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働くことで健康になる 〜健康・生きがい就労トライアル〜(兵庫県宝塚市)

公開日:2024年7月19日 09時00分
更新日:2024年7月19日 09時00分

参加することで健康・経済的にも元気になる

 兵庫県宝塚市の「健康・生きがい就労トライアル(外部サイト)(新しいウィンドウが開きます)」(以下、就労トライアル)が注目されている。人手不足の介護事業所や保育所等で、高齢者が専門職の周辺業務をサポートし短時間働く。3か月の就労トライアル終了後は、参加者と事業者の合意の下、継続して働くという仕組み。これまで100名以上の高齢者が就労トライアルに参加し、約8割が継続就労している。「事業の説明会は、毎回すぐに定員に達するほど反響があります」と宝塚市健康福祉部地域福祉課課長(当時)の守川武広さん。

 宝塚市は2015年にWHO(世界保健機関)のエイジフレンドリーシティ・グローバルネットワークに参加し、高齢者にやさしいまちづくりを市民と協働で行うことを決めた。市民協働の組織として2018年「宝塚市お互いさまのまちづくり縁卓会議」(以下、縁卓会議)を発足させ、メンバーを市民等から公募。この縁卓会議から生まれたのが就労トライアル事業だ。

 縁卓会議メンバーで、就労トライアルの発案者の1人である遠座(おんざ)俊明さんは、「参加することで高齢市民が健康・経済的にも元気になり、生活不活発病の予防になる」と話す。遠座さんは、定年退職前は大阪ガスネットワーク(株)エネルギー・文化研究所で、活力ある高齢社会づくり研究に従事していたスペシャリスト。現在はNPO法人健康・生きがい就労ラボ(外部サイト)(新しいウィンドウが開きます)の理事長として就労トライアル事業をサポートしている。

参加のハードルを下げる5つの工夫

 縁卓会議が発足して半年後の2019年3月には、第1回事業説明会を実施し、1つの介護事業所で17名が就労トライアルに参加した。コロナ禍で休止期間もあったが、以降6回にわたり募集し、100名を超える高齢者が就労トライアルに参加。受け入れ事業所は2023年度までに、介護事業所10か所、保育所6か所、放課後等デイサービス1か所、障害福祉サービス等事業所1か所に広がっている。また、2024年5月には、新たにスーパーマーケット1団体を受け入れ先として説明会を実施している。

 就労トライアル後の就労継続率は約8割と高い定着率。そこには参加のハードルを下げる5つの工夫がある(表)─1.プチタイム就労、2.80歳未経験シニアでも可能な仕事内容、3.3か月トライアル(お試し)期間の設定、4.活動することへの動機付け(啓発)と高齢者の心に響く行動喚起の呼びかけ、5.高齢市民が安心して参加できる枠組み"自治体事業"。

表 健康・生きがい就労トライアル─参加のハードルを下げる5つの工夫
(NPO法人健康・生きがい就労ラボ資料より作図)

  1. プチタイム就労
    • 1日2~3時間から、週1日でもOK
  2. 80歳未経験シニアでも可能な仕事内容
    • 雇用事業者との仕事の切り出し
  3. 3か月トライアル(お試し)期間の設定
    • 実際働いてみて、(働く方も雇用者も)こんなはずじゃなかった!のミスマッチを回避
  4. 活動することへの動機付け(啓発)と高齢者の心に響く行動喚起の呼びかけ
    • 活動しているから元気・健康!(生活不活発病の理解)
    • 身近な地域と大きな社会課題への貢献
  5. 高齢市民が安心して参加できる枠組み"自治体事業"
    • ただし、就労契約は市民と事業者間で行い、自治体はほとんど費用がかからない

 「事業者には無資格の高齢者にもできる仕事を仕分けしていただき、介護施設であれば、シーツ交換や入所者の話し相手、配膳など、長年の知識や経験を活かせる内容です」(図)と守川さん。遠座さんは、「健康だから活動ができると思われがちですが、実は順番が逆で、活動しているから健康でいられるということが最近の研究でわかっています。説明会で事業の意義を説明し、理解いただいた上で参加いただくので、高い継続率と健康効果につながっています」と指摘する。

図、介護施設での様々なケアサポーターの仕事の例を表す図。
図 介護施設での様々なケアサポーターの仕事(例)
(宝塚市健康福祉部地域福祉課資料より作図)

参加者と雇用事業者の双方で高評価

 就労トライアル参加者のアンケートによると、89%が「満足」、96%が「続けたい」と回答している。「生活のリズムができ、お小遣いも入り、充実した日を過ごせている」「誰かの役に立っていると思うと生活に張りが出る」など、肯定的な意見が多く寄せられている。

 雇用事業者では7割が「満足」と回答し、不満の回答はゼロだという。「仕事の切り出しが業務を見直すよい機会になった」「残業が減りスタッフのワークライフバランスが向上し、離職率も5ポイント下がった」など、高齢スタッフがなくてはならない存在となっている。

高齢者、家族・地域住民、事業者、自治体の"四方よし"の取り組みを全国へ

 宝塚市の就労トライアル事業は、2020年「第9回健康寿命をのばそう!アワード 厚生労働省老健局長優良賞(PDF:4.5MB)(外部サイト)(新しいウィンドウが開きます)」、2022年「アジア健康長寿イノベーション賞2022自立支援部門準大賞(外部サイト)(新しいウィンドウが開きます)」を受賞し、国内外で高い評価を得ている。「参加高齢者だけでなく、人手不足で困っている介護等業界も支援するwin-winの活動として全国に広げるべきモデル」と評価を受け、就労トライアルを他自治体へ展開すべく2021年に創設されたのが、NPO法人健康・生きがい就労ラボだ。

 就労トライアル事業は、独自で導入を決めた大阪府の摂津市などのほか、2023年度に大阪府が導入を支援する施策を開始したことで高槻市へと広がった。2024年3月には大阪府が大阪ガスネットワーク(株)と「高齢者の健康・生きがい就労等に向けた連携協定」を結び、今後、さらに府内市町村に広げていく予定だ。

 守川さんは、「就労トライアル事業では、就労契約は市民と事業者間で行われるため、自治体の予算はほとんど必要ありません。受け入れ事業者の確保が課題となりますが、それがクリアできれば、始めてみることをお勧めします」と言う。遠座さんは就労トライアル事業を「高齢者本人、家族・地域住民、事業者、自治体にとって"四方よし"の取り組みです。高齢者が社会的な役割を担うことで、自己肯定感、生きるエネルギーを生み出します」と評した。

 働くことで健康になる、宝塚発の健康・生きがい就労トライアルの今後の展開に目が離せない。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2024年 第33巻第2号(PDF:3.7MB)(新しいウィンドウが開きます)

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