認知症ケア・マッピングDCM
公開日:2016年7月25日 17時00分
更新日:2019年11月 8日 15時52分
認知症ケアマッピングとは
認知症ケアマッピング(Dementia Care Mapping 以下DCMという)とは、認知症をもつ人々が過ごすグループホームなどの施設内で、彼らがどの程度よい状態かよくない状態か、また、どのような行動をしているのかなど、認知症を持つ人に焦点をあてて観察する評価方法です。
本人の立場に立った観察方法
英国ブラッドフォード大学のトム・キットウッド教授らによって、パーソン・センタード・ケアを施設で実践するために開発されたものです。1980年代頃の英国では、認知症をもつ人たちのケアが、業務中心の流れ作業となっていました。 そこで、キッドウッドは、業務中心のケアでなく、その人の個性やどんな人生を歩んできたかという「人」に焦点をあて、本人の立場に立ったパーソン・センタード・ケアをすべきだと考えました。そして、パーソン・センタード・ケアが提供されているか否かは、認知症をもつ人たちを詳細に観察し、どのような状態にあるかを見ればわかるのではないかと考えました。
DCMによる観察から記録する物
DCMでは、認知症をもつ人々5名前後を施設の共有スペースにおいて、6時間以上連続して観察し5分ごとに記録を行います。これをマッピングといいます。
マッピングでは、次のことを記録します。
どのような行動をしているか
「歩く=K」「食べる=F」「おしゃべりをする=A」など、ありとあらゆる行動を決められたアルファベットで記録します。その際にできる限り本人の立場で行動を捉えます。例えば、ガシャガシャと大きな音を立てながら、テーブルの上に次々と椅子などを積み上げて満足そうな様子の男性がいたとします。ケアスタッフは危険行為と捉えるかもしれませんが、DCMでは、その人の職歴などを考慮し「仕事に類する行為=V」と記録します。
よい状態かよくない状態か
これは、表に現れている感情面と集中の度合いの両面を数値化することを試みたものです。「極めてよい状態」から「極めてよくない状態」まで+5、+3、+1、−1、−3、−5の6段階の数値で評価します。先ほどの男性を例にとると、ケアスタッフは危険行為だとして「マイナス」と評価したくなるかもしれませんが、満足そうな本人の様子からDCMでは「+3」と評価することができます。
本人とケアスタッフとの関わりはどうか
認知症をもつ人々の尊厳を重視する行為や逆に尊厳を損なう行為が見られた場合、それらを記録します。これは、関わったスタッフを称賛したり批判したりするのが目的ではありません。これらの行為が、彼らにどのような影響があるのかを確認し合い、よりよいケアにつなげることを目的としています。これらのアルファベットや数値の記録を表にしたものを、マップ(地図)と呼びます。ベテランの登山家であれば、詳細な地図を見ればどのような地形の山かを想像することができるのと同様に、このマップを見れば、その人がどのようなケアを受けていてどういう状態にあるかについて概観をつかむことができます。
DCMによって認知症ケアの質を継続的に向上させる
DCMは観察によってケアの質を評価する方法の一つですが、単なる評価法とは少し違いがあります。それは、観察で得られた情報(例えば、認知症をもつ人々が6時間どのような状態で過ごしていたかなど)は、単に観察者から現場のスタッフに言い渡されるものではなく、観察者と現場スタッフが共にデータを基に話し合い、認知症ケアの質の向上をめざす目的で開発された評価法だということです。従ってDCMは、観察評価法であると共に、現場スタッフを中心にケアの質を継続的に向上させるサイクル全体という意味を含むものなのです。
関連書籍
公益財団法人長寿科学振興財団は超高齢社会における喫緊の課題として認知症の実態、診断・予防・ケアについて学術的研究成果を「認知症の予防とケア」と題して研究業績集にまとめました。研究業績集の内容を財団ホームページにて公開しております。是非ご覧ください。