循環器系の老化
公開日:2016年7月25日 09時00分
更新日:2019年2月 1日 16時52分
高齢者の循環器の特徴
高齢者になると心臓血管系は肥大や拡張といった変化を起こします。これは全身の多くの臓器が委縮、機能低下する中で、それを補って生命を維持するためであるとされています。また、血圧は年齢が上がるにつれて高くなり、収縮期血圧(上の血圧)は特に上昇します。一方で、拡張期血圧(下の血圧)は60歳を過ぎると低下することが多くなります。そのため、血圧の上と下の差が大きくなるのが高齢者の循環器系の特徴です。
加齢による心臓の変化
心臓は、心筋とよばれる筋肉でできており、休みなく働き続けます。年をとると心筋と心筋の間の部分(間質)にリポフスチン、アミロイドとよばれる異物が沈着し、心臓の筋肉の線維化も進みます。結果的に
- 心臓の壁が厚くなる(心臓肥大)
- 心臓が広がりにくくなる(拡張障害)
などの変化がみられるようになります。
また、大動脈弁や僧帽弁など血液の逆流を防ぐ弁が変性し、肥厚(ひこう)、石灰化が起こります。それによって閉鎖不全症や狭窄(きょうさく)症など、「弁膜症」とよばれる状態になります。また、左心房、右心房も大きくなることによって弁の周囲が拡大するため、弁の閉鎖不全症が起こります。
さらに、心臓の中で電気的な刺激が伝わる経路(刺激伝導系)にも変性が起こることがあります。特に自覚症状がなくても、健康診断などで偶然見つかることがあります。
不整脈
不整脈は、大きく3つに分けられます。
- 脈が速くなるもの(頻脈)
- 脈が遅くなるもの(徐脈)
- 脈のリズムが一定ではなくなるもの
不整脈の原因としては、心臓疾患や高血圧などが挙げられます。高齢になると不整脈の原因となる病気をもつ方が増えるので、不整脈を起こすことも多くなります。
不整脈が一時的であったり、特に日常生活に問題がない場合には経過をみますが、突然の動悸や失神発作、心不全などの症状を伴うものは治療の対象です。治療法には、抗不整脈薬の内服やペースメーカーの埋め込み、カテーテルアブレーションなどがあります。
心筋梗塞
心筋梗塞とは心臓に栄養を送る血管の一部である冠動脈の血流がつまってしまうことで、心臓に酸素と栄養が届かなくなり、心臓の一部が壊死した状態を言います。
30分以上続く重苦しい胸の痛みや、肩や首、背中にまで達する痛み(放散痛)などがあります。治療はカテーテルを用いた再灌流療法(さいかんりゅうりょうほう)や、つまっている血管をバイパスしながら血流を維持する手術を行います。発症は高齢者にも多く、発症時の平均年齢は男性で65歳、女性で75歳とされています。
心臓弁膜症
心臓弁膜症は、何かしらの理由で心臓にある弁に障害が起き、血液が逆流してしまうことを言い、大きく二つの状態を指しています。一つは狭窄症(きょうさくしょう:弁が硬くなり十分に開閉しなくなって上手く血流を維持できない)、もう一つは弁の閉鎖不全(へいさふぜん:弁が上手く閉じなくなり逆流を起こす)です。
狭窄症の例としては、大動脈が硬くなって石灰化し、弁の開きが悪くなることで症状を引き起こす大動脈弁狭窄症があります。閉鎖不全の例としては、大動脈に瘤ができることによって症状を引き起こす大動脈閉鎖不全が多く見られます。
このほか、関節リウマチや感染症が引き金となって、狭窄症や閉鎖不全を起こし、心臓弁膜症になることもあります。
重症例になると、薬物療法やカテーテル治療を行います。高齢者の場合、いずれの場合も「加齢による変化」が要因となることがあります。
狭心症
狭心症とは冠動脈の中が動脈硬化によって狭くなり、それによって心臓に必要な酸素や栄養が十分に送れなくなった状態です。胸に重くるしい痛みが出現しますが、数分から15分ほどで軽減します。
狭心症には様々な種類があります(表1)。
狭心症の種類 | 特徴 |
---|---|
労作性狭心症 | 動いている時に痛む |
安静型狭心症 | 夜眠っている時や明け方に痛む |
不安定型狭心症 | 動作時、安静時ともに痛む |
微小血管狭心症 | 狭心症発作があっても、検査では異常が見られない |
特に、最近3週間以内に狭心症症状が出現した場合や安静時にも出現する、痛みが徐々にひどくなっている場合は、心筋梗塞へ移行する可能性があるので注意が必要です。
加齢による血管の変化
加齢に伴う変化により、血管が老化します。
- 動脈壁の肥厚、エラスチンの減少、断裂内膜の石灰化
- 動脈が拡大する
- 脈派伝達速度が上昇し動脈壁が硬くなる
- 静脈弁の閉鎖不全、静脈瘤
血管の弾性が失われて硬くなると、収縮期血圧は上昇し拡張期血圧が低下します。その結果、収縮期血圧と拡張期血圧の差は大きくなります。また、静脈にも変化がみられるようになり、足の静脈に瘤ができたようになる静脈瘤ができたり、足がむくみやすくなったりします。
フレイル・サルコペニアのリスクにもなる循環器疾患
フレイル・サルコペニアには循環器疾患も大きく関係しています。フレイル・サルコペニアによって介護が必要になった高齢者のうち、約4.5%は循環器疾患によるものと言われています。
循環器疾患があると、全般的に安静を強いられることが多くなり、食事も制限食となります。これらは、フレイル・サルコペニアを引き起こす条件と一致しています。