治療できる認知症
公開日:2016年7月25日 23時00分
更新日:2019年11月 8日 15時47分
治療できる認知症とは
古くから回復する認知症があることは知られていましたが、1980年代までは認知症の定義のなかに「症状は慢性に進行性に経過し、回復しないのが通常である」という項目がありました。しかし認知症の病態を呈する疾患の中には「治療可能」であったり、中には「回復可能」であったりすることは明らかであり、またこのような状態を見逃したり、治療をしないでいることが問題であることから1980年代後半からの認知症の診断基準からは「不可逆的に進行性―もとにはもどらず悪化するー」という文言は消滅しています。ただし治療できる=回復するではありません。治療することにより進行を止めることはできても障害された機能はもとに戻らないこともあるからです。
治療できる認知症の原因となる疾患
治療できる認知症の原因となる疾患をおおきく分けると次のとおりです1)。
- 脳内に9.脳の感染症や10.膠原病による血管炎以外の原因で起こる異常状態によるもの
- 脳に影響を及ぼすような全身の疾患によるもの
- ビタミン欠乏によるもの
- 内分泌疾患によるもの
- アルコール
- 薬物
- 重金属による中毒
- 毒物、工業薬品によるもの
- 脳での感染症
- 血管炎をきたすような膠原病によるもの
- その他(外的な要因によるものが多い。)
1.頭蓋内異常状態
- 脳腫瘍
- 硬膜下血腫
- 正常圧水頭症
- てんかん
- 多発性硬化症
- ウィルソン病
2.身体疾患
- 呼吸不全 不整脈
- 重度貧血 多血症
- 尿毒症 低ナトリウム血症
- 肝性脳症
- ポルフィリア
- 脂質異常症
3.欠乏性疾患
- ビタミンB12欠乏
- ビタミンB1欠乏
- 葉酸欠乏
- ペラグラ(ナイアシン欠乏)
4.内分泌性疾患
- アジソン病
- 汎下垂体機能低下症
- 副甲状腺機能低下症
- 副甲状腺機能亢進症
- 反復する低血糖症
- クッシング病
- 甲状腺機能亢進症
- 甲状腺機能低下症
5.アルコール
6.薬物
- メチルドーパとハロペリドール併用
- クロニジンとフルフェナジン併用
- ジスルフィラム 炭酸リチウム
- フェノチアジン
- ハロペリドールと炭酸リチウム併用
- ブローム剤 フェニトイン メフェニトイン
- バルビタール
- クロニジン メチルドーパ
- プロプラノロール
- アトロピン系
7.重金属
- 水銀
- 鉛
- 銅
- 亜鉛
- タリウム
8.毒物工業薬品
- トリクロルエチレン
- トルエン
- 二硫化炭素
- 有機リン
- 一酸化炭素
9.感染
- 梅毒
- 慢性髄膜炎
- 脳膿腫
- 嚢虫症
- ホイップル病
- 進行性多発性白質脳症
- エイズ
- 脳炎
10.膠原病による血管炎
- 全身性エリテマトーデス
- 側頭動脈炎
- サルコイドーシス
- 脳動脈炎
- ベーチェット病
11.その他
- 低酸素脳症 頭部外傷
- 過剰な電気痙攣療法
- 睡眠時無呼吸症候群
- 透析
治療できる認知症の頻度
様々な報告があり一定していません。1972年から1994年までの16の報告のメタ解析によると部分的な回復の頻度は0-23%、完全回復は0-10%の症例にみられたとのことです2)。治療できる認知症の原因となる疾患で個々にどの程度認知症が起こり、どの程度回復するかのデータも乏しい状況です。経験的に出会う頻度が高い疾患は1.の正常圧水頭症、てんかん、2.の低ナトリウム血症と肝性脳症、4.の反復する低血糖症、5.アルコール 9.の慢性髄膜炎、10.の全身性エリテマトーデスやベーチエット病、脳動脈炎にともなうものです。これらは適切な血液検査や脳脊髄液検査、画像検査をすることでいずれも診断可能です。また適切な治療をすることによって回復も期待できます。
関連書籍
公益財団法人長寿科学振興財団は超高齢社会における喫緊の課題として認知症の実態、診断・予防・ケアについて学術的研究成果を「認知症の予防とケア」と題して研究業績集にまとめました。研究業績集の内容を財団ホームページにて公開しております。是非ご覧ください。
公益財団法人長寿科学振興財団 「認知症の予防とケア」平成30年度 業績集
参考文献
- 松下正明:Treatable dementia概念・再考―その誕生と受容をめぐって―.老年精神医学雑誌19:947-952,2008
- Weytngh MD et al: Reversible dementia; More than 10% or less than 1%? ; A quantitative review. J Neurol, 242: 466-471,1995