腰痛
公開日:2016年7月26日 00時00分
更新日:2019年6月19日 14時53分
高齢者に特徴的な腰痛の症状
若年者の腰痛は「ぎっくり腰」などの急性疼痛が多いのに対し、高齢者の腰痛は慢性疼痛が多い特徴があります。また若年者が運動時痛を主症状とするのに比し、高齢者では腰痛以外の症状を伴うことが多い傾向があります。
高齢者の腰痛の主な原因
高齢者の腰痛の主な原因は、変形性脊椎症、腰部脊柱管狭窄症、脊椎圧迫骨折のいずれかを伴います。
変形性脊椎症(図1)
加齢に伴い、脊椎骨の変形や、椎間板の変性が生じることで、脊椎の可動域制限や姿勢の変化がおこります。これによる、筋緊張の亢進、筋肉疲労が疼痛の原因と考えられています。
朝方に痛みが強く、起床後体を動かしているうちに痛みが軽減する傾向があります。
腰部脊柱管狭窄症(図2・図3)
変形性脊椎症、加齢に伴う椎間板変性(椎間板ヘルニアを含む)、椎間関節の肥厚など、様々な原因により、背骨のなかにある神経(脊髄:せきずい)の通り道が狭くなった状態です。狭窄の部位と程度により、臀部や下肢のしびれ・痛み(座骨神経痛:ざこつしんけいつう)や運動障害を伴います。姿勢や歩行により、症状が変化するのが特徴です。
脊椎圧迫骨折(図4)
加齢に伴う骨強度の低下により、脊椎の脆弱性骨折をきたした状態です。転倒のほか、咳やくしゃみなど、軽微な外力でも生じる可能性があります。
重度の場合には腰部脊柱管狭窄症を合併し、下肢の神経症状も呈します。
高齢者に認める危険な腰痛
頻度は低いものの、以下のような疾患による危険な腰痛もあります。これらの場合は、早急に積極的治療が必要となるため、見逃さないよう注意が必要です。
- 大動脈解離
動脈硬化を背景に、大動脈の壁が裂ける疾患です。急激な背部痛で生じ、ぎっくり腰と勘違いされる場合がありますが、早急に治療しないと命に関わります。
- 化膿性脊椎炎・化膿性椎間板炎
脊骨や椎間板に、細菌感染をきたした状態で、発熱と強い腰痛を伴う特徴があります。ただし高齢者や糖尿病を伴う方では、熱が出にくい傾向があり、注意が必要です。確定診断にはMRIや、採血が有用です。
- 悪性腫瘍の骨転移
前立腺癌や乳癌など、他の部位に生じた癌の骨転移により腰痛症状を呈する場合もあります。
- 膵炎、膵臓癌、尿管結石、尿路感染症
膵臓や腎臓は、内臓のなかでも背中に近い部位にあるため、炎症により腰痛症状を呈します。炎症が強い場合には、背部の叩打痛のほか、食欲低下や嘔気、発熱などを伴います。確定診断には超音波、CT、MRIなどの画像検査や、採血・尿検査が必要です。
高齢者の腰痛の診断
症状の部位と経過、合併症状の有無、神経学的診察所見、およびレントゲンやMRIなどの画像検査により、総合的に診断されます。
感染や腫瘍が疑われる場合には採血が、また腰部脊柱管狭窄症が疑われる場合には脊髄造影検査も行われます。
最初の診察では診断がつかず、繰り返し画像検査を行うことで疾患がはっきりする場合もあります。
高齢者の腰痛の治療
変形性脊椎症、腰部脊柱管狭窄症の場合には、まず内服薬や理学療法による保存療法が選択されます。保存療法の効果が不十分な場合は、ブロック注射や手術療法も選択肢となります。
圧迫骨折による場合は、コルセットによる脊柱の安静、骨粗鬆症の治療も疼痛軽減に有効です。
高齢者の腰痛のケア・予防
残念ながら、加齢性変化を予防することは困難なため、対症療法がメインとなります。
腰痛があるからといって安静にしすぎると、下肢筋力や心肺機能の低下、骨粗鬆症の悪化につながります。危険な腰痛ではないことが明らかな場合は、適切な加療で症状を抑えながら、生活活動度を保つことが重要です。ほかに、骨粗鬆症や腰部脊柱管狭窄症の増悪因子となるような生活習慣を正すことも大切です。