高齢女性の生きがい
公開日:2019年6月21日 09時00分
更新日:2023年8月15日 13時39分
超高齢社会の日本では、男性よりも女性の方が寿命が長く、一人で暮らす高齢女性も増えています。高齢女性が生きがいを感じて生活することは生涯を健康で過ごすための活力となります。高齢女性の生きがいの実態についてみていきましょう。
高齢女性の生きがいの実態
高齢女性が生きがいを感じているか、どのようなことに生きがいを感じるのか、実態を調査報告から知り、今後の課題について考えていきましょう。
日常生活の満足度
内閣府の平成26年(2014年)度の高齢者の日常生活に関する意識調査結果より、60歳以上の高齢女性の日常生活の満足度を見てみると、満足している(13.2%)、まあ満足している(55.9%)を合わせた「満足している」の計は69.1%、やや不満である(19.2%)、不満である(8.7%)を合わせた「不満である」の計は27.9%で、日常生活に満足している高齢女性は約7割いることがわかります(グラフ1、表1)。
一方、男性は、日常生活に「満足している」の計は67.3%、「満足していない」の計は29.8%でした(グラフ1、表1)。女性の方が日常生活に満足している人の割合は多くなっています。
平成26年(2014年)の調査結果を平成21年(2009年)と比較すると、男女ともに日常生活の満足度は減少しており、不満の割合が増えています。
満足度 | 平成21年(2009年)(女性) | 平成26年(2014年)(女性) | 平成21年(2009年)(男性) | 平成26年(2014年)(男性) |
---|---|---|---|---|
満足している | 28.0 | 13.2 | 24.5 | 10.8 |
まあ満足している | 54.6 | 55.9 | 56.7 | 56.5 |
やや不満である | 12.9 | 19.2 | 13.9 | 22.0 |
不満である | 4.5 | 8.7 | 4.9 | 7.8 |
わからない・無回答 | ― | 3.0 | ― | 2.9 |
高齢女性が生きがいを感じている割合
60歳以上の高齢女性が、日常のなかで喜びや楽しみなどの生きがいをどのくらい感じているのでしょうか。
平成26年(2014年)の調査では、十分感じている(16.7%)、多少感じている(50.5%)を合わせた「生きがいを感じている」の計は67.2%、あまり感じていない(20.9%)、全く感じていない(3.7%)を合わせた「生きがいを感じていない」の計は24.6%です(グラフ2、表2)。
一方、男性は平成26年(2014年)の調査では「生きがいを感じている」の計が63.7%、「生きがいを感じていない」の計が29.4%でした(グラフ2)。女性の方が生きがいを感じている人の割合は高くなっています。
平成26年(2014年)の調査結果を平成21年(2009年)と比較すると、男女ともに生きがいを感じている人の割合は減少しており、生きがいを感じない人の割合が増えています(グラフ2、表2)。
程度 | 平成21年(2009年)(女性) | 平成26年(2014年)(女性) | 平成21年(2009年)(男性) | 平成26年(2014年)(男性) |
---|---|---|---|---|
十分感じている | 28.8 | 16.7 | 29.2 | 14.7 |
多少感じている | 50.5 | 50.5 | 48.5 | 49.0 |
あまり感じていない | 15.9 | 20.9 | 18.0 | 25.7 |
全く感じていない | 3.2 | 3.7 | 3.3 | 3.7 |
わからない・無回答 | 1.6 | 8.2 | 1.1 | 6.9 |
高齢女性が生きがいを感じる時
高齢女性が生きがいを感じる時はどんな時かを見てみると、「友人や知人と食事、雑談している時」が53.1%で最も多く、次いで、「趣味やスポーツに熱中している時(41.3%)」、「家族との団らんの時(40.9%)」、「旅行に行っている時(34.2%)」の割合が多くみられました(グラフ3、表3)。
平成8年(1996年)の高齢女性が生きがいを感じるときを見てみると、「孫など家族との団らんの時(49.0%)」が最も多く、次いで「友人や知人と食事,雑談している時(34.8%)」、「趣味やスポーツに熱中している時(32.1%)」、「テレビを見たりラジオを聞いている時(32.0%)」でした。
高齢女性の生きがいを感じる時の調査結果を見ると、平成8年(1998年)と比べて、平成26年(2014年)では、「家族との団らんの時」よりも、「友人や知人と過ごす時」や、「趣味やスポーツに打ち込む時」の割合が高くなっています。高齢女性が家族との時間よりも自分の時間を大切に思うのは自己実現欲求の強まりによると考えられます。
平成8年(1996年) | 平成26年(2014年) | |
---|---|---|
趣味やスポーツに熱中している時 | 32.1 | 41.3 |
友人や知人と食事、雑談している時 | 34.8 | 53.1 |
家族との団らんの時 | 49.0 | 40.9 |
孫の面倒をみている時 | ― | 27.0 |
旅行に行っている時 | 31.3 | 34.2 |
仕事に打ち込んでいる時 | 24.3 | 20.2 |
他人から感謝された時 | 13.5 | 27.0 |
社会奉仕や地域活動をしている時 | 7.1 | 12.8 |
収入があった時 | 6.2 | 13.9 |
勉強や教養などに身を入れている時 | 8.4 | 11.0 |
若い世代と交流している時 | 8.4 | 10.7 |
高齢女性の自己実現欲求とは
農村の中高年女性の老後意識を11年間にわたって追跡した研究報告によると、高齢の親と結婚した子供家族との同居率が高い農村地域においても、「子供家族と一緒に暮らす」、「老後の経済的な生活は子供に依存する」、「自分が不自由になったら長男の嫁に介護をしてもらう」などの伝統的意識が衰退し、「夫に先立たれることや子供と一緒に暮らせなくても一人で暮らす」、「元気なうちは仕事をして生計を立てる」という家族との分離、自律の意識が高まっていることが示されています4)。
人間の欲求を5つの階層に分けたマズローの欲求5段階節では、第1段階の生理欲求、第2段階の安全欲求、第3段階の所属・愛欲求、第4段階の尊敬・承認欲求、第5段階の自己実現欲求が階層化され、低次の欲求が満たされると高次の欲求へと向かうとあります5)。
昔に比べて現代の高齢者は長生きで元気です。生活の利便性も向上し、経済的な安定も得られやすい社会になっており、生活時間にゆとりが持てるようになりました。また、医療や介護の充実によって利用できるサービスも増えており、将来的な不安も軽減されやすくなっています。
現代は低次の欲求が満たされやすい環境であり、ライフステージにおいて家庭中心の生活を続けてきた高齢女性において、義両親の旅立ちや子供の巣立ちをきっかけに、自分の生活の充実に目を向ける時間が持てるようになります。高次の欲求である「家族や社会とのつながり」や「社会や地域・他者との認め合い」、そして、「自分を向上するための自己実現の欲求」が高齢者女性の中で強まることが考えられます。
高齢女性の自己実現欲求と生きがい
自己実現欲求は自分自身の向上であり、自己実現欲求のために社会活動への参加や生涯学習を行うことが挙げられます。
中高年の生涯学習に対する意識と実態に関する調査研究によると、高齢者の生涯学習を行っている割合では、60歳以上の高齢男性は38.9%、高齢女性は42.1%で女性の方が3.2%高くなっています。学習の動機は「老後の生活を充実させたい(男性60.9%、女性63.7%)」、「趣味を豊かにしたい(男性50.0%、女性60.5%)」、「健康を維持・増進したい(男性48.4%、女性60.5%)」、「生きがいを持ちたい(男性49.2%、女性55.4%)」、「生活をより良くしたい(男性27.3%、4女性40.1%)」、といった自己実現欲求を満たす目的につながる動機は男女で比較すると女性で高いことがみられました6)。
一方で男性の割合が高かった動機は「社会の変化に遅れたくない(男性31.3%、女性19.7%)」、「教養を高めたい(男性38.3%、女性27.4%)で、社会的な位置づけとして生涯学習をとらえていることが伺えます6)。
高齢女性の生きがいの課題
昔は、子どもや孫までの三世帯が一緒に暮らしている家族も多く、高齢女性の生きがいの多くは「家族や孫と団らんしている時」でした。しかし、長寿で元気な高齢者の増加や、安定・安心が得られやすい社会環境への変移とともに、自分自身の向上・充実を図る自己実現のために趣味やスポーツ、社会参加や生涯学習、友人と過ごすことを生きがいとする高齢女性が増えてきています。
現在の高齢女性は、義両親や子供家族との同居、地域との密接なつながりの中での生活を経験してきており、ライフステージにおいて、生活や仕事、環境の変化を多く経験し、必要に応じて自分の進む道を選択・適応してきています。そのため、仕事一筋で生活してきた男性が退職後の喪失感によって引きこもるという一方で、老後という生活環境や役割が変わるステージにおいても、自己実現に向けての生活にスムーズに移行していくことが可能であると考えられます。
これからの日本において、女性が社会で活躍する機会が増え、女性も定年まで働く人が増えていくことが予想されます。忙しく働いていると地域との接点を持つ時間も持ちにくくなり、地域社会とのつながりが希薄化していくことが伺えます。老後に生きがいを抱きながら生活していくためには、老後までの生活における地域社会や友人・仲間とのつながり、自分の興味・関心を大切にしていくことが必要となってきます。
今後の女性のライフスタイルの変化や多様化に合わせて、女性が仕事や家庭での役割を持ちながらも、地域社会や友人・仲間とのつながりを持って生活できるような柔軟なサポート体制が必要となってくるでしょう。
参考文献
- 平成17年度 中高年の生涯学習に対する意識と実態に関する調査研究報告書 長寿社会政策研究所 公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構 研究調査本部