第37回 訪問時間のマナー~5分前か?5分後か?~
公開日:2021年12月10日 09時00分
更新日:2021年12月10日 09時00分
宮子 あずさ(みやこ あずさ)
看護師・著述業
私の勤務先では、訪問看護にうかがう前、到着時間を知らせる電話をかけている。もともと、決まっているのは曜日と午前・午後の別のみ。細かい時間は当日の電話で打ち合わせ、うかがうことになっている。
このように言うと、すでになんらかの居宅支援を受けている方は、おや、と思うかもしれない。
なぜなら、訪問するのがヘルパーにしろ、看護師にしろ、介護保険適用の居宅支援では訪問する日時はあらかじめ細かく決めている。そのため、連絡なしに訪問する事業所がほとんどのようだ。
一方、私の勤務先は、精神科病院の一部署で、医療保険が適用。介護保険は取り扱っていない。そのため、訪問看護ステーションなどの事業所とは、細かな所で色々な違いがあり、訪問日時の取り決めもその一つである。
とはいえ、前の訪問が長引いたり、途中臨時の訪問があったり、。予知したとおりに事が運ばないのも、現場の常である。結果として、約束した時間が、多少ずれる場合も出てくる。その都度お詫びをして、ご容赦いただいている。
しかし、中には些細なズレも許せない人もいて、対応が難しい。
ある時、午後3軒のお宅にうかがう予定で、2軒目の訪問先に、予め「午後2時にうかがいます」と約束をした。ところが、前の訪問が早く終わり、2軒目のお宅に、5分早く到着してしまった。
10分早ければ、電話で確認を取るところだが、5分ならいいだろう。そう思って早く呼び鈴を鳴らしたところ、思いがけず激怒されてしまった。
その人曰く、人の家に呼ばれた時には、準備に手間取ることも予測し、定刻より少し遅れていくのがマナーなのだそうだ。確かに、それは聞いたことがある。私自身も、人を招待する時、多少遅れ気味に来られた方が楽なのは確か。実感としてもわかる。
しかし、私の訪問はあくまでも訪問看護。趣味的な自宅への招待ではない。これまでの経験でいえば、定刻より遅れた方が、機嫌を損じる確率が高い。ただし、これは精神科訪問看護の特殊性かもしれない。
本人の希望以上に、支援者が必要と考え、訪問が始まる場合が多いからだ。従って、心待ちにするよりは、早く終わらせたいと考えている利用者が多く、待たせないよう常に気をつけているのである。
怒鳴られながら、お詫びしながら、以上のようなことを考えた。ひとつ反省は、この時「午後2時にうかがいます」と言ってしまったこと。普段は、「午後2時前後にうかがいます」と、約束にある程度ゆとりを持たせている。
この時に限って、なぜそうしなかったのかは今もわからない。そして、なぜかいつもと違うことをした時に限って、トラブルは起きるのである。
怒鳴られるのは気分が悪いし、傷つきもする。本音を言えば、反論して論破だってできるかもしれない。けれども論破したところで、その人の感情が変わるわけではない。その人の感情は認めた上で、こちらにできることを伝えるしかない。
この時は怒りが収まらず、話を聞いてもらえなかった。次回からは、到着する時間の範囲を、もう少し広く伝えようと思う。何年働いても、いろいろ工夫の余地があり、それもまた貴重な経験である。
著者
- 宮子 あずさ(みやこ あずさ)
- 看護師・著述業
1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。
精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。
著書
『宮子式シンプル思考─主任看護師の役割・判断・行動1,600人の悩み解決の指針』(日総研)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。ホームページ: