認知症の薬物療法
公開日:2016年7月26日 09時00分
更新日:2019年11月 8日 16時19分
認知症の薬物療法は記憶障害や見当識障害、遂行障害といった中核症状に対する治療と、うつや不安、幻覚妄想、徘徊や暴力行為といった精神行動症状に対する治療とにわけることができます。
中核症状の薬物治療は1980年代から多くの治療が試みられてきました。認知症では脳内のアセチルコリンという神経の連絡物質が足りなくなっていることがわかっていましたので、それを補う治療法が試みられました。当初はアセチルコリンを直接補う治療が試みられましたがこれは無効でした。現在使用されている薬剤はアセチルコリン系を抑えている酵素をさらに抑えることによってアセチルコリン系を高める薬剤や、グルタミン酸という神経伝達物質の効果を調節する薬剤があります。
国外ではドネペジル、ガランタミン、メトリフォネートなどが使用されており、わが国ではドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンが軽度および中等度のアルツハイマー病に、ドネペジルの高用量やメマンチンが高度のアルツハイマー病に使用できます。これらの薬剤によって記憶障害そのものを改善できるわけではありませんが、進行を少なくとも1年間程度遅らせることができるといわれています。
ドネペジル使用の際の留意点
ドネペジルは心臓の伝導障害(脈の伝わり方の異常)、気管支喘息や肺気腫の患者さん、また胃潰瘍の治療中のかたは慎重に使用することが必要です。
頻度の高い副作用としては100人に1-3人程度、食欲不振、嘔気がでることがあり、少量から投与することが推奨されています。最近はアルツハイマー病以外の認知症としてレビー小体型認知症の適応も取得しています。
開発途中の薬剤
現在開発が進んでいるアルツハイマー病の根本治療薬は、病気の起こる仕組みをストップすることで認知症を予防するものがほとんどです。アルツハイマー病患者の脳内にはアミロイドベータという蛋白質が蓄積するのが特徴で、このアミロイドベータを脳内から排除する方法について各製薬会社は様々な開発を行っています。具体的にはアミロイドワクチンなどの免疫療法、アミロイドベータの産生に必要なβセクレターゼやγセクレターゼ酵素の作用を阻害・修飾する薬剤やアミロイドベータの重合阻害薬など様々な戦略で行われています。
薬物療法の注意点
認知症の精神行動症状に対する薬物療法では、「元気を出して、意欲を高める薬」と、「気持ちを静めて、おとなしくする薬」を区別して用いることが重要です。「気持ちを静めて、おとなしくする薬」は、薬が効いて状態が落ち着いてきたら、減量・中止および副作用の少ない薬物への変更を常に念頭に置きます。精神行動症状は体に何か他の病気がおこってきている時に出現しやすいので、薬物療法を始める前に肺炎や便秘、脳血管障害や心不全などが起こっていないかどうかチェックする必要があります。
また飲んでいるお薬の影響で症状がでたり、生活環境がよくないためにおこっていることもあります。これらの原因を可能な限り調べ除外した後に薬物療法を行うことが望ましいとされています。
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公益財団法人長寿科学振興財団は超高齢社会における喫緊の課題として認知症の実態、診断・予防・ケアについて学術的研究成果を「認知症の予防とケア」と題して研究業績集にまとめました。研究業績集の内容を財団ホームページにて公開しております。是非ご覧ください。