回想法
公開日:2016年7月26日 08時00分
更新日:2019年11月 8日 16時12分
回想法とは
回想法とは、昔の懐かしい写真や音楽、昔使っていた馴染み深い家庭用品などを見たり、触れたりしながら、昔の経験や思い出を語り合う一種の心理療法です。1960年代にアメリカの精神科医、ロバート・バトラー氏が提唱し、認知症の方へのアプロ―チとして注目されています。
昔の思い出は、高齢者の方が今まで歩まれてきた人生そのものであり、昔を懐かしんで話をされている時は、自然と穏やかな表情になっていらっしゃることでしょう。語り合う相手がいれば、喜びや幸せな気持ち、大変だった経験を乗り越えてきたことも一緒に分かち合い、充実した時間を過ごすことができます。楽しかったこと、辛かったこと、家族や友人とのエピソード、生き抜いてきた社会的背景など、人それぞれ過ごしてきた時間は異なります。今までの自分の人生を振り返り、人生を再確認することで、現在の自分も肯定的に受け入れやすくなります。昔の思い出に親しむことはごく自然なことであり、回想法は今の自分を認め、人生を豊かにするための手段のひとつとも言えるでしょう。
回想法の効果
認知症の方は、最近の記憶を保つことは困難ですが、昔の記憶は保持されています。昔のことを思い出して言葉にしたり、相手の話を聞いて刺激を受けたりすることで脳が活性化し、活動性・自発性・集中力の向上や自発語の増加が促され、認知症の進行の予防となります。また、昔の思い出に浸り、お互いに語り合う時間を持つことで精神的な安定がもたらされます。
共有の話題を楽しむ仲間と過ごすと不安や孤独感が和らぎ、自分の話を聞いてもらえているという満足感も得られるので、高齢者に多いうつ症状の改善・予防にもなります。グループの対象者同士のコミュニケーションの促進や、高齢者の方の人生や考え方を実施者が知り、日頃の介護に活かすこともできるでしょう。
回想法の実践方法
マンツーマンで行う個人回想法と10名前後で行うグループ回想法とがあります。
グループ回想法は、グループ活動に参加可能な対象者10名前後のグループを作り、スタッフ2名(リーダー、サブリーダー)を立てます。1クール8~10回とし、事前に対象者の個人情報や生活歴などを調査して、対象者の触れられたくない話題は避けるようにします。「子供時代の遊び」や「旅の思い出」などの気軽に話せるテーマを決定し、1時間ほど実施します。
回想法を実施するには知識・技術の習得が必要なので、研修会などへ参加して関わるスタッフへの理解を深めることが大切です。話題に出たことの守秘義務は守り、安易な肯定・否定はせずに対象者のペースに任せて傾聴を心がけましょう。なるべく同じ時間・曜日で継続する方が定着しやすく、見当識を促すことにもつながります。
個人回想法では、何気ない日常会話からスタートして自由に話をする方法と、あらかじめ決めたテーマについて1対1の面談という形で話をする方法とがあります。形式にこだわらずに自宅で昔のドラマを見たり、昔良く聞いていた音楽をかけたりしながら家族間で会話をすることや、在宅介護の訪問スタッフがコミュニケーションの一環として、昔の思い出を聴くことでも回想法を取り入れることができるでしょう。
回想法に必要な道具
視覚や聴覚、触覚、嗅覚、味覚などの五感を刺激して昔のことを想起しやすくするために、昔の写真や音楽、歌、本、新聞、映像、地図、おもちゃ、生活用品、着物、季節の花や地域の特産物、季節の行事を想起するもの、香りがするものなどを用意します。
回想法を受けられる施設
回想法は認知症のアプローチとして実施されていることが多く、全国の認知症専門病棟やフロアを設けている病院・高齢者施設、一部のデイケア・デイサービスで行われています。北名古屋市では地域の事業として「回想法スクール」が開催されています。
関連書籍
公益財団法人長寿科学振興財団は超高齢社会における喫緊の課題として認知症の実態、診断・予防・ケアについて学術的研究成果を「認知症の予防とケア」と題して研究業績集にまとめました。研究業績集の内容を財団ホームページにて公開しております。是非ご覧ください。