嚥下(えんげ)障害でみられる症状
公開日:2016年7月25日 06時00分
更新日:2020年5月13日 14時25分
「食べる」ことは、皆さんにとってどんな意味がありますか?
体を維持する、体を動かすために必要な栄養をとる。それだけではなく「食べる楽しみ」それも重要な意味があるのではないでしょうか。
食べるメカニズム
簡単に食べるメカニズムについてお話しすると、最初に私たちは、「お腹がすいたな、何を食べよう、これを食べるためにはお箸を使う、それともスプーンを使ったほうが食べやすいのかな」と考えます。
それから、食器を手にして食べ物を口に運び、口唇で取り込みます。その時、舌はスプーンのように丸くなって食べ物を受け取ります。
歯で細かくされた食べ物は、舌で唾液と共に混ぜ合わされて一つの塊にされます。その塊は、舌と上あごを使って喉(のど)へと送り込まれます。
これからは、自分の意思とは関係なく反射的に飲み込みが始まります。喉仏(のどぼとけ)が上にあがることで喉頭蓋(こうとうがい)という蓋(ふた)を閉じ、また声門を閉鎖することで、気道に食べ物が入らないように鉄壁の防御をします。同時に、常にしまっている食道の入り口がひらきます。そして食べ物が胃へと送り込まれるのです。
この間わずか600ミリ秒という短い時間で行われます。是非一度舌の動き、飲み込んでいるときの呼吸など意識して飲み込んでみてください。
食べることへの年齢の影響
では年を重ねると何が起きるのでしょう。舌を動かしたり、咀嚼(そしゃく:口の中で食べ物をよくかみ砕き、味わうこと)したり飲み込んだりするのは全て脳からの指令で行われます。また実際に飲み込んだりするのは筋肉の力で行われます。
症状が出ない脳梗塞などで脳の機能が低下していたら、脳からの指令が上手く伝わりません。また最近、足・腰が弱くなったなと感じていたら、それと同じように飲み込む力も弱くなっています。
誤嚥(ごえん)とは
高齢者において肺炎は死亡原因として第4位です。この中には、食べ物を誤嚥して肺炎を起こす誤嚥性肺炎も含まれています。
誤嚥とは、食べ物が誤って気道(気管および肺)に入ることです。普通は、咳をしてそれを外に出しますが、高齢になると咳をする力が弱くなり、少しぐらいの物を誤嚥しても咳が出なくなります。このため知らず知らずのうちに誤嚥して肺炎を起こしたりします。
嚥下障害の症状とは
最近体重が減ってきた。食べるのに時間がかかる。食事量が減ってきた。
飲み込む力が弱くなってしまい、たくさんの食べ物を口に入れると飲み込みにくくなり、喉(のど)に残った感じがして何度も飲み込んで残った物をきれいにしようとします。このため、食事に時間がかかり疲れてしまいます。そのため食事量が減って、十分な栄養が取れなくなります。
食べるものの好みが変わってきた。
以前好きだったものが、食べにくくなり、食べなくなってしまうことがあります。たとえば「お茶が好きだった」のに最近はなかなか水分を取らなくなってしまった。
口から食べ物が出てしまう。よだれが出ることがある。
唇を閉じる力が弱くなり、食べ物が口から出てしまい、よだれが出たりします。このことで食べ物を口に取り込むことが困難になってしまいます。
食事中に鼻水が出る。
鼻と口はつながっています。食事をすると上あごの奥の柔らかい部分が動き、鼻と口の交通を遮断します。しかしこの動きが弱いとうまく遮断されず、食事の水分が鼻水となって出てきます。
言葉が聞き取りにくい。
声は声帯が震えることで出ます。しかし、それだけではただ声が出ているにすぎません。それを言葉として形づくる唇や舌の動きが必要です。
言葉が聞き取りにくいのは、舌の動きが悪いと考えられます。舌の動きが悪いと、食べ物を飲み込みやすい塊にしたり、喉(のど)の奥まで送り込んだりすることが困難になります。
飲み込むときに、舌はとても重要な働きをしています。
むせる。時々熱が出る。
誤嚥をしている可能性があります。
むせるのは体の防御反応で、気道に異物が入るのを防ぎます。
発熱は、誤嚥性肺炎を起こしているサインかもしれません。高齢になると咳の力が弱くなり、少しくらいの食べ物を誤嚥しても咳が出ないことがあります。そのため、知らず知らずのうちに肺炎を起こしてしまうことがあります。
食事中や食後に話をすると痰が絡んだような声になる。
これは飲み込む力が弱く、喉に食べ物が残っているために起こることです。
食事が終わった後、胸がむかむかする。
胃の入り口は、常に筋肉で硬く閉められています。飲み込む瞬間筋肉が緩んで、胃に食べ物が送り込まれます。
しかし、年を取ってこの筋肉の力が弱くなってくると胃の入り口のしまりが悪くなり、胃から食べ物が逆流してむかむかします。
このような症状が、あるときは嚥下に問題があるかもしれません。一度専門医に相談してみましょう。
検査には、簡単なスクリーニング検査と専門医が行なう嚥下造影、ビデオ内視鏡等があります。