高齢者の心理的特徴
公開日:2016年7月25日 14時00分
更新日:2019年2月 1日 15時39分
高齢者の心理的な特徴には、大きく分けて「精神機能」と「知的能力」があります。
精神機能の老化は、個人差が大きいという特徴があります。その理由は、中枢神経系が年齢を重ねて変化をしていく中で、心理的、身体的、環境的な要因が加わり、その結果として精神機能の症状が出現することだといわれています。
特に記憶に関しては、「新しいこと」を覚えることが困難になります。これは、記銘力(きめいりょく:新しいことを覚える能力)が低下するためです。
また、短期記憶の機能も低下するため、直近の出来事を思い出せない、覚えていないということもよくあります。
さらに、過去のことについては覚えているものの、思い出すのに時間がかかるようになります。これは想起力(そうきりょく:以前の出来事を思い出す能力)が低下するためです。
これらに加え、注意力や集中力の保持をすることが難しくなります。
知的能力の面で見てみると、高齢者は計算や記銘といった単純作業や、知的作業の能力は低下するとされています。しかし、言語的理解能力のような、経験や知識に結びつけて判断する能力は、比較的高齢まで維持されます。
しかし、たとえ記憶力が衰えていても、理解力がそれを補ってくれることもあるため、高齢であっても新しいことを学び、優れた能力や創造性を発揮する可能性もあります(表1)。
人名 | 偉業 |
---|---|
ミケランジェロ | サン=ピエトロ大聖堂の改築を手掛けたのは、70歳を過ぎてから。88歳で亡くなるまで、大理石の彫刻を続けた。 |
ゲーテ | 「ファウスト」第2部を完成させたのは、81歳の時。 |
モネ | 視力が衰えていたにも関わらず、自宅の庭の「水連池」をモチーフにした連作壁画を完成させた。86歳で亡くなるまで、制作を続けた。 |
チャーチル | 66歳から71歳までイギリスの首相をつとめ、77歳で再選。80歳で首相を引退後も、執筆活動を続けた。 |
ピカソ | 91歳で亡くなるまで、独創的で若々しいタッチの絵画や、彫刻を制作した。 |
杉田玄白 | 83歳のときに、「蘭学事始」を完成させた。 |
滝沢馬琴 | 74歳のときに、「南総里見八犬伝」を完成させた。 |
加齢に伴う心理的変化
加齢に伴い、心理的にもさまざまな変化を伴うようになります。
精神機能面を見てみると、感情面や人格面では、高齢者は一般的に、年齢を重ねるとともに頑固になり、保守的傾向が強くなります。また、人に対して厳しくなるとともに、疑いの感情を抱きやすくなるといわれています。さらに、死に対する不安から、自分自身の健康状態への関心が異常に高まることもあります。
また、知的能力の面では年齢を重ねても、能力が比較的保たれる一方で、アルツハイマー型認知症などになると、記憶力の低下が顕著に見られることもあります。
これらのことから、高齢者の心理的特徴は年齢のみならず、さまざま病気とも密接なかかわりがあると考えられます。
精神的機能の低下の原因
高齢者の精神機能の低下には様々な原因があるということが特徴です。その中で最も重要視したいものの1つに、喪失体験があります。人は誰でも年を重ねるごとに、友人、兄弟、配偶者との死別を経験し、喪失感を味わうことになります。この喪失感はやがて、生きがいの喪失や孤独感の増強をもたらします。
他にも、定年退職による「職業や社会的立場の喪失」や、身体面の老化といった心理的、肉体上の喪失体験も同様に、精神的機能の低下につながる原因にもなります。さらに、身体的な疾患の合併や、身体機能の低下、環境の変化も、精神機能の低下を招く原因になり得ます。
若者の精神機能の低下は原因が明確であることが多い一方で、高齢者の精神機能の低下は、様々な要因が複雑に絡み合っていることが多いのです。また、この精神機能の低下がうつ病を誘発する可能性も指摘されています。高齢者のうつ病有病率は、比較的軽度なものも含めると、およそ15%であるといわれており、高齢化が進む中で、この割合は年々上昇していくと考えられています1)。
精神的機能低下を防ぐには
精神機能の低下を防ぐためには、他者との関わりが最も重要です。高齢者は、親しい人との死別による理解者の喪失や、身体機能の低下による活動の制限によって、他者との交流も制限されます。こうして「孤独感」を感じることで、精神機能はさらに低下していきます。
精神機能の低下を防ぐためには積極的な他者との交流が必要となります。家族間での声かけや、社会コミュニティへの積極的な参加も、精神機能低下を防ぐための一つの方法です。さらに、生きがいをみつけることも、精神機能低下を予防する方法です。家庭での役割、社会での役割を見出すことで、精神機能低下を防ぐことができます。