腹水
公開日:2016年7月26日 21時00分
更新日:2019年5月30日 12時01分
腹水はおなかに水がたまった状態です。もともとお腹の中には腸がスムーズに動くために50ml程度の腹水が存在しています。しかしこの腹水が検査で目に見えるようになると腹水貯留といいます。
通常、腹水は腹膜などで産生され、同じく腹膜や血管で吸収されてバランスを取っています。
腹水の症状
腹水は少量であれば自覚症状はあまりみられません。大量になるとお腹が膨らんで蛙腹になったり、おへそが飛び出ることもあります。胃が圧迫されて食事がとれなくなったり吐き気が出ることもあります。肺との境界である横隔膜を押し上げて肺が膨らみにくくなり息切れを感じることもあります。足に行った血液が心臓に戻りにくくなるため足がむくむこともあります。
腹水の原因
腹水は「腹水が過剰に産生」されたり「腹水の排出が妨げ」られて発生します。
特に腹水が増加するときに関係しているのは血管内圧の上昇とアルブミンです。
ここでいう血管内圧とは普段皆さんが腕で測定する血圧ではなく、特にお腹の中の血管の圧を意味します。不要になった腹水は血管に引き込んで排出されていますが、お腹の中の血管の内圧が高いとそれ以上の液体を引き込めなくなり、腹水の吸収ができなくなります。さらに圧が高いことで逆に血管から水がしみ出て腹水が増える原因にもなります。
腹水の排出がうまくできないもう1つの原因がアルブミンの減少です。アルブミンはたんぱく質の1つです。アルブミンは血管の中の水分量を保ったり、余分な水分を血管に取り込む役割をしています。このアルブミンが不足すると腹水を血管内に取り込めなくなり、場合によっては血管内の水分が血管の外に滲(し)みだして腹水になるのです。
この両方の原因がおきる代表の疾患が肝硬変です。肝臓は全身の血液を集めて栄養を蓄えたり解毒したりしていますが、肝臓が硬く変化してしまうと血液が肝臓に入りにくくなり、滞った血液がしみ出る形で腹水になります。さらに肝硬変の場合は肝臓で作られるアルブミンの量が減るため血管内に水分がとどまりにくくなり、水分が血管からお腹にしみ出やすくなります。
また腹水を作ったり排出したりして調節している腹膜に炎症が起きるとこの調節が崩れて腹水が増加することがあります。
腹水はたんぱく質がどれくらい含まれているかによって滲出液と漏出液に分類されます。
- 滲出(しんしゅつ)液たんぱく質の多い液体です。
- 漏出(ろうしゅつ)液たんぱく質の少ない液体です。
滲出液 主に炎症が原因
- 細菌性腹膜炎
- がん性腹膜炎
- 急性膵炎など
漏出液 主に血管内圧の上昇やアルブミン不足が原因
- 肝硬変
- 門脈圧亢進
- うっ血性心不全
- ネフローゼなど
腹水の診断
腹水は大量であれば腹部診察だけで診断がつくこともありますが、画像検査では超音波やCTを使用して診断します。
腹水の原因を診断するためにお腹に針を刺して腹水を抜く検査を行うこともあります。腹水が滲出液か漏出液か、色や濁り、血液・細菌・癌細胞の有無などを調べます。
腹水の治療
腹水の治療は安静と塩分制限、腹水を尿として排出するための利尿剤を使用します。安静にして横になっている時間を増やすことで、肝硬変の人の場合は肝臓に血液が入り込みやすくなり腹水の産生が減ります。また腎臓に血液が届きやすくなり余分な水分を尿として排出しやすくなります。
塩分は体に水分をためやすくなり、利尿剤を使用していても効きにくくなってしまうため制限が必要です。病状によっては摂取する水分量も制限されることがあります。
症状が強く、急いで腹水を減らす必要があるときにはお腹に針を刺してある程度の腹水を排出します。腹水には水だけでなく体に必要な栄養分も含まれているため、場合によっては抜いた腹水から水分を取り除いて点滴として体に戻す、腹水濾過濃縮再静注法とよばれる治療が行われることもあります。
アルブミンの不足が腹水の原因である場合は、血液製剤であるアルブミンの点滴を行うこともあります。アルブミンの点滴は使用日数に制限があります。
腹水の予防、ケア
腹水がたまりやすい人は入院中だけでなく、自宅でも安静や塩分制限を続けましょう。通常は1日の塩分を10gまでにしますが、腹水がたまる人はさらに制限して8g以下にします。そのためには低塩の調味料を使用したり、みそ汁やラーメンなどは汁を残すようにしましょう。