では、有業率の大きな開きは見られませんでした。
高齢者の就業状況
高齢者の就業状況はどうなっているのでしょうか。総務省統計局の「労働力調査」によると平成30年(2018年)の全産業の男女15歳以上の就業人口※3は6,664万人です。15歳以上の全人口11,101万人に対し、60%の人が何らかの仕事に就いていることになります。55~59歳の就業率は81.7%、60~64歳は68.8%、65歳以上は46.6%です(表3)1)。70歳以上になると、働いている人の数自体が減少しますが、それでも70歳~74歳は30.2%、75歳~79歳は16.6%の高齢者が働いています。
人口(万人) | 就業人口(万人) | 就業率(%) | |
---|---|---|---|
55~59歳 | 763 | 623 | 81.7% |
60~64歳 | 763 | 525 | 68.8% |
65~69歳 | 946 | 441 | 46.6% |
70~74歳 | 815 | 246 | 30.2% |
75~79歳 | 686 | 114 | 16.6% |
80~84歳 | 534 | 43 | 8.1% |
85歳以上 | 567 | 17 | 3.0% |
- ※3 就業人口:
- 就業人口とは社会に存在する人口の中でも、職業に就いて収入を得ている人間の数のことをいう。
また、一方で正規・非正規の職員・従業員の比率でみると男女ともに60歳を境に非正規の職員・従業員の比率は大幅に上昇しています(表4~6)。男性と比較して女性の方が、55歳~59歳の時点で非正規の比率が高いものの、60 歳を境に非正規の職員・従業員比率が急激に上昇している点は、男女で共通しています。
正規の職員・従業員(万人) | 非正規の職員・従業員(万人) | 正規の職員・従業員の割合(%) | 非正規の職員・従業員の割合(%) | |
---|---|---|---|---|
55~59歳 | 336 | 179 | 65.2% | 34.8% |
60~64歳 | 151 | 250 | 37.7% | 62.3% |
65~69歳 | 69 | 218 | 24.0% | 76.0% |
70~74歳 | 28 | 101 | 21.7% | 78.3% |
75~79歳 | 10 | 32 | 23.8% | 76.2% |
80~84歳 | 3 | 6 | 33.3% | 66.7% |
85歳以上 | 1 | 1 | 33.3% | 33.3% |
正規の職員・従業員(万人) | 非正規の職員・従業員(万人) | 正規の職員・従業員の割合(%) | 非正規の職員・従業員の割合(%) | |
---|---|---|---|---|
55~59歳 | 243 | 33 | 88.0% | 12.0% |
60~64歳 | 109 | 112 | 49.1% | 50.5% |
65~69歳 | 47 | 114 | 29.2% | 70.8% |
70~74歳 | 18 | 54 | 25.0% | 75.0% |
75~79歳 | 5 | 17 | 22.7% | 77.3% |
80~84歳 | 1 | 4 | 20.0% | 80.0% |
85歳以上 | 1 | 1 | 100% | 100% |
正規の職員・従業員(万人) | 非正規の職員・従業員(万人) | 正規の職員・従業員の割合(%) | 非正規の職員・従業員の割合(%) | |
---|---|---|---|---|
55~59歳 | 93 | 146 | 38.9% | 61.1% |
60~64歳 | 41 | 138 | 22.9% | 77.1% |
65~69歳 | 21 | 105 | 16.7% | 83.3% |
70~74歳 | 10 | 47 | 17.5% | 82.5% |
75~79歳 | 5 | 14 | 26.3% | 73.7% |
80~84歳 | 2 | 2 | 50.0% | 50.0% |
85歳以上 | 1 | 1 | 100% | 100% |
完全失業率について
15歳以上で働く意思のある労働力人口のうち、仕事がなく求職活動をしている完全失業者が占める割合を完全失業率といいますが、高齢者の各年代別の完全失業率の推移をみると、平成29年(2017年)では60~64歳が2.8%、65歳以上が1.8%と低く、希望に沿っているかどうかは別として、働きたい人は、比較的働き口のある状態といえます(図2)。
高齢者雇用確保措置3)
高齢者の完全失業率の低下には、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」も関係しています。この法律では、65歳までの安定した雇用を確保するために、企業に「定年制の廃止」、「定年の引き上げ」、「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置を取るように義務付けているのです。
実際に従業員31人以上の企業約16万社のうち、高齢者雇用確保措置を実施している企業の割合は99.7%(155,638社)で、希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は75.6%(118,081社)になっています。
高齢になってから全く新しい職種や職場に慣れるのは難しい面がありますが、希望すれば、長く務めた企業にその先も務められるというのは、高齢者の就労意欲を高めるためにも有効かもしれません。
高齢者の就業意欲2)
現在働いている60歳以上の高齢者のうち、「今後も働きたい」という意欲のある人はどれくらいいるのでしょうか。
内閣府が公表した平成26年(2014年)の「高齢者の日常生活に関する意識調査」によると、42%の人が「働けるうちはいつまでも」働きたいと回答しています。70歳くらいまで、もしくはそれ以上も働きたいという回答と合計すると、79.7%が「今後も長く働きたい」と考えていることが分かりました。一方で「仕事をしたいと思わない」と回答した人は、わずか1.8%でした(図3)。
また、60歳以上の起業家の割合は、昭和54年(1979年)には6.6%でしたが、2012年には32.4%に上昇しており、高齢者の就業意欲を裏付ける結果となっています(図4)。