健康長寿ネット

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手術リスク

公開日:2016年7月24日 05時00分
更新日:2019年6月21日 13時16分

手術リスクを考えるポイント

 高齢化社会に伴いお年寄りの手術が増加してきていますが、外科学の進歩にともない、現在では高齢の方でも比較的安全に手術が可能となりました。

 高齢の方の手術リスクを考える場合は、生存率や合併症といった短期の成績とともに、患者さんに術後のライフスタイルや生活の質(QOL)についても満足してもらえるよう、「病気は治癒したが、寝たきりになった」というようなことが起こらないように、生活機能(ADL)や生活の質(QOL:Quality Of Life)の手術後変化についての長期成績も考慮していくべきと考えます。

高齢者手術の留意点

 高齢の方の手術が若い人の手術に比べて危険といわれる一番の理由はもともと持っている疾患が多いことです。それらを術前に十分に評価し、術前ケアをしっかり行える待機手術(予定して行う手術)は比較的安全となりました。ただ、術前ケアを十分に行えない緊急手術においては、手術リスクが待機手術の数倍となります。

 また、もともと予備能力の低下している高齢の方では、一旦合併症を起こした場合、非常に危険な状態となりその治療は困難を極めます。したがって、高齢の方では合併症の発症を予防することがより大切となるわけです。

 さらに、術後のADLやQOLについても満足できるものとするためには、術前の評価とそれに従った計画的な術前・術後ケアおよびリハビリテーションを、医療スタッフと患者さんおよびその家族との良好な協力関係で行っていく必要があります。

高齢者手術の術後経過調査

 多くの施設に協力してもらい75歳以上の高齢の方における胃癌・大腸癌待機手術223例の術後経過を術後6ヶ月まで調査しました。これによりお年寄りの腹部手術における手術リスクの現状をみてみます。

 手術による直接死亡は0.4%と少なく75歳以上の方でもかなり安全に手術ができると考えられました。ただ重症な術後合併症の発生率は28%とやや高率で、合併症を併発すると入院期間も延長しました。

 重症術後合併症の中で最も多いのは、せん妄(発生率10%)、ついで呼吸不全(発生率8%)でした(表1)。合併症は女性に比べ男性に約3倍多く発生していました。

表1:急性期術後合併症(重症例)223例中63例(28%)
合併症 症例数
せん妄 23例(10%)
呼吸不全 18例(8%)
縫合不全 9例(4%)
創感染 8例(4%)
肺炎 8例(4%)
高血圧 7例(3%)
無気肺 5例(2%)
不整脈、低血圧 各4例(2%)
DIC、腸閉塞 各3例(1%)
排尿障害、敗血症、真菌感染症、
創し開、吻合部狭窄
各2例(1%)
心不全、黄疸、腎機能障害、腎不全、
尿路感染症、膵炎、腹腔内出血、
腹腔内膿瘍、神経麻痺
各1例

術後のADL(生活機能)変化

 また、退院時におけるADL低下症例は24%で、年齢が高くなるほど癌が進行していたものほど低下しやすいという結果でした。しかし、低下したADLは術後3か月から6か月にはほとんどが回復し(ADL低下頻度:6~7%)、術後の一時的なADL低下は高齢の方ほど生じやすいものの、術後しばらくの間をのりきれば、中長期の低下頻度は低いと考えられました(図1)。

図1:術後のADL変化(Katz Index)を示す棒グラフ。退院時におけるADL低下症例は24%であることをあらわす
図1:術前術後のADL変化(Katz Index)

術後のQOL(Quality Of Life:生活の質)変化

 QOLに関してはいろいろな尺度がありますが、それぞれの尺度の平均値は、

  1. 術前は全国平均より高値を示し、術後は一時低下するものの、術後3か月から6か月で術前値に回復するかそれ以上に上昇するパターン
  2. 術前は全国平均より低値ですが、術直後より徐々に上昇し術後6か月では全国平均以上となるパターンの2パターン

が存在しました(包括的尺度のSF-12を使用)。いずれにしても全てのQOL尺度の平均値は術後6か月でほぼ術前と同等またはそれ以上となり、高齢の方の胃癌・大腸癌切除術後のQOLは外科手術により改善する可能性が高いと考えられました(図2)。

図2:術前術後のQOL変化を示す折れ線グラフ。身体的健康度と精神的健康度はおおむね術後3-6ヶ月で術前値に回復することをあらわす
図2:術前術後のQOL変化

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