認知症に対する運動療法
公開日:2016年7月26日 05時00分
更新日:2023年8月 4日 13時22分
運動療法とは
運動療法は、運動を通して関節機能の改善、筋力の増強、全身耐久性の向上、動作の改善、転倒予防、痛みの緩和などを目的とし、身体機能の改善や生活の質の向上を図ります。認知症の予防、改善に効果があるとことがわかっています。
運動の内容は、対象者の状態や目的に合わせて選択されます。運動療法には施術者が対象者の身体を他動的に動かすものと、対象者自身が自ら動く自動的なものとがあります。
運動療法の種類
1.関節可動域訓練
関節の動きが制限されている部分に動きを加え、関節の動きの改善、関節拘縮の予防を図ります。
2.筋力増強訓練
筋力が低下している筋肉を動かし、筋力の増強を図ります。重錘や徒手で抵抗を加えて行うこともあります。
3.ストレッチ
短縮や萎縮を起こしている筋肉を伸張して、柔軟性・粘弾性を促します。
4.持久性・耐久性を促す運動
動作や活動を長時間続けられるための心肺機能、筋持久力、全身の持久性・耐久性を促します。
5.協調性を促す運動
目的の動作を行うにあたって、力加減や方向、四肢・体幹の連動した動きなどの調整が難しく拙劣な動きになってしまうことに対して、滑らかで効率の良い動きの獲得を促します。
6.基本動作練習
寝返り、起き上がり、座る、立つ、移乗する、歩行などの日常生活に必要な基本的な動作の練習を行います。
7.有酸素運動
ウォーキング、水泳、ラジオ体操など
運動療法の効果
加齢や認知症の症状により、徐々に身の回りの動作が行えなくなってくると、筋力低下、心肺機能の低下、持久性・耐久性の低下、関節可動域の低下などが起こります。身体機能が低下すると、日常生活動作がますます困難となり、寝たきりへと進行します。転倒のリスクも高くなり、骨折や怪我の原因となることや、関節拘縮を起こすと、介助量も多大となります。運動療法を行い、身体機能を維持することで、生活の質を保ち、介助量を軽減することができます。
運動を行うことで脳の活性化が促されますが、「10 分間の軽運動でも実行機能課題成績が向上すること」や、「音楽体操群で、視空間認知が有意に改善」するなど、認知症で障害される認知機能の改善にも効果があることがわかっています。
運動療法の実践方法
認知症の方は、他動的に身体を動かされることに不安を感じる方が多く、散歩する、ボールを転がすなどのレクリエーション要素を取り入れた活動の中で、自動的に身体を動かせるプログラムを行うことが多いです。風船バレーでは、自発性の低い方でも反射的に手を出すことが見られます。音楽を流したり、リズムをとったりして、身体を動かしやすくするきっかけを作ることも有効です。コミュニケーションがとりづらい、指示が入りにくいといった症状が見られる場合には、対象者の身体を直接的に誘導して運動を促すこともあります。寝たきりの方では、他動的に関節を動かして関節拘縮の予防を図ることや、ベッドから起き上がる、座るなどできるだけ抗重力姿勢をとることを促します。
認知症の予防としては、両手を広げて足は閉じるなど、手と足と別々の動作を行う課題や、しりとりをしながらボールを回すなど、頭で考えながら身体を動かすことを行います。
運動療法が受けられる施設
全国の理学療法士または作業療法士がいる病院・施設や、各市町村で開催されている認知症予防教室などで受けることができます。認知症予防体操として、国立長寿医療研究センターから「コグニサイズ」が公表されています。
関連書籍
公益財団法人長寿科学振興財団は超高齢社会における喫緊の課題として認知症の実態、診断・予防・ケアについて学術的研究成果を「認知症の予防とケア」と題して研究業績集にまとめました。研究業績集の内容を財団ホームページにて公開しております。是非ご覧ください。