介護ロボット
公開日:2016年8月26日 06時00分
更新日:2019年2月 1日 22時21分
介護現場の問題点を解決するロボット技術
近年わが国では、社会の高齢化が世界で最も速く進みつつあります。それに伴い、心身両面で虚弱となり介護を必要とされる高齢者が増え、介護期間も長くなり、介護のニーズはますます大きくなっています。また核家族化にて、高齢者世帯は夫婦のみ、あるいは一人暮らしの場合も少なくなく、以前のように若い世代が同居し皆で親の世話をすることが減り、老老介護や、限られた人に介護負担が集中するなどの問題も起きています。施設に入居している虚弱な高齢者の介護についても、ベッドから車椅子やポータブルトイレなどへの移乗や排泄の介助、認知症の方の見守りと、施設で働く介護者に対する負担も同様に重くなっており、そうした作業で腰を痛めるなどのため仕事をやめる場合もあり、介護現場の人手不足が深刻化しています。
その一方で、わが国には世界に誇れる、高度なロボット技術があります。これまで高性能・高品質な工業製品の生産に使われてきた産業用ロボット技術や、製品開発で培われた企業内の技術を、介護や医療現場に応用し、前述したような家庭内や施設における介護の問題解決につなげようと、一部でロボット技術の導入が試みられています。こうした動きは、産業界から見ても大きな市場性のある次世代産業として期待されています。また企業経営者の中には、培った技術や資財を別の面での社会貢献に生かし、還元したいと考える人も少なくありません。
こうした背景から、次世代産業の育成を目指す経済産業省と、ロボット技術の導入で介護現場の問題点の解決を図る厚生労働省が連携して、下記の分野について平成25年度から重点的に開発支援が行われ、多くの企業が意欲的に介護ロボットの開発や導入に参入してきています。
開発支援のある重点分野は以下に挙げるものです。[経済産業省、厚生労働省のHPより一部改編1)]
(A) 移乗介助 (1)
ロボット技術を用いて介助者が身に着け、抱え上げ動作そのものがパワーアシストされる装着型の機器
(B) 移乗介助 (2)
ロボット技術を用いて介助者が行う抱え上げの行為をパワーアシストする非装着型の機器
(C) 移動支援
高齢者等の外出をサポートし、荷物等を安全に運搬できるロボット技術を用いた歩行支援機器
(D) 排泄支援
排泄物の処理にロボット技術を用いた設置位置調節可能なトイレ
(E) 認知症の方の見守り
介護施設において使用する、センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器のプラットフォーム(土台、基盤)
介護ロボット導入の問題点と今後について
しかし現状ではまだ、次に述べるような問題点もあります。企業側は自社で保有する技術を応用したいと考えることが多く、それが必ずしも介護現場の要望と合うとは限りません。また、現場の状況を詳しく知る前に開発が先行し、ロボットのサイズや操作性が現場に適さない場合もあります。現場の方でも新しい技術の導入に積極的な施設もあれば、不安や戸惑いを持つこともあり、企業側もどの声に合わせた製品にすべきか判断しづらい場合があります。実際には、試作機があって初めて、介護現場に適するものかどうかの判断ができたり、介護する人、される人の声を聴くことができますので、現状では、ほとんどの製品が現場の必要性に合わせて少しずつ改良が試みられている段階です。また、開発当初はできるだけ多くの使用場面を想定して、様々な機能を搭載した試作機を作ることから始める場合も多く、まだまだ高価で、現場へ導入できる価格になっていないことがよくあります。さらに難しい課題として、産業用ロボットでは考慮されてこなかった、人と接触した場合の安全性の確保、特に、虚弱な高齢者に特有の組織の弱さや脆さに十分配慮した製品にする必要があります。
今後は、現場の声を反映しながら、必要最小限の機能を搭載した小型・軽量化された製品をできるだけ廉価に生産することで、近い将来、介護福祉現場でロボットが普及していくと考えられます。日本は高齢社会の問題解決を世界に先駆けて行い、解決方法を発信すべき立場にあります。今後も開発企業と現場が協力し、より実用性の高い機器となるように改良を重ねる努力が必要と思われます。