第74回 患者さんをきれいにする
公開日:2025年1月10日 08時20分
更新日:2025年1月10日 08時20分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
37年の看護師生活の中で、私は新人が来ない部署で長く働いてきた。今の病棟には看護学校(多くは看護系大学)を出たばかりの新人が配属され、一緒に働いている。
20代前半の新人看護師にとって、61歳の私は、もはや親より年上の同僚。自分が一体どのように見えているのかは、想像がつかないのだが、遠慮なく声をかけてもらうのが、一番うれしい。
最近、病棟に入院中の患者さんのケア度が高く、ベッド上で身体を拭いたり、オムツを替えたりする機会が増えている。新人看護師とケアに入ると、自分まで新人時代に働いた内科病棟の記憶が蘇るようだ。
新人と一緒に、患者さんの身体をベッドの端に寄せ、身体を横向きにして、汚れたシーツやオムツ、寝衣を身体の下に押し込む。そのあと身体を拭き、きれいなシーツやオムツ、寝衣を整え、身体の下に押し込む。そして、身体を反対に向けて、汚れたものを取り去り、きれいなものを整える。
......と、言葉で書いても伝わらないかもしれないが、要は患者さんの身体をあっち向け、こっち向けしながら、汚れたシーツ、オムツ、寝衣を脱がせ、新しいものに取り替えるのである。
一緒に組んだ新人看護師は、私が指示して、動いてもらった。患者さんが寝たままのシーツ交換は、今の病棟では経験する機会が少ない。経験するなら、少しでも良いやり方を見てほしい。そんな気持ちは、相手にも伝わっているように感じた。
それにしても、身体で覚えた技術は意外に忘れない。久しぶりの場面でも、すいすい身体が動き、自分も捨てたものではない、とうれしくなった。
私が初めて配属されたのは、59床で寝たきりの患者さんが半数程度いる一般内科病棟。来る日も来る日も蒸しタオルを使って身体を拭き、寝たままシーツを替える技術も、身につけた。
時代は変わり、寝たままで入浴できるリフトバスが入ると、保清のケアは、入浴が中心。入浴できない日は陰部洗浄をし、毎日の清拭は行われなくなった。
今では前の職場を含め、身体科急性期の病棟は入院期間が短くなった。それに伴い、かつては中心だった保清のケアは、行う機会も減ったと聞く。
(ちなみに、身体科という表現は、余り聞き慣れない言い方かもしれない。以前は精神科に対して一般科といわれたものだったが、それは精神科を特別視した言い方だ、という考えから、精神科で働く医療者を中心に、身体科という言葉が使われるようになっている。)
せっかく精神科の慢性期という、じっくり患者さんと関われる環境にいるなら、患者さんをきれいにするケアをしたいものだと思う。
指導、教育というのはおこがましいけれども、患者さんをきれいにする。そんなケアが当たり前にできる看護師に育ってほしい。そんな気持ちを言葉ではなく、行動で。
来年もまた、同じ気持ちでがんばろうと思う。
<近況>
なんと今月、勤続15年の表彰を受けました。週に3日契約の非常勤の立場ですから、常勤の方たちに比べれば、勤務日数も少ないのですよね。にもかかわらず、表彰していただけるなんて、思いもかけない喜びでした。これは、表彰状などとともにいただいたお花。喜んで、部屋に飾りました。
著者
- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
「まとめないACP 整わない現場,予測しきれない死(医学書院)、『看護師という生き方』(ちくまプリマ―新書)、『看護婦だからできること』(集英社文庫)など多数。ホームページ: