健康長寿ネット

健康長寿ネットは高齢期を前向きに生活するための情報を提供し、健康長寿社会の発展を目的に作られた公益財団法人長寿科学振興財団が運営しているウェブサイトです。

認知症のアロマ療法

公開日:2016年7月26日 04時00分
更新日:2019年11月 8日 16時07分

認知症のアロマ療法とは

 アロマ療法は、植物から抽出した精油※1を用いて行う医療の代替療法の一つとしてアロマセラピーの名で一般的には知られています。

 精油そのものの香りを楽しむことや、精油でマッサージを行い、精油の香りが脳に刺激を与えることによってもたらされる効果や、皮膚を通して体に与えられる作用を期待して行われています。

 副作用が少なく、誰にでも簡単に用いることができるメリットがあり、医療現場でも、ストレスの緩和や精神的なケア、ベビーマッサージやリラックス効果を得るために、神経科・心療内科、小児科、産婦人科、歯科などで活用されています。

 認知症へ対しても、精油の香りを嗅ぐことで脳への刺激を促し、認知症の症状の改善に役立てようと介護施設などでアロマ療法が取り入れられています。

※1 精油:
精油とは、植物の香り成分を抽出したエッセンスのこと1)

認知症に対するアロマ療法の効果

 以前より、精油の持つリラックス効果から、認知症の周辺症状である不穏や興奮状態の改善、睡眠障害の改善がみられるという報告はありました。

 鳥取大学の研究では、介護老人保健施設の高齢者を対象に、28日間アロマ療法を実施したところ、アルツハイマー病の軽度~中等度の患者が、検査において自己に関する見当識※2の改善がみられたという報告があります2)

 これによって、アロマ療法は、認知症の中核症状である認知機能の改善にも効果が有るということが示唆されました。

※2 自己に関する見当識:
自己に関する見当識とは、自分が何者であるか、どこにいるのか、今はいつなのかなど自分の置かれている状況について把握すること

アロマ療法が認知症に効果的といわれる根拠

 鳥取大学の行ったアロマ療法の有用性の研究において、自己に関する見当識の改善がみられたのはアルツハイマー病の患者に限られています。

 アルツハイマー病では、神経原繊維変化※3が新しい記憶や見当識に関与している脳の内嗅皮質や海馬に蓄積します。これらの領域はにおいを感じることにも関連しており、アルツハイマー病患者は、物忘れの症状がみられる前から、においがわからなくなると言われています3)

 一方、海馬では生涯にわたって新しい神経細胞がつくられており、環境によってつくられる神経細胞の量が影響されることもわかっています。

 においは直接、海馬のある大脳辺縁系へと伝えられます。アロマ療法によって、においを刺激として与えることで、海馬で新しい神経細胞がつくられることが促進され、自己に関する見当識の改善に結びついたのではないかと考えられています2)。

 大脳辺縁系には情動に関与する扁桃体もあるため、感情への作用もあること、大脳辺縁系の情報が自律神経に関与する視床下部へ伝えられることで、自律神経の働きが整えられ、身体や心の状態が調整されることも言われています4)。

※3 神経原繊維変化:
神経原線維変化とは、タンパク質の一種が細胞の中で繊維化して沈着する現象のこと

アロマ療法の実施方法

 認知症に対するアロマ療法は、アルツハイマー病患者でしか効果がみられず、また、効果のある精油は決まっています。

 朝(9~11時)に、交感神経を刺激し、集中力の向上、記憶力の強化を促す作用のあるローズマリー・カンファー精油を4滴とレモンの精油2滴、夜(19時半~21時半)に、副交感神経を刺激し、心や身体のリラックス作用のあるラベンダー精油を4滴とオレンジ・スイート精油を2滴、それぞれ、ディフューザー※4で散布することが最も効果的であるとされています5),6)

※4 ディフューザー:
ディフューザーとは、精油の香りを拡散する専用の道具のこと

アロマ療法実施における留意点

  • 高齢者に使用する際には、精油の原液を飲むこと、皮膚につくこと、眼の中に入ることを避けるために、手の届かないところで使用しましょう。火の気のないところで使用することも大切です。
  • 人によっては過敏に反応することや、健康状態や体調によって不調をもたらすことがあるため、医師の治療や投薬を受けている場合は、医師に確認しましょう。
  • 初めて使用する場合は、使用量の半分以下から試しましょう。皮膚の弱い方はかぶれなどの皮膚症状がみられる場合もあるので、事前にパッチテストを行うことがおすすめです。
  • 精油によっては紫外線に強く反応して皮膚の炎症症状を起こすものや、皮膚に強い刺激を与える種類もあるため、用いる精油の性質を確認してから使用するようにしましょう。
  • 精油は保存状態によって成分が変化しやすいため、遮光性のガラス容器でキャップをしっかり締めて保存し、冷暗所で保管しましょう。開封後は1年以内に使い切るようにしましょう。
  • 化学合成品の精油は人体に影響を及ぼす場合があるため、オーガニックのものを選びましょう。

関連書籍

 公益財団法人長寿科学振興財団は超高齢社会における喫緊の課題として認知症の実態、診断・予防・ケアについて学術的研究成果を「認知症の予防とケア」と題して研究業績集にまとめました。研究業績集の内容を財団ホームページにて公開しております。是非ご覧ください。

公益財団法人長寿科学振興財団 「認知症の予防とケア」平成30年度 業績集

参考文献

  1. 精油とは 公益社団法人日本アロマ環境協会(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. アルツハイマー病患者に対するアロマセラピーの有用性 木村有希他13名Dementia Japan 19 :77-85, 2005
  3. 「認知症予防シンポ 富山会場に380人」公益社団法人認知症予防財団(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 認知症とアロマセラピー 鳥取大学発ベンチャー 株式会社ハイパーブレイン(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  5. 認知症予防に対するアロマセラピーの可能性 鳥取大学医学部保健学科生体制御学 助教 谷口美也子 教授 浦上克哉 9.11.12.22.23.24.2 
  6. 【No.11】認知症に対するアロマテラピーの有用性 公益社団法人日本アロマ環境協会(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

無料メールマガジン配信について

 健康長寿ネットの更新情報や、長寿科学研究成果ニュース、財団からのメッセージなど日々に役立つ健康情報をメールでお届けいたします。

 メールマガジンの配信をご希望の方は登録ページをご覧ください。

無料メールマガジン配信登録

寄附について

 当財団は、「長生きを喜べる長寿社会実現」のため、調査研究の実施・研究の助長奨励・研究成果の普及を行っており、これらの活動は皆様からのご寄附により成り立っています。

 温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。

ご寄附のお願い(新しいウインドウが開きます)

このページについてご意見をお聞かせください(今後の参考にさせていただきます。)