第23回 コロナうつーうつか老いか病気か
公開日:2020年10月 9日 09時00分
更新日:2022年4月22日 10時34分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
新型コロナウイルス感染症のおかげで家にこもる人が増え、「コロナうつ」なる言葉も聞かれるようになった。今回はこのうつについて、なるべくわかりやすく説明し、注意してほしいポイントをお伝えしようと思う。
精神科では、うつという症状を訴える人が多い。これを私たち医療者は、病気としてのうつ病とは別に、うつ状態または抑うつ状態と呼んでいる。うつ状態では、憂うつな気分や悲しみが自覚される場合もあれば、疲労感やだるさ、頭痛、食欲低下など、主に身体の低調さが目立つ場合もある。
うつ状態の原因はさまざまであり、統合失調症を含めた精神疾患の他、がんや脳卒中、甲状腺疾患など身体の病気でもしばしば見られる。また、死別、離婚、職場のストレスなどの精神的なショック、あるいはハードワークによる消耗なども原因になる。
ごく単純に言えば、以上の要因を差し引き、うつ状態だけが大きな問題と判断されると、初めて「うつ病」と診断される。例えば配偶者を亡くして落ち込んでいる人をすぐに「うつ病」とは言わない。落ち込むのはもっともな状況であり、それ自体病気ではないからだ。
しかし実際には、その落ち込みが引き金となってうつ病になる場合もあるため、このあたりの診断は簡単ではない。「上司のパワハラによってうつ病を発症した」というような事例がこれにあたる。
また、うつ病ではなくとも、不眠や強い不安感などつらい症状があれば、精神科や心療内科にかかることはお勧めしたい。この時処方されるのは、多くの場合、抗うつ剤よりも、眠剤や抗不安薬などである。
このように、うつ病にせよ、うつ状態にせよ、うつというのは、精神科看護には欠かせない概念だと言える。
そして、精神科訪問看護でも多く関わる高齢者の場合、このうつ状態かどうかの見極めが、とても難しいと感じている。気力や体力が失われること自体、自然な経過という面がある。従って、それがうつ状態なのか、老化の範疇なのかかどうかの判定はとても難しい。老化にもうつと見える変化があるからだ。
さらには、高齢になると、病気知らずだった人も、いろいろな病気に見舞われやすい。元々元気だった人が突然気力がなくなったような場合、身体の病気が関わっている場合もある。私がこれまで経験したのは、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下だった人が印象深い。
慢性硬膜下血腫は、転倒して頭を打った際硬膜下に出血し、その血の塊が徐々に大きくなって脳を圧迫するものである。この人は手術によって劇的に改善し、後遺症も残らなかった。また、血液検査で甲状腺機能低下症とわかった人は、内服治療で改善した。
高齢になるとさまざまな病気になりやすくなるため、うつによる症状と決めつける前に、身体疾患の精査は必須だと実感する。
心身に変化が生じた時に備えて、相談できるかかりつけ医があるとよい。また、新型コロナウイルス流行を機にかかりつけ医の受診から遠ざかっている方は、そろそろ一度受診をする方向で考えるよう、お勧めしたい。
参考リンク
著者
- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
『宮子式シンプル思考─主任看護師の役割・判断・行動1,600人の悩み解決の指針』(日総研)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。ホームページ: