コロナ禍の今こそ、 介護予防・フレイル対策を ─「web版集いのひろば」(東京都 筑波大学介護予防研究室 (東京キャンパス文京校舎))
公開日:2022年7月 8日 09時00分
更新日:2024年8月13日 14時44分
こちらの記事は下記より転載しました。
新型コロナウイルス感染症と高齢者の身体活動
新型コロナウイルス感染症は、2年以上が経過した今も収束の見通しが立たない。2020年3月には世界保健機関(WHO)によるパンデミック宣言、同年4月には第1回目の緊急事態宣言が発出され、活動自粛が呼びかけられた。その後も何度も感染の波が押し寄せる中、高齢者においては、身体活動量の減少からフレイル発症や要介護リスクが懸念されている。
今回は筑波大学人間系教授の山田実先生(写真)に「コロナ禍における介護予防」について話を伺う。山田先生の筑波大学介護予防研究室の研究テーマは「介護予防とフレイル対策」。今は"ウィズコロナ"の視点で介護予防推進を呼びかけている。
山田先生らは2020年4月から高齢者の身体活動量の変化について調査を実施している。「第1回目の緊急事態宣言中、高齢者において身体活動量が約3割減少していました1)。宣言解除後の6月には徐々に身体活動量は回復し、ほぼ元の水準にまで回復した高齢者がいた一方で、独居で、なおかつ近所の人との交流がない高齢者は回復しにくい傾向がありました2)」
その後も調査を続け、2022年1月時点までのデータを取り終えている。ここでは2020年を「コロナ1年目」、2021年を「コロナ2年目」と呼ぶ。
「コロナ1年目は身体活動量が一時的に回復しましたが、第2波の8月から秋にかけて下がる一方です。ちょうど第3波の2021年1月に身体活動量が一番低くなりました。身体活動に平行する形で社会活動もだんだん落ちていきます。ただ、2021年1月以降のコロナ2年目はやや回復傾向にあります。完全回復ではないですが、落ちてきた活動量が上がる傾向が認められています。2022年1月データではコロナ前の80%まで身体活動量の回復が見られます3)」(図1)。
しかし、高齢者個々のばらつきが非常に大きいという。コロナ禍で要介護認定率が急激に上がったという報告はないが4)、「以前から体を動かす習慣がなく、コロナ禍でさらに活動量が減った人は要介護のリスクが高い」と山田先生は指摘する。新型コロナウイルス感染症と身体・社会活動量の変化は、今後も注視していく必要がある。
感染予防と介護予防の両立を
「感染予防と介護予防は天秤のような関係性です。両立は難しいですが、どちらも軽視できません。感染予防と介護予防の両立が重要になります」と山田先生は強調する。
コロナ1年目は感染拡大防止の観点から介護予防事業は自粛傾向にあったが、2年目に入り、ある程度実施されるようになった。しかし、介護予防教室に出かける際、家族が外出に対して抑制をかけるケースが増えてきたという。「感染リスク」と「周りの目が気になる」という理由からだ。社会の理解が追いついていないこの現状を山田先生は懸念する。「コロナパンデミック下でも介護予防をしっかり推進できる社会にしていく必要があると強く感じます」
介護予防やフレイル対策には「運動」「栄養」「社会活動」の3つの要素が大切といわれるが、ウィズコロナの視点では何を重視すればよいか。
山田先生は「3つの要素のどれも大事ですが、一番重視すべきは『社会活動』だと思います。買い物に出かけることは社会活動の1つです。コロナ禍で買い物の機会が減ると、生ものの購入機会が圧倒的に減ります。生ものの購入が減ると、食の多様性がなくなり、たんぱく質摂取の機会が減ります。買い物機会の減少が、ダイレクトに栄養に影響するのです。そして、身体を動かす機会も減りますので、身体活動量にも影響が出てくるのです」と話す。
買い物に出かけることが、「身体活動」「栄養」に直結する。日常の買い物が社会活動の1つと捉えると、「社会参加しなくては」と気負う必要がなくなる。
「運動の継続・習慣化」は、介護予防・フレイル対策の大きな鍵となる。山田先生が勧める運動のポイント1つ目は、「誰かと一緒に行うこと」。感染リスクの懸念から大人数で集まることが難しい今は、1人や少人数でできる運動としてウォーキングを勧めている。
2つ目は、「決まった時間に運動を行うこと」。たとえば、午後1時にウォーキング、3時に筋トレと、時間を決めると継続しやすい。昼食や3時のお茶が1つのきっかけとなるからだ。
3つ目は、「運動の記録を取ること」。運動指導をする際は、マス目だけを記入したカレンダーを渡すそうだ。ウォーキングの場合は、日付の欄に歩数を書いてもらう。筋トレの場合は、運動をしっかりできたら◎、1セットのみのときは○を付ける。何もしなかったときは空欄のまま。記録を付けることで、空欄の日が多くあれば体を動かしていないことに気づく。スマホなどで自動記録ができる時代に、あえて手で記録を付けることに意味があるという。
インターネット上の介護予防 「web版集いのひろば」
筑波大学介護予防研究室では、ウィズコロナ時代の介護予防の1つの手段として「web版集いのひろば」を運営している(図2)。登録者に週1回決まった時間にメールを送信し、介護予防やフレイル対策に関連するYouTube動画を見てもらう。介護予防の啓発ときっかけづくりを目的に、2021年4月から本格実施した。年会費など費用は不要だが、通信費は登録者の負担。以下のリンクから会員登録ができる。
「登録さえすれば、"週に1回メールが届いてしまう"ことが重要です。週1回でも介護予防をしようと、やる気になってもらえればいい」と山田先生。
「リアルな通いの場は効果がありますが、実際の参加者は高齢者の1割未満。残りの9割以上の高齢者にはその効果が届いていない現状があります。そこをなんとか増やしたい。通いの場を増やすことも大切ですが、一方でまったく別の戦略も必要です。決まった場所に行くことに抵抗はあるが、インターネット上での参加ならできるという高齢者が一定数いるはずです。コロナ前にわれわれが実施した調査では、前期高齢者の9割以上が携帯電話を持っています。メール送受信は前期高齢者で8割、後期高齢者で5割程度の方ができます。いろいろなアプローチの1つとして、このようなインターネットを使った介入があると思います」
思いがけず双方向のコミュニケーションが生まれる
週のはじまり月曜日の朝10時、筑波大学介護予防研究室からメールが届く。4月に届いたメール冒頭の挨拶文はこうだ。「こんにちは。筑波大学の山田実と申します。第49回目の配信となります。本学では今年もオンライン授業が基本となっております。その中で、久しぶりに対面での授業がありました。様々な課題はありますが、やっぱり学生の顔を見ながら講義するのは楽しいです。オンライン授業、オンライン会議が主流になって3年目。明らかに交流が不足してきたと感じています。授業や会議の前後のたわいもない会話が、新たな発想や気づきにつながったり、距離感を縮めることにつながると思っています。......(略)」
そして、YouTube動画のリンクへ続く。介護予防・フレイル対策の研究者や専門家が作成した5~10分の短い動画である。今まで取り上げた動画は、「摂食嚥下」「糖尿病」「脳卒中」「フレイル」「栄養」「ウォーキングの方法」など。
動画視聴後、必須ではないが、簡単なアンケート入力をお願いしている。動画の感想や質問、日々取り組んでいることなど、コメントを自由に入力していただく。質問への回答やコメントは、次回のメールで一部抜粋して紹介する。
そのうちに「想定外のことが起きてきた」と山田先生は言う。「もともとは動画視聴の確認のためのアンケートでしたが、意外にコメントを多くいただくようになりました。そこで一部を次週のメールで紹介するようにしたのです。すると、『ラジオのパーソナリティにお手紙を読んでいただいた感覚です』とおっしゃる方がいました。『皆さんのコメントに励まされました』など、参加者の声に対するコメントも増えてきました。間接的ではありますが、ある意味、双方向のコミュニケーションの場になっています」。自然と仲間意識が芽生え、1人よりも他者と一緒に行うことで達成効果が増す現象、いわゆる「社会的促進」の効果が出ているのではないかと指摘する。
冒頭の挨拶文も好評で、「楽しみにしている」という声が多い。あえて介護予防に関連のない話を取り上げているというが、「web版集いのひろば」の親しみやすい雰囲気がここに現れているようだ。
「web版集いのひろば」のアンケートの質問例とコメント例を図3に示す。質問の1つひとつに山田先生が回答している。初めてもらう内容も多く、「ここに多くの気づきがある」という。
質問例
- 高齢の方からのご質問
- 動画を拝見し、社会的活動の重要性は理解できました。ですが、コロナの影響でなかなか友人との交流が出来ていません。このような中、どのような交流をしていけばよいでしょうか?
- 専門家による回答
- 勿論、直接お会いできるのが一番なのですが、それだけでなく、お電話やメールのやり取りなども重要と思います。"声"だけでなく、"文字"や"写真"、"絵"などを用いた交流をされてはいかがでしょうか。
- 高齢の方からのご質問
- グランドゴルフをしています。行けば、毎回数千歩歩きますし、友人といろいろとお話をしています。これは正にフレイル対策?と思っていますが、実際にはどうでしょうか?
- 専門家による回答
- それは本当に良い運動、社会交流になっていると思います。仲間がいることで継続しやすいという要素も加わりますので、フレイル対策としてはバッチリの活動だと思いますよ。
コメント例
- 今回のデータも大変興味深く拝見致しました。運動だけでなく、趣味等の集まりも介護予防に効果があること、大発見でした!やはり人は人に頼って生かされているのですね。
- コロナが怖くて、買い物に行かず宅配サービスを利用するようになりました。すると、めっきり外出の機会が減り、歩数も少なくなってしまいました。今月からはまずは5000歩という目標をたてました。
- たんぱく質を摂ることが大切であることが分かりました。たんぱく質について考えながら献立を考えていこうと思います。
- 皆さんのコメント、私も私もとうなずきながら読んでいます。運動だけではなく、会食・喫茶・趣味などに参加しようと思います。出来ることから始めたいと思います。
図3 「web版集いのひろば」アンケートの質問例とコメント例
「高齢者の声を聞けるこの機会を大事にしたい。講演会等の質問の場では躊躇する人でも、ここでは気軽に質問ができます。これまでの高齢者の声には、"声の大きい高齢者の声"が多く反映されていた可能性があります。しかしそれは一部の声で多数派ではないかもしれない。声の小さい高齢者が多数派だとすると、これからの高齢者サービスのあり方は変わるかもしれません」
日常生活を意識して丁寧に過ごすことでコロナ禍を乗り越える
コロナ禍で要介護者が増えたイメージがあるが、そうは言えない状況だ。厚生労働省データによれば、要介護認定率は緩やかに増えているが、コロナ前の1年、さらに10年をさかのぼると、同じ緩やかな傾きで増えている4)。その増加の主たる要因は75歳以上人口の増加。コロナ禍で要介護になりやすいのであれば、傾きがぐっと上がるはずだが、今はその兆候は見られない。しかし、この状態が続き、対策を講じなければ、傾きが急激に上がる可能性がある。
新型コロナウイルス感染症の収束がいまだ見えない中、高齢者が元気に過ごすために日々気をつけるポイントを改めて山田先生に伺ってみる。
「コロナ1年目でフレイルになった方が多くいましたが、2年目に入り身体・社会活動をある程度取り戻せた方の中には、フレイルから回復する方が一定程度いることがわかりました。つまり、コロナ禍でフレイルになった方は従来のフレイルに比べて明らかに回復しやすい。身体活動と社会活動を主軸にしっかり対策を取れば、元気な状態に戻るチャンスがあります。大切なのは、しっかり3食を食べ、ウォーキングをし、誰かと交流するという日常生活の基本的なことです」
「社会活動はハードルが高いイメージがありますが、難しく考える必要はありません。行きつけの定食屋、喫茶店に行くことも社会活動です。お店に定期的に通うことでお店の人と交流ができます。スーパーに同じ時間帯に行けば同じ店員さんがいて、コミュニケーションが取れます。グループ参加のような活動以外にも、こういった日常のことで身体活動、社会活動ができるので、まずは家から出ることが大事です」
コロナ禍でも元気に過ごすためには、感染対策をしつつ日常生活を意識して丁寧に過ごすことがコツのようだ。加えて、携帯電話などインターネット環境がある方には、「web版集いのひろば」への登録もお勧めしたい。
(2022年7月発行エイジングアンドヘルスNo.102より転載)
文献
- Yamada M, Arai H, et al.: Effect of the COVID-19 epidemic on physical activity in community-dwelling older adults in Japan: A cross-sectional online survey. J Nutr Health Aging. 2020; 24(9): 948-950.
- Yamada M, Arai H, et al.: Recovery of physical activity among older Japanese adults since the first wave of the COVID-19 pandemic. J Nutr Health Aging. 2020; 24(9): 1036-1037.
- Yamada M, Arai H: Recovery from or progression to frailty during the second year of the COVID-19 pandemic. Geriatr Gerontol Int. (in press)
- (2022年6月15日閲覧)
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