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共同菜園ボランティアで男性シニアの生きがいづくり(大阪府大阪市鶴見区 鶴見区シニアボランティア アグリ)

公開日:2023年4月28日 09時00分
更新日:2024年8月13日 14時42分

太陽の下、男性シニアが元気ハツラツ活動

 大阪市東部に位置する鶴見区。青空の下、きれいに畝上げされた畑に十数名の男性シニアが集まり、声を掛け合いながら畑作業に励んでいる。ここは男性ボランティアグループ「鶴見区シニアボランティア アグリ」(以下、アグリ)が運営する共同菜園(写真1、2)。

写真1、冬の畑で土壌づくり作業をするアグリの皆さんの写真。
写真1 冬の季節は土壌づくり作業。土を掘り起こし虫退治
写真2、冬野菜を収穫をするアグリの皆さんの写真(2021年12月撮影、鶴見区社協提供)。
写真2 冬野菜の収穫(2021年12月撮影、鶴見区社協提供)

 取材に伺ったのは1月下旬。「冬場だし、子ども食堂に野菜を提供したばかりで野菜が少ない」というものの、白菜、キャベツ、ブロッコリー、わけぎなど、バラエティ豊かな野菜が顔を見せている。野菜は子ども食堂へ提供するため、できるかぎり無農薬栽培としている。虫に食べられることもあるというが、それは美味しくて安心・安全な野菜の証だ。

 この日は木曜日で、週に1度アグリのメンバーが集合する定例活動の日。作業前のミーティングでは、アグリの活動に興味を持ったという見学者を交え、和気あいあいとした雰囲気。

 「今度の土曜は子ども食堂を運営するところから音楽祭のお誘いがきています」と話すのは、大阪市鶴見区社会福祉協議会(新しいウインドウが開きます)(以下、鶴見区社協)の生活支援コーディネーター・安藤美希さん(写真3)。安藤さんはアグリ設立当初からアドバイザー的な立場で活動をサポートしている。

 「今日は土を掘り起こして虫を外に出して、お日様に退治してもらいましょう」のアグリ代表の龍神正則さん(写真3)の掛け声で、メンバーが一斉に畑作業に移る。

 皆さんにお話を聞くと、「太陽の下、たくさんの人と元気ハツラツ活動するのが楽しい」「男性だけだから気楽でいいね」と笑顔で答える。「人と話をするのが楽しいね。年齢の縛りがないから、元気なうちは活動を続けたい」と話すのは90歳の最高齢の方。

写真3、アグリ副代表の山際洋一さん、代表の龍神正則さん、鶴見区社協の安藤美希さんの写真。
写真3 左からアグリ副代表の山際洋一さん、代表の龍神正則さん、鶴見区社協の安藤美希さん

 アグリでは60代から90歳の男性18名、平均年齢78歳のメンバーが、市内9か所の子ども食堂へ野菜を提供すべく精力的に活動している。中には何らかの仕事をしている人が数名いるという。アグリの活動は、『令和4年版高齢社会白書(新しいウインドウが開きます)』(写真4)に掲載され、厚生労働省の「第9回健康寿命をのばそう!アワード(新しいウインドウが開きます)」介護予防・高齢者生活支援分野・厚生労働省老健局長優良賞団体部門を受賞し、男性シニアの活躍の場として注目されている。

写真4、『令和4年版高齢社会白書』掲載記念でアグリメンバー大集合の写真(2022年8月撮影、鶴見区社協提供)。
写真4 『令和4年版高齢社会白書』掲載記念でメンバー大集合(2022年8月撮影、鶴見区社協提供)

「男性限定」「畑」「子ども食堂」がアグリのキーワード

 大阪市鶴見区は高度経済成長時代に開発が進み、工場、住宅、田畑が混在する地域。団塊の世代が多く暮らす鶴見区では、定年退職後の男性シニアの「居場所づくり」「集いの場づくり」が課題となっていた。そこで2017年9月に鶴見区社協が企画したのが「野菜づくりで生きがいづくり・男性シニア共同菜園ボランティア講座」。安藤さんは講座を企画した経緯をこう話す。

 「男性限定の活動であれば、男性は参加しやすいのではないかと考えました。鶴見区では昨今大規模マンションの開発が進んだこともあり、市内で子どもが一番多い区です。そこで、野菜を子ども食堂へ提供することを目標として掲げました。目的があると活動のモチベーションが高められますし、多世代交流も期待できます。『男性限定』『畑』『子ども食堂』をキーワードとして、地域包括支援センター、区役所、JA大阪市などの地域団体、民生委員さん、地域住民の皆さんの協力のもと進めてきました」

 共同菜園ボランティア講座には9名の男性シニアが参加。3か月間の講座終了後、2018年春には自然な形で「鶴見区シニアボランティア アグリ」が立ち上がった。講座に引き続き、男性に限定したグループとした。今回お話を伺ったアグリ代表の龍神さん(79歳)と副代表の山際洋一さん(80歳)(写真3)は共に講座からのメンバーだ。龍神さんは「週1回の活動でいいなら」と、山際さんは故郷で農作業の経験があり、「経験が活かせるなら」と参加を決めた。

 子ども食堂に野菜を無償で提供する活動のため、アグリの収入はメンバーの年会費千円のみ。そのため、さまざまな方面からの協力があって活動が成り立っている、と安藤さんは言う。

 「150坪もの畑は近所の地主さんが無償で貸してくださり、いつも遠くから見守ってくださっています。資金面では、シニアの活動を支援する助成金やボランティア活動の基金から支援を受けています。年会費だけでは種や肥料、耕運機などを用意することはできませんから、こういった支援はありがたいです。畑に欠かせない水は、隣の畑の方が毎回貯水槽に補充してくださいます。貯水槽に使っている浴槽は、リフォーム会社さんから不要になったものを譲り受けました。野菜づくりで困った時は、"師匠"と呼んでいる近所の農家さんがアドバイスをくださいます。ご家族、ご近所の支援も大きいです。『頑張っているね。紙面に載っていたね』などの言葉が励みになります」

作付けの工夫で年間を通して野菜を提供

 アグリの定例活動日は木曜の午前中。この日にメンバーが集合し、野菜の栽培計画などを決めていく。畑では声を掛け合いながら作業を行い、皆で一斉に休憩を取ることがいいコミュニケーションになっている。木曜以外の日は水やり当番を緩やかに決め、必ず複数人で行うことが鉄則。1人で活動しないのは、作業中何かあった時に誰も気がつかないことを避けるためだ。

 「体がしんどいときは休んでいい。ちょっと遅れるのも自由。ルールでがんじがらめにしない。誰にも拘束されない。そういう気楽さが一番だと思います。だから私は昨年仕事を辞めてから、すこぶる元気になりました」と龍神さんは笑う。

 山際さんは「最近は子どもが喜ぶ野菜がわかってきました。子どもはカレーが好きなので、それに合う野菜、例えばジャガイモなどを多くつくります。そういう子どもが喜ぶ野菜やメニューに使いやすい野菜をできるだけコンスタントに提供できるよう心がけています」と言う。

 野菜を提供する子ども食堂は、6か所から9か所にまで増えた。最初は冬場に提供できる野菜は少なかったが、作付けの工夫により通年にわたり提供できるようなった。種から植えたり、苗から植えたり、植える時期を1~2週間ずらすなどして収穫のタイミングを調整する。成長の早い野菜、例えば小松菜などを、成長の遅い冬野菜のすき間に植えるなど工夫をしている。

メンバーそれぞれが特技を活かして活躍中

 アグリにはいろいろな職業経験者がいて、それぞれの特技を発揮して活動している。ジョウロで何度も往復していた水やりは、発電機と水中ポンプで貯水槽から水を汲み上げ長いホースをつなぐことで労力が大きく軽減された(写真5)。乗馬苑から馬糞をもらい肥料にする、落葉を腐葉土にするというアイデアも皆で出し合った。腐葉土を保管する木箱も発電機のカバーも手づくり。「いろんな人がいるから知恵も出る。それがまた楽しくて勉強になります」と龍神さん。

写真5、発電機と水中ポンプで水を汲み上げ、長いホースをつなぎ、水やりをする写真(鶴見区社協提供)。
写真5 発電機と水中ポンプで水を汲み上げ、長いホースをつないで水やり(鶴見区社協提供)

 35ある畝の管理はパソコンが得意なメンバーが担当。どこに何を植えたか、いつ収穫したか、いつ種を撒いたかを詳細に記録。「野菜は連作を嫌うものが多く、3年、中には5年空けなければならない」と山際さんが言うように、野菜の作付けは過去にさかのぼって決める必要がある。

畑から広がる多彩な交流

 アグリの活動を通してさまざまな交流が広がっている。コロナ禍前は、子ども食堂や学童保育の子どもたちに野菜づくりの体験をしてもらいたいと、畑で一緒に汗流しながら草取り、ミニトマトの収穫、秋には芋ほり体験などが行われていた(写真6)。「今はスマホで何でも検索できるので、探求心・考える力を養う機会が少ないかもしれません。だからこそ子どもたちには畑でたくさん経験してほしい」と龍神さん。

写真6、子どもたちの芋ほり収穫体験の写真(2019年11月撮影、鶴見区社協提供)。
写真6 子どもたちの芋ほり収穫体験。大きいサツマイモに大興奮(2019年11月撮影、鶴見区社協提供)

 今はコロナの影響もあり、子ども食堂を運営するところとは主にLINEで交流している。「こんな野菜がとれましたよ」と子ども食堂に写真を送信すると、子ども食堂からは「こんなメニューにしました。みんな喜んで食べています」と写真が返信されてくる。子どもたちのリアクションが手に取るようにわかり、子ども食堂に参加している感覚になるそうだ。

 認知症の人の社会参加をサポートしながら、一緒に畑の活動もしている。メンバーの2/3ほどが認知症サポーター養成講座を受けており、その中のメンバーがさらにステップアップ研修を受け「チームオレンジ」を結成した。地域包括支援センターから「認知症の方に畑の活動を体験させてもらえないか」と相談されたのがきっかけだった。半年間の体験後は、その方に引き続きメンバーとして参加してもらいたいと考え、それにはまず認知症を正しく理解する必要があると講座の受講を決めた。「皆さんの優しさがあふれていますね」と安藤さんはニッコリ。

 山梨県都留市社協の「男性のためのボランティア講座'畑楽もん'」の皆さんとは、同じ活動の仲間としてオンラインで情報共有している。SNSでつながった京都の大学生は畑の見学に訪れ、学生の研究発表の授業にはメンバーもオンラインで視聴した。こういった交流が活動のモチベーションアップにつながっている。

自身も地域も元気になれるボランティア活動が広がることを期待

 活動6年目を迎え、ご自身が感じる変化を伺ってみると、山際さんは「友達がたくさんできたことがうれしいです。退職するとだんだん交友関係が狭まっていきますが、今はアグリを通して友達ができて、それでまた趣味が合えば、畑以外でも一緒に出かけたりします」と話す。

 龍神さんは「子どもたちの美味しいという声が何よりもうれしいです。またがんばって美味しい野菜をつくろうというモチベーションにつながります。子どもたちが喜んでくれることが私たちの喜びです。そこからパワーをもらいます」とうれし涙を浮かべながら語った。

 安藤さんは「コミュニケーションを取りながら、常に頭も体も使い、心いきいきと過ごすことで、介護予防につながっていると思います。人と触れ合うことはいい刺激になりますし、多世代交流もあり、皆さんに取材や見学に来ていただき情報発信する立場にあることで、やりがいやモチベーションがどんどん高まっています。何よりも介護予防以上に、アグリの皆さんが元気シニアのお手本になってくださっていることが素晴らしいと感じています。ご自身も地域も元気になれる、いいこと尽くめのボランティア活動が全国に広がればいいなと思います」と声を弾ませた。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2023年 第32巻第1号(PDF:7.3MB)(新しいウィンドウが開きます)

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