運動ニューロン疾患を伴う認知症
公開日:2016年7月26日 13時00分
更新日:2019年11月 8日 16時20分
運動ニューロン疾患とは?
運動ニューロン疾患とは、脳の運動神経のみ障害を受けることで発症する病気の総称です。運動ニューロン疾患の中で代表的なのが「筋萎縮性側索硬化症」通称「ALS」です。
ALSは原因不明の神経変性疾患の一つで、脊髄の前の部分にある運動神経の細胞と、大脳の運動野皮質の細胞が障害を受けることで、手足や舌、喉、呼吸を動かす筋肉が急速に衰えてしまう病気です。発症後、数か月から数年の経過で衰えていきます。
運動ニューロン疾患と認知症の関係
ALSの特徴として、「四大陰性兆候」と呼ばれるものがあります。
ALSを発症しても、下記の四つの症状は起きないとされていました。
- 眼球運動(目を動かす)
- 他覚的感覚(痛みや温度の感覚)
- 膀胱直腸(尿や便を排泄する)
- 褥瘡の形成(床ずれができる)
これらと同様に、もう一つALSを発症しても起きないものとして考えられていたのが「認知症」です。
しかし、研究が進むにつれて、ALSを含む運動ニューロン疾患を発症しても、ごく一部の患者さんは認知症も併発(へいはつ:同時に病気を発症する)しているということがわかってきました。
そして、ALS患者さんが併発している認知症は、認知症のみを発症している方に比べて特徴な症状が出ることがわかってきたのです。
ALSに伴う認知症の特徴
認知症には、症状や経過などによって様々に分類されます。
認知症全体の割合をみると、アルツハイマー型認知症が50%以上を占めています。
しかし、ALSに伴う認知症では、アルツハイマー型認知症でよく見られる記憶力や見当識(けんとうしき:日時や場所などの把握)の障害はみられません。
一方で、今まで温厚だった方が怒りっぽくなるなどの人格変化や、万引きを繰り返すなどといった問題行動が見られました。
これらは脳の中でも「前頭葉」「側頭葉」が障害を受けることによって起こる精神症状であるため、ALSに伴う認知症はアルツハイマー型認知症ではなく、前頭側頭葉認知症に分類されています。
このように、認知症単体ならば約半数はアルツハイマー型認知症であるにも関わらず、ALSに伴う認知症の場合は、発症率が少ない前頭側頭型認知症であることがほとんどという特徴があります。
ALSに伴う認知症の発症年齢は50歳代が多く、ALSの症状が出る前に認知症の症状が出現するケースや、認知症とALSの症状が同時に出現する例も報告されています。
ALSに伴う認知症の発症率
ALSを発症した方のうち、約30~50%は前頭葉の機能が低下し、前頭側頭型認知症のような症状がみられることが、最近の研究でわかってきました。
また、ALSの症状である運動神経の障害が出る前に、しばしば軽度の前頭側頭型認知症の症状がみられることもわかっており、認知症を伴うALSもALSの一つとしてみなされるようになりました。
運動ニューロン疾患に伴う認知症の治療と予後
運動ニューロン疾患に伴う認知症に対して、現在いまだ根本的な治療方法は確立されていません。
そのため、認知症に対しては向精神薬を用いた対症療法がおこなわれています。
ALSは発症してから平均3~5年で呼吸不全や肺炎、窒息などを起こして死亡に至り、予後が非常に悪い病気ですが、認知症を併発した場合でも、おおよそ同じ予後となっています。
特に運動ニューロン疾患に伴う認知症の場合は精神症状や問題行動が多くみられるため、家族の体力的および精神的負担がかなり大きくなります。そのため、周囲の理解や支援が必須となります。
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