健康長寿ネット

健康長寿ネットは高齢期を前向きに生活するための情報を提供し、健康長寿社会の発展を目的に作られた公益財団法人長寿科学振興財団が運営しているウェブサイトです。

シニアの知恵と経験、 デジタル力で地域を元気に!(東京都三鷹市)

公開日:2025年4月10日 13時04分
更新日:2025年4月10日 14時10分

デジタルを強みに活動するNPO

 東京都三鷹市にデジタルを強みに活動を続けるシニアの団体がある。NPO法人シニアSOHO(ソーホー)普及サロン・三鷹(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(以下、シニアSOHO)では、情報通信技術(ICT)に精通したシニアが、スマホやパソコン講座の講師を務めている。受講者は主に同世代のシニアだ。

 副代表の黒澤繁夫さんは、「若い世代は当然ICTスキルを持っており、教えることができますが、受講者がシニアの場合、講師もシニアであることに大きな意味があります。その点で、シニアの人材は非常に価値があり、われわれも強い使命感を持っています」と語る。黒澤さんはNPO設立初期からのメンバーで、第4代代表も務めた。

退職した地域住民によるパソコン勉強会からスタート

 シニアSOHOは1999年に定年退職した地域住民によるパソコン勉強会からスタートした。その後、通産省(当時)の「シニアベンチャー支援事業」を受託し、約70名で任意団体「シニアSOHO普及サロン・三鷹」を設立。2000年には有料のパソコン教室を本格的に開始し、政府の「e-Japan2000」構想において延べ3,500人にパソコン指導を行った。同年、NPO法人として認可を受けた。

 以降、これまでの活動を通じて築いた信頼関係を基盤に、三鷹市や市教育委員会、企業等から事業を受託し、現在に至る。収入の約9割が受託事業や協働事業で、ICT事業と非ICT事業を含め、年間売上は約1億円と安定した収益基盤を持つ。会員数は現在83名、平均年齢は69.8歳、男女比は6:4。会員のうち約45名は、何らかの事業で報酬を得ながら活動している。

地域とシニアを元気にするコミュニティビジネス型NPO

 シニアSOHOのホームページには、「元気なシニアの居場所と出番を創る!〜シニアは知恵・経験・技術・人脈の宝庫、地域とシニアを元気にするコミュニティビジネス型NPO」とキャッチフレーズが掲げられている。「コミュニティビジネス」とは、地域の課題を地域住民がビジネス的手法で解決する事業を指す。シニアSOHOは、この理念に基づき、単なるICTスキルの習得にとどまらず、身に付けた技術や能力を地域に還元し、元気なシニアが報酬を得ながら生きがいを見出すことを目的としている。基本的に、仕事はすべて有償で請け負い、一人ひとりが責任を持つことで仕事の質を維持し、信頼を獲得している。

 代表の戸倉冬樹さんは、シニアSOHOが目指すシニア像について、「自ら行動し、考え、人を巻き込む。シニアになっても生き生きと活躍していくこと。シニアSOHOが、そうした意志を持つシニアたちの受け皿や活躍の場になればと考えています」と語る。現在65歳の戸倉さんは、会員の中では比較的若手で、入会3年目に代表に抜擢された経緯がある。

多種多彩な受託事業・協働事業

 NPO発足当初はパソコン事業がメインだったが、独自のテキストと指導方法が行政から評価され、徐々に事業分野を拡大し、多くの事業を受託するようになった。

 「三鷹いきいきプラス(三鷹市高齢者社会活動マッチング推進事業)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)」は、2001年からの受託事業で、市との協働事業の足掛かりとなった事業だ。元気なシニアが地域でいきいき活動するための情報紹介や支援が目的。シニアの豊かな知恵と経験を生かし、仕事やボランティア活動などをICT等を活用してマッチング。その他、交流会やICT講習会、サークル活動などを行っている。

シニアSOHO副代表のくろさわしげおさん、代表のとくらふゆきさん、副代表のあらきたかこさん、事務局長のたなかかずこさんの写真。
左からシニアSOHO副代表の黒澤繁夫さん、代表の戸倉冬樹さん、副代表の荒木高子さん、事務局長の田中和子さん

 「わくわくサポート三鷹(外部サイト)(新しいウインドウが開きます) 」は55歳以上を対象としたハローワークで、都と市から補助金を受け、2001年より事業を行っている。都内11か所あるシニア向け無料職業紹介所の1つであり、NPOが受託・運営している紹介所はここしかない。社員であるカウンセラー4名が業務に当たっている。

 2006年からは市教育委員会からの受託事業として、市内15の小学校で学校安全推進員(スクールエンジェルス)が学童の見守りを行っている。月曜から金曜まで100名以上がチームを組んで従事している。人材募集は「三鷹いきいきプラス」でも行う。地域の人が地域の子どもを守り、市民の雇用を創出し賃金が支払われる、コミュニティビジネスの基本といえる事業である。  同じく市教育委員会からの受託事業として、2006年より市内22小中学校のうち11校で、芝生の管理を行っている。芝生管理の専門家である会員の情熱で支えられている事業である。

学童の見守りを行うスクールエンジェルスの写真(画像提供:シニアSOHO)。
学童の見守りを行うスクールエンジェルス(画像提供:シニアSOHO)

 その他の主な受託事業として、市の小中学校における教師向けのICT支援が3年目を迎える。「生徒一人一台タブレット」の時代となり、教師を対象にデジタル機器のサポートを実施。教師より年長の会員がICT支援を行う構図が印象的だ。また、2024年には三鷹市地域ポイント事業において、スマホアプリ支援事業を受託。スマホ操作に不慣れな市民向けに講習会等を開催した。

シニアSOHOの事業の根幹であるICT関連事業

 コロナ禍で閉鎖したパソコン講座もあるが、シニアSOHOの事業の根幹はICT関連事業である。ここでICT講師として活動するためには、「シニア情報生活アドバイザー」や「スマホ・タブレットマスター」の資格を取得する必要がある。これらは一財)ニューメディア開発協会が認定する資格で、シニアSOHOで資格養成講座やスキルアップ講座を開催し、資格取得を支援するとともに、シニアの活躍の場を提供している。資格取得の登録者28名のうち、約10名が講師として活躍中。

 お話を伺った副代表の荒木高子さんと事務局長の田中和子さんは、ICT講師として中心的な役割を担っている。荒木さんは50代で「シニア情報生活アドバイザー」の資格取得のため、シニアSOHOで研修を受講し、以来13年間講師として活躍。田中さんはNPO設立初期からのメンバーで、40代で入会しICTの資格を取得。「専業主婦だった私が、こんな活動をするとは思いませんでした。年齢や性別に関係なく、様々な人と出会い、フラットに仕事ができています」と田中さんは語る。

 総務省では、シニアを中心にデジタル活用について学べる機会を推進する「デジタル活用支援推進事業(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)」を進めている。シニアSOHOではこの事業を受託し、荒木さんや田中さんをはじめとする講師たちが、三鷹市をはじめ近隣市まで赴き、スマホ講座を実施している。

高齢者向けスマホ講座の会場の写真(画像提供:シニアSOHO)。
高齢者向けスマホ講座(画像提供:シニアSOHO)

 また、「iPadを使った脳トレーニング講座」(脳トレ)も開催している。コミュニケーションを取りながら、頭と身体を使って認知機能向上を目指すもので、市内6か所で開催している。

 「PC道場」は、デジタル機器の"何でも相談の場"として毎週水曜日に開催されている。講師は、参加者が持ち込んだ機器の相談に随時対応している。まさに、"デジタル機器の駆け込み寺"といった存在だ。PC道場は20年以上続き、これまでに1,370回を迎えたというから驚きだ。

地域で行われる脳トレ講座の写真(画像提供:シニアSOHO)。
地域で行われる「脳トレ」(画像提供:シニアSOHO)

 他にも、地域のコミュニティセンターなどで不定期に開催されるスマホ・タブレット講座、受託事業の「三鷹いきいきプラス」会員向けのパソコン、タブレット、スマホ、Zoom講座などがある。長年続いてきたパソコン講座で終了したものもあるが、時代の流れに伴い、スマホやタブレット、Zoom講座の需要が高まっている。

時代を捉えて新しい事業を受託、課題は地域活動の活性化

 シニアSOHOが自治体などから事業を継続的に受託できる理由について、黒澤さんは「三鷹市との長年の信頼関係が最も大きいです。その背景には、会員一人ひとりの高いスキルと情熱、そして真摯な取り組み姿勢があります」と語る。また、戸倉さんは「受託事業の成果に満足いただけていることが、信頼関係の醸成につながる大きなポイントだと思います」と続ける。

 シニアSOHOは活動26年目を迎える。シニアSOHOが三鷹で活発に事業を継続できている背景について、戸倉さんは「この地域には、街づくりに参加しようという意識が高い方が多いと感じます。私自身も定年退職後は地域貢献や社会貢献をしたいと思っていました」と話す。実際に、会員や受講者の学ぶ意欲が高く、「やりたい」と思ったことを実行に移せる方が多いという。

 今後の展開として、戸倉さんはこう話す。「昨年からICT体制強化に努めています。今後もスマホ相談や地域の事業支援が増えていくことを鑑み、ICT関連の人材を増やし、受託事業をできる限り漏らさずに受けていきたい。今後はAIがもっと身近になるので、ChatGPTの使い方、プロンプトの書き方、AIの活用の仕方など事業を見える形にして、AI関連の依頼に対応できるように準備を進めたい。時代を捉えて今必要な技術を教えられる人材を集め、基盤づくりに力を入れていきたいです」。

 課題としては、コロナ禍で停滞した地域活動(ワーキンググループ)の活性化が挙げられる。報酬を伴う事業に関わらない会員も楽しく活動できる場づくりのサポートに注力していくという。

 豊かな知恵と経験を持つシニアが、地域貢献のためにさらにスキルを磨く。シニアSOHOは、そうした意欲あふれるスマートシニアが活躍できる場である。


公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2025年 第34巻第1号(PDF:7.0MB)(新しいウィンドウが開きます)

WEB版機関誌「Aging&Health」アンケート

WEB版機関誌「Aging&Health」のよりよい誌面作りのため、ご意見・ご感想・ご要望をお聞かせください。

お手数ではございますが、是非ともご協力いただきますようお願いいたします。

WEB版機関誌「Aging&Health」アンケートGoogleフォーム(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

無料メールマガジン配信について

 健康長寿ネットの更新情報や、長寿科学研究成果ニュース、財団からのメッセージなど日々に役立つ健康情報をメールでお届けいたします。

 メールマガジンの配信をご希望の方は登録ページをご覧ください。

無料メールマガジン配信登録

寄附について

 当財団は、「長生きを喜べる長寿社会実現」のため、調査研究の実施・研究の助長奨励・研究成果の普及を行っており、これらの活動は皆様からのご寄附により成り立っています。

 温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。

ご寄附のお願い(新しいウインドウが開きます)

このページについてご意見をお聞かせください(今後の参考にさせていただきます。)