麻痺
公開日:2016年7月26日 04時00分
更新日:2019年6月19日 14時46分
麻痺の症状
麻痺とは、「神経又は筋肉組織の損傷、疾病等により、筋肉の随意的な運動機能が低下又は消失した状況」と定義されます。つまり、脳や脊髄(せきずい)から末梢神経までの運動神経や筋肉のどこかに障害が起こり、動かそうと思っても体の一部(もしくは全部)が思い通りに動かない、ということです。
麻痺の症状は、身体の一部または全部を全く動かすことのできない(重度の筋力低下がある)「完全麻痺」と、少しは動く(軽度から中等度の筋力低下を認める)「不完全麻痺」に分けられます。
一口に「麻痺」といっても、症状が出る部位によって片側の上下肢が動かない「片麻痺(へんまひ)」、両側の下肢がともに動かせない「対麻痺(ついまひ)」、全身が動かせない「四肢麻痺」、例えば手の指や左足などといった一側の上肢または下肢(の一部)のみが動かせない「単麻痺(たんまひ)」に分けられます。
麻痺の原因
麻痺は様々な病気が原因で起こります。例えば脳の中枢神経に障害を与える脳梗塞や脳出血・脳膿瘍(のうよう:膿(うみ)がたまること)、ウイルス性脳炎など脳の病気、神経の圧迫(顔面神経麻痺、橈骨(とうこつ)神経麻痺、手根管(しゅこんかん)症候群、椎間板ヘルニアなど)、神経や筋肉自体が障害されて生じる重症筋無力症や筋ジストロフィー、多発性硬化症や神経ベーチェット、筋萎縮性側索硬化症などの病気、電解質異常で起こる周期性四肢麻痺など内科的疾患によるものなどがあります。
また、日常生活で麻痺を生じる原因としては、フグやきのこ・野草などに含まれる自然毒を摂取すること、また長時間同じ姿勢を取ることによる神経の圧迫などが挙げられます。
麻痺の診断
麻痺の診断は、麻痺が生じている部位や進行速度(急に起こったか、それとも徐々に起こったか)によって異なります。
片麻痺の場合は脳の病気が疑われます。急に起こる場合は脳梗塞や脳出血を、ゆっくり起こる場合には脳腫瘍や慢性硬膜下血腫などを疑い、頭部CTもしくはMRI検査を行います。それで異常がない場合には脊髄の病気を考え脊髄MRI検査が行われます。
対麻痺、四肢麻痺、単麻痺の場合には必要に応じて筋電図検査や神経伝導検査、血液検査やMRI検査などを行い、診断を行います。
麻痺の治療
麻痺の治療は、原因となる疾患によって大きく異なります。
脳や脊髄の腫瘍、もしくは椎間板ヘルニアや手根管症候群などの神経の圧迫が原因である場合には、腫瘍を摘出したり神経の圧迫を解除することで、麻痺が治ることがあります。
重症筋無力症や周期性四肢麻痺などの場合は、薬による治療が中心です。
一方で、重度の脳梗塞や筋萎縮性側索硬化症、デュシェンヌ型筋ジストロフィーなど、残念ながら現時点では有効な治療法がない麻痺も存在します。
いずれの場合も主治医の許可があれば、積極的なリハビリテーションを行うことで、完全麻痺への進行を抑えたり、麻痺に伴う拘縮(こうしゅく:筋肉や周りの組織が固まってしまい関節が動かなくなること)などの合併症を減らすことができます。
麻痺の予防・ケア
麻痺のある方のうち脳梗塞の急性期などの場合、安静にして横になっていることが必要な時期があります。このときに必要なのが、関節を良肢位(りょうしい:日常生活動作に最も支障の少ない関節の角度)に保つことです。良肢位が保てないと、拘縮などの二次的障害の原因となります。
高齢者の場合はもともと筋力が落ちている方が多く、そこに麻痺が加わると適切な体位を取ることが難しくなります。長時間同じ体位でいると、床ずれ(褥瘡:じょくそう)などの原因となります。枕などを用い、定期的に体位交換を行うことも重要です。
その際に気を付けたいのが、骨折や脱臼です。特に拘縮をすでに起こしてしまった方の場合、少し引っ張っただけで脱臼することがあります。不全麻痺などで体が動く方の場合でも、車いすへ乗せてあげる時や歩行練習などの時に少しぶつけただけで、骨折してしまうことがあります。麻痺を起こしている手足は感覚もないことが多いですので、介護者が麻痺側を保護してあげることが必要です。