高齢者の低栄養
公開日:2016年7月25日 03時00分
更新日:2023年8月 2日 10時55分
低栄養とは
低栄養とは食欲の低下や、噛む力が弱くなるなどの口腔機能の低下により食事が食べにくくなるといった理由から徐々に食事量が減り、身体を動かすために必要なエネルギーや、筋肉、皮膚、内臓など体をつくるたんぱく質などの栄養が不足している状態のことをいいます。
意外と多い低栄養の高齢者
厚生労働省が発表した「令和元年度 国民健康・栄養調査結果の概要」1)によると、65歳以上の低栄養傾向の者(BMI≦20kg/m2)は、男性12.4%、女性20.7%となっています。また、85歳以上では、男性17.2%、女性27.9%となりました。すなわち、年齢が上がっていくにつれ、知らず知らずのうちに低栄養状態に陥ってしまうリスクが高いことがわかります。
また、要介護高齢者においては20~40%、入院中の高齢者においては30~50%の割合で低栄養が見られるといわれています2)。
低栄養の症状
日々の食事が気づかないうちに体に必要な栄養素が不足していたり、偏っていたりすることによって身体に以下の様々な変化が起こります。
- 体重減少
- 骨格筋の筋肉量や筋力の低下
- 元気がない
- 風邪など感染症にかかりやすく、治りにくい
- 傷や褥瘡(じょくそう:床ずれ)が治りにくい
- 下半身や腹部がむくみやすい
また、食事量が減ると同時に水分の摂取量も減るため脱水症状がみられることもあります。
脱水と低栄養の両方でみられる症状
- 食欲がない
- 口の中が乾いている
- 皮膚が乾燥し弾力がない
- 唾液に粘り(べたべたした感じ)がある
低栄養の原因と影響
高齢者の食生活・食事内容は、慢性的な疾病や加齢に伴い衰える身体機能、経済的困窮や独居などの居住形態による社会的側面、配偶者やペットの死によるストレスなどの精神・心理的側面など、様々な要因の影響を受けます。低栄養はそれらの側面の1つないし複数により、食欲低下や食事摂取量の減少、栄養が偏った食事に繋がることによって起こると考えられます。食事量が減れば体力も減少するため、活動量も減りさらに食欲低下となり低栄養を招きます。
低栄養の主な原因
身体的側面
筋力の低下や下肢の疼痛などから長い距離を歩いたり、重たいものを運ぶのが難しくなったり、億劫に感じたりします。そのため、買い物に出かけても即席麺やパン類など軽いものを購入しがちです。また、調理する人が腰や膝の痛みなどから、調理のために長時間立つことに苦痛を感じるようになると、調理を簡単にするため、調理済みの加工食品などで済ませたり、品数を減らしたりすることもあります。また、噛む力の衰えや味覚低下などの口腔機能の問題や、下痢・便秘など消化吸収機能の問題からも食欲が低下したり、1日の食事を3食から2食に減らしたりする場合もあります。
社会的側面
独居や社会的孤立による閉じこもりや、過疎地域など交通手段に制限がある場合などから、買い物に出かける回数は少なくなります。また、住まいから近くに生鮮食品店がないなどの理由から、腐りやすい生鮮食品の購入を控え、保存がしやすい菓子パンや加工食品、即席麺やレトルト食品などの購入が多くなる場合があります。また、経済的に困窮している場合も、生鮮食品の購入を控えたり、食べる量を制限したり、食べる食品が偏ったりすることに繋がります。
精神・心理的側面
高齢者は、配偶者やペットとの死別による喪失体験から精神的ストレスを受け、食欲が低下する場合があります。高齢者の喪失体験は、加齢に伴う身体的な衰えから以前できたことが出来なくなったといったことからも生じます。「歩くのが遅くなった」「耳が聞こえにくい」「食べるときにむせたり食べこぼしたりするようになった」「車の運転がおぼつかなくなった」のような喪失体験からも精神的ストレスを感じます。また、これらのような喪失体験が原因で、他の人との関わりを閉ざしてしまい、孤立感などから精神的ストレスにつながる場合もあります。また、認知機能の低下により、買い物に出かけても同じ品物ばかり購入したり、味付けがおかしくなったり、作る料理が限られてきたりするなどといった問題が生じる場合もあります。こういったケースでは調理する人の配偶者にも栄養不良が生じます。
低栄養の及ぼす影響2)
高齢者にとって低栄養は健康障害に直結します。感染症、褥瘡、創傷治癒の遅延、骨格筋萎縮などが現われます。また、筋肉量・筋力や骨量が減少することにより、転倒や骨折のリスクが増加します。高齢者になると折れた骨や傷の治りも悪くなるため、痛みなどにより動くことが減ってしまうと、筋肉量・筋力はさらに低下しサルコペニアの状態になります。サルコペニアは、筋肉量・筋力が低下した状態であるため、疲れやすくなったり、活力が低下したりすることで身体活動量が低下します。身体活動量が低下することで、1日のエネルギー消費量が減って、食欲が低下し、食事の摂取量が減少してさらに低栄養となります。
また、筋量や筋力の低下に加えて認知機能の低下など精神的な面の機能低下も加わると、さらに活動量が低下し、社会的な側面も障害され、日常生活に支障をきたすようになります。日常生活に介護が必要な状態となるとますますエネルギー消費量は低下し、食事量が低下するといった低栄養となる悪循環を繰り返しながら、心身が衰えた状態である「フレイル」は進行していきます。
低栄養の診断
低栄養の指標として身体計測や血液検査値が用いられます。
身体計測
体重の変化は低栄養状態を把握するうえでとても重要です。
低栄養のリスクの目安
「体重が6か月間に2~3kg減少」または「1~6か月間の体重減少率が3%以上」。BMI(体格指数)は18.5kg/m2未満が「やせ」の範囲で、18.5未満より下がるほど死亡率が高くなります。
血液検査値
- 血清アルブミン値 3.8g/dl以下
- 血中総コレステロール値 150mg/dl未満
- 血中ヘモグロビン値
低栄養の治療
食事量の減少、食欲の低下などのあらゆる原因をみつけ、根本となるところを改善していきます。
義歯
咬み合せの不具合や義歯が不安定であれば、歯科医師と相談し適合する義歯を作ります。
食事の摂取量を増やす
少食で1度に沢山食べられない時は、間食で牛乳や乳製品、果物、市販の栄養調整食品からカロリーやたんぱく質を補います。
低栄養のケア・予防
1日3食食べる
1回に食べる量が少ないため、1日3食食事をしないと1日に必要なエネルギーやたんぱく質が不足します。
また規則正しい食事リズムは生活リズムを整えることにもなり、活動することで空腹感も感じられ、きちんと食事をとることにつながります。
栄養バランスの良い食事をよく食べる
甘い菓子パンや、カップラーメンや袋麺類など加工食品で食事を済ませず、肉、魚、卵、乳製品、大豆製品などたんぱく質を多く含む食品を毎食おかずに1品入れましょう。主食・主菜・副菜には好きな物だけに偏らず、多種多様な食品を取り入れることで栄養をバランスよく摂取することができます。
とくに日本食は昔から「一汁三菜」と表現され栄養バランスの整いやすい食事です(図)。ただし塩分過剰になりがちなので汁物は1日1杯程度にしましょう。
楽しい食事にし、美味しく食べる
デイサービスなど地域支援事業に参加し、外出する機会をつくり誰かと一緒に食事を楽しむようにします。
栄養補助食品の利用
栄養補助食品は毎日の食事だけでは補えない栄養素を補うために便利な食品です。低栄養の方や、口腔機能の低下から固形物にて十分に栄養を摂取できない方にも栄養補助食品は役立ちます。栄養補助食品はゼリー状、またはドリンクタイプが多く、味や風味もデザート感覚のものもあり、食べやすく工夫された形で販売されております。また、高カロリーのエネルギー補給するものや、たんぱく質を補給するもの、ビタミンを補給するものなど、目的や用途に応じて種類が豊富にあります。栄養補助食品は薬剤師のいる大型薬局やスーパーなどで販売されています。栄養補助食品の選ぶ際には、かかりつけの薬剤師やかかりつけの医師に、体の状態や食生活などを伝えて、適切なものを選んでもらうと良いでしょう。
文献
- 日本老年医学会:老年医学系統テキスト.初版,西村書店,東京,2013年,87p