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認知症でも地域に役立つつながりを創る新しいデイサービス(東京都町田市 NPO町田市つながりの開 DAYS BLG!)

公開日:2019年1月24日 13時48分
更新日:2024年8月13日 15時10分

写真:東京都町田市にあるNPO町田市つながりの開が運営する地域密着型通所介護事業所「DAYS BLG!」の看板写真。

一本柏手(かしわで)で「さあ、仕事だ」といっせいに動き出す

 朝の9時半を過ぎたころからデイサービスの利用者が集まり始める。黒と青の2台の送迎車が到着すると9人全員がそろう。

 ここは東京・町田市にあるNPO町田市つながりの開(かい)(前田隆行理事長・写真1)が運営する地域密着型通所介護事業所「DAYS BLG!」(デイズビーエルジー)だ(写真2)。東急こどもの国線こどもの国駅から歩いて10分。東京郊外の清閑な住宅地の一角にある。民家の1階を2階に住む大家さんから借りて運営している。

写真1:NPO町田市つながりの開を運営する前田隆行理事長の写真。
写真1:前田さんはおっとりとして緩(ゆる)いお人柄
写真2:DAYS BLG!の施設の様子を表す写真。東京郊外の清閑な住宅地の一角に位置し、2階に住む大家さんから借りて運営されている。
写真2:閑静な住宅地の一角の民家の1階がDAYS BLG!

 ここが今、新しいデイサービスとして全国の注目を集めている。その理由は、利用者本人の意思で、近くの自動車販売店の洗車やフリーペーパーのポスティングなどの仕事に参加し、「謝礼」を受け取っていること。

 部屋の一角には駄菓子のコーナーもあって、近所の子どもたちが買いにきたり、学童保育で子どもに紙芝居の読み聞かせをするなど、地域社会とのつながりを重視している。もちろん本人が希望しなければ、ここで過ごしていても何ら構わない。

 やって来るとまずお茶を飲み、血圧と体温のバイタルサインのチェックから始まる。常連さんや今日が初めてで娘さんに付き添われたお父さんもいる。9人のうち女性は2人と、男性が多いのはめずらしい。

 「今日は10月3日水曜日です。天気は曇りですが、沖縄に台風がきているようです」と、介護職15年のベテランスタッフの声が通る。1人ずつの自己紹介があって、今日の仕事内容と昼食弁当の希望を聞く。和気あいあいの会話がはずみ、30秒ごとに笑い声が上がる(写真3)。ごく普通の人の会話と変わりなく、大半の人が認知症とは思えない。

写真3:開のメンバー全員によるミーティングの様子を表す写真。和気あいあいの会話がはずみ、笑い声がたえない様子。
写真3:笑い声がたえないメンバー全員のミーティング

 ひと通り希望がそろうと、今日の仕事は自動車の洗車とフリーペーパーのポスティングのグループ、そしてのんびりここで過ごす人の3つのグループに分かれた。メンバーの1人が挨拶して「一本柏手」で「さあ、仕事だ」といっせいに動き出す。

画一的な"施設らしさ"を避け普通の生活の延長に

 「DAYS BLG!」の名前は、日々、毎日の「DAYS」、「BLG」はBarriers(障害)、Life(生活)、Gathering(集い)の略。「障害ある生活を、皆で集まって、感動的なものにしよう」と感嘆符のExclamationがついている。「1人ひとりが自分の意思で自分の望む生活を送り、人生の主人公でいられる社会の実現」という理念が込められている。

 NPO町田市つながりの開(かい)の「開」とは、法人設立の2012年、その2年前に初めての会合を開いた居酒屋の名前からとったが、「つながりの会を広げていこう」という願いもある。

 ここではスタッフと利用者という言い方をしない。すべて「メンバー」と言い、下駄箱にある名札もスタッフと利用者が混在している。"スタッフ"の服装もTシャツにGパンといった普段着で"利用者"との区別はつかない。

 これは理事長の前田さんが以前勤めていた病院のソーシャルワーカーやデイサービスで経験したことがあるからだ。「なぜ、スタッフの服装がチノパンツにポロシャツなのか。なぜ、画一的な風船ゲーム、歌やお絵かきなのか。そして送迎車はなぜ白いワンボックスカーなのか」という疑問があった。いつの間にか日本中で定着してしまった"施設文化"に違和感を抱いていた。

 以前、前田さんが勤めていたデイサービスで、ある若年性認知症の人がレクリエーションを拒否したことがあった。「50代の人が80代の親の世代と同じプログラムに抵抗感を持つのはもっともなこと。認知症かもしれないが、体力もありできることはいっぱいあるはずだ」と感じた。

「働きたい」「対価がほしい」は当然のことと地域に仕事求める

 そのうち若年性認知症の利用者から「働きたい」との声が上がった。そこでデイサービスの法人が所有する空き民家の修繕や焼き芋づくりのための薪割りなどをしてもらった。しかし、わざわざ用意した仕事だったため、「私たちが働きたいというのは、こういうことではない」と言われてしまった。

 デイサービスの中だけで仕事を生み出すには限界がある。そう考えた前田さんは地域にその場を求めた。なじみがあった保育園に声をかけたら、プール掃除の依頼があった。そこでプール掃除からペンキ塗り、砂場の掘り起こし、草取りなどもした。保育園から感謝され、利用者からも「やりたかったのはこういうことだ」と、表情も明るくなった。

 そのうち利用者から「対価」を求める声が上がった。「自分たちの仕事が評価されて、モチベーションも上がります。当然のことです」と前田さん。

前田さんは国に直訴して5年「謝礼」として認められた

 2000年、身体介護を前提に制定された介護保険制度は、サービス利用者が仕事をして対価を得ることを想定していなかった。対価を得ては「いけない」という規定はないものの、「よい」ともなかった。

 このグレーゾーンを前に、前田さんは厚労省に何度も出向いて直訴し、若年性認知症の当事者会議も開いた。この結果、2011年4月、厚労省老健局は「若年性認知症施策の推進について」の通知で、介護保険サービス利用中のボランティア活動に対する謝礼の受け取りを認めた。雇用契約を発生させない有償ボランティアという位置づけで、「賃金」や「報酬」ではなく、「謝礼」という名称だ。

 国への直談判から5年が過ぎたところで、「どこかがやってくれるだろう」と思っていた前田さんだったが、誰も手掛ける様子がなかった。そこで前田さんは「言い出しっぺが始めるしかない」と考え、「NPO町田市つながりの開 DAYS BLG!」を立ち上げた。

地域に根ざした小規模の地域密着型通所介護が誕生

 地域密着型通所介護事業というのは、18人以下の小規模な通所介護(デイサービス)の事業所で、食事や入浴などの日常生活支援や、生活機能訓練などのサービスを日帰りで提供する介護保険の制度だ。2016年から導入されたが、それまでの単一の「通所介護」だったものが、利用者定員によって都道府県の管轄の「通所介護に該当する事業所」と市区町村の管轄の「地域密着型通所介護の事業所」の2つに区分された。「DAYS BLG!」は後者に当たる。

 こうした事業所のプログラムでは、ゲームや体操を取り入れるなど全国各地でさまざまな工夫がされているが、こうした「謝礼」を受ける仕事を組み入れたところはめずらしい。

 しかし、協力してくれる会社を回っても、最初のころは200社に1社が応じてくれるという状況だった。やがてこうした活動が徐々に地域から理解されるように変化してきている。

今日の「仕事」は洗車とフリーペーパーのポスト入れ

 たとえば今日の「仕事」の洗車の様子はこうだ。洗車チームは今日は4人。ホンダのロゴマークが入った黄色いTシャツや赤いブルゾンに着替えて、車で出発。約10分のホンダ自動車販売店に着くと、スタッフが手早くホースから車4台に水をかけ、洗車用の布をバケツに漬けて持ってくる。するとメンバーは車の水滴をていねいにふき取っていく(写真4)。

写真4:有償ボランティアとしての仕事のひとつである洗車の様子を表す写真。数人でチームとなり仕事に取り組む。
写真4:洗車は手際よくあっという間に4台こなした

 ものの30分足らずで洗車業務は終了。お茶で水分補給して、途中注文しておいた弁当を引き取ってBLGに戻った。

 現在の「謝礼」は月2万円で、これを参加者全員で割り振ると1人の取り分はわずか。もちろん参加は自由だし、BLGには謝礼は入らない。

 ポスティングチームは4人。地域のフリーペーパーのポスト入れを担当している。10分ほど歩いて今日のポスティングエリアに到着。スタッフ1人が付き添って、メンバーの様子を見守る(写真5)。

写真5:有償ボランティアとしての仕事のひとつであるポスティングの様子を表す写真。地域のフリーペーパーのポスト入れを担当している。
写真5:スタッフさん付き添いのもと、ポスティングへいざ出発!

 各人トートバッグを持ち、手慣れた様子で一軒一軒ていねいに配布する(写真6)。一軒家が多い地域だが、中には世帯数が多いアパートもある。「アパートはポストが多いからやりがいがあるね」と笑顔のメンバーさん。

写真6:フリーペーパーのポスト入れを担当するメンバーの写真。各自トートバッグを持ち、一軒一軒丁寧に配布する様子を表す。
写真6:「今週中にポスト入れをこなさなければ」と一生懸命

 BLGのまわりは平坦な道が多く歩きやすい。30分ほどのポスティング作業で皆さんうっすら汗をかいて、和気あいあいとBLGに戻った。この後はお楽しみのランチの時間だ。

 人気のカラオケ昼食の様子は、弁当持ち込み可のカラオケ店に着くと、2つのグループに分かれてまず食事。そしてカラオケが始まった(写真7)。1時間足らずで終了。また車でBLGに戻った。

写真7:仕事後のランチの様子を表す写真。メンバーに人気のカラオケ昼食の様子。食事の後カラオケが始まる。
写真7:同じ年代のため1970年代の歌謡曲が多い

 人気のカラオケ昼食に行かない人は、外食ないしはBLGで弁当とみそ汁付きの食事をする。その日その日でメンバー自身が選択をする。

午後のメニューは学童保育での紙芝居駄菓子屋の店番など多彩

 食事が終わってBLGに戻ると、今度は午後のプログラムがある。駄菓子屋の店番(写真8)、学童保育での紙芝居の読み聞かせなどの中からメンバー各自が選択する。そして午前のように「一本柏手」でいっせいに動き出す。

写真8:デイサービスの午後からのプログラムで、メンバーが店番を行う部屋の一角にある駄菓子コーナーの写真。近所の子が買いにくる。
写真8:昔なつかしい駄菓子屋さんは今の子どもにも人気がある

 午後4時には再びBLGに集まり、メンバーの挨拶で4時半に終了する。そして朝のように送迎の自動車が出て解散となる。

 登録は現在19人で、1日の利用定員は10人。要介護1が8人、2が6人、3が5人と、比較的軽度の人が多いが、多くが認知症だ。若年性認知症の人も2人いる。「7時間以上8時間未満」で介護保険を算定している。

 前田さんは「謝礼の受け取りは若年性認知症に限定されていたものが、厚労省の最近の通知では『若年性認知症の方を中心とした・・・・・』となり、謝礼の枠が広がってきていますが、もっと広げてほしいです。デイサービスだけでなく、施設の入所者の方にも地域に出ていくことができるように拡大してほしい」と言う。

 こうした新しい取り組みに全国からの見学者も多く、最近、厚労省の幹部も訪れた。地域とのつながりを創る新しいデイサービスのあり方が注目されている。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.88(PDF:4.5MB)(新しいウィンドウが開きます)

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