認知症に対する非薬物的療法
公開日:2016年7月25日 10時00分
更新日:2024年2月 8日 10時32分
非薬物的療法とは
非薬物的療法とは、薬物を用いない治療的なアプローチのことで、リハビリテーションや心理療法などがあります。認知症の方と家族の方を支援する関わりや環境を整えることも大切な治療要素です。
認知症は、不穏、抑うつ、せん妄、攻撃的・拒否的態度、不眠、徘徊などの行動・心理症状が生活面や対人関係上の問題行動として表れます。行動・心理症状は、認知症の方にとって不快な刺激が原因となっていることが多く、周囲の環境や関わり方によって良くも悪くも変化します。
「認知症の方が本人らしい生活を送れるように」、「認知症の方と家族の方が穏やかに過ごせるように」支援するために、安心して過ごせる環境整備や働きかけを行うこと、個人に合った適切な運動や作業・活動の提供を行うことは重要です。認知症の方と認知症の方を取り巻く全ての環境を評価し、行動・心理症状の原因を取り除くためのアプローチを行います。記憶障害や見当識障害、遂行障害などの中核症状に対しても、覚醒を促して指示が入りやすい状態を作る、反復学習を促す、関わるスタッフ全員の対応を統一するなどを行い、外部からの情報が入りやすい環境を作ります。
非薬物的療法の目的
運動や作業・活動を介することで、認知症の方が持っている能力を引き出し、機能を最大限に活かした治療が行なえます。昔好きだったこと、興味のあること、得意だったことは楽しく取り組めるので継続して行えます。継続することによって持続性も向上し、昼間の覚醒時間も確保できます。活動を遂行することで本人の自信や肯定的な感情が得られるので、不穏や問題行動も落ち着き、家族の方も穏やかな気持ちで過ごせます。
- プラスの感情を引き出すことによって、精神的な安定をもたらし、不安や混乱を抑えて周囲との穏やかな時間が持てるようにします。
- 昼間に活動に参加して覚醒や活動性を促します。また、昼夜のリズム付けを行うことで夜間の安定した睡眠を促します。
- 活動を継続して脳の活性化を促し、身体機能や認知機能を保ちます
- グループ活動は、他の人との関わりやコミュニケーションを促し、一人では得られない感情や刺激を体験できます。
- 家族の方が普段目にすることのない本人の表情や姿を見ることで、本人への理解が深まります。
非薬物的療法の種類と効果
リハビリテーション〔理学療法(運動療法)、作業療法〕:
歪んだ姿勢を整えて痛みの軽減や活動を行いやすくする、立位・歩行の安定性を高めて転倒のリスクを軽減する、作業・活動を提供して覚醒を促し、持久性の向上や精神的な安定を図る、トイレや部屋の位置がわからず不穏行動が目立つ場合は、目印をつけてわかりやすくする、など、身体的な環境と周辺の環境を整え、運動や作業・活動を通して「本人らしい生活」が送れるように支援します。
心理療法
- 回想法
- リアリティオリエンテーション
- バリデーション療法※1
- ※1バリデーション療法:
- バリデーション療法は、認知症の人の「感情」を中心にした対話・コミュニケーション法です。徘徊や不穏などの問題行動も、全て意味のある行動として捉えて訴えを傾聴し、共感します。正しい行動を褒めて適切な行動が増えるように導きます(リンク1)。
その他の治療法
- 音楽療法
- 芸術療法
- タクティール®ケア※2
- アロマセラピー
- 園芸療法
- 学習療法
- ペットセラピー
- レクリエーション療法など
音楽や絵画、香り、園芸、プリント課題、動物、回想などを通して、感覚や認知、感情、行動への働きかけを行い、脳の活性化や精神的な安定、問題行動の軽減を促します。対象者によって効果のある治療法は異なります。対象者の生活をより良いものにするために必要なことを促して、本人が前向きに楽しんで行える方法を選択します。治療によってどう変化したかを評価することも大切です。
- ※2 タクティール®ケア:
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- タクティール®ケアとは、ラテン語の「タクティリス(Taktilis)」に由来する言葉で、「触れる」という意味があります。 意味が示すように、手を使って10分間程度、相手の背中や手足を「押す」のではなく、やわらかく包み込むように触れるのがタクティール®ケアです。手で身体を包み込むように優しく触れることで、精神的な安定をもたらします(リンク2)。
関連書籍
公益財団法人長寿科学振興財団は超高齢社会における喫緊の課題として認知症の実態、診断・予防・ケアについて学術的研究成果を「認知症の予防とケア」と題して研究業績集にまとめました。研究業績集の内容を財団ホームページにて公開しております。是非ご覧ください。