遺伝から見た老化
公開日:2016年7月25日 05時00分
更新日:2023年8月 3日 13時00分
遺伝と老化
人は誰でも、ある一定の年齢を超えると老化が始まりますが、実年齢よりも若く見える人、実年齢よりも高齢に見える人など、老化のスピードは人それぞれです。これまでに行われた数多くの研究により、寿命との関係性が確認されている遺伝子が多く確認されています。
これらの遺伝子のうち、寿命を延ばす遺伝子として、サーチュイン遺伝子(STR2)という遺伝子についての研究が、現在進められています。サーチュイン遺伝子は、別名「長寿遺伝子」ともよばれ、サーチュイン遺伝子を活性化することで、細胞そのものの若返りが起こります。サーチュイン遺伝子の働きにより、活性酸素の除去や細胞の修復、脂肪燃焼、シミやシワの防止、動脈硬化や糖尿病の予防といった効果があると考えられています1)。
寿命には、食生活やストレス、運動習慣、衛生環境といった環境因子も大きく関係しますが、老化に関係する遺伝子が複数存在していることから、老化と遺伝には密接な関係があることが考えられます。
DNA染色体
DNAとは、「アデニン(A)」「グアニン(G)」「シトシン(C)」「チミン(T)」とよばれる4種類の塩基(えんき=酸と対になってはたらく物質のことで、酸と反応して塩をつくる)がらせん状に繋がったもので、生物の設計図のようなものです。このDNAの一部が、いわゆる「遺伝子」です。
ヒトの遺伝と老化に関係する病気としては、早期老化症(早老症)があります。これは、普通の人よりも早く老化することで、若いうちから老年病を発症する病気です。最近では、この早老症の原因となる遺伝子の研究が進んでいます。原因となる遺伝子がつくり出す物質は、DNAの安定化に関係するタンパク質であることがわかってきました。生物の体にあるDNAは、紫外線などの外的な要因だけではなく、細胞の代謝産物である活性酸素などの内的な要因によって、常に傷つけられています。
これに対して私たちの身体の中には、DNAの損傷を感知して損傷部を修復したり、場合によっては損傷した細胞を取り除き「危険な細胞」が増えないようにして、DNAの安定を保つという機能があります。この「DNAの安定化機構」が破たんすると、細胞のがん化を誘発することが明らかとなっており、がんと老化の間にも何らかの関係があることがわかってきました。実際にがんになる人は40歳をすぎると増加し始め、高齢になるほど高くなっています(グラフ)。男性は50代後半から、女性は40代後半くらいから、がんになる人が増える傾向があります。
つまり、DNAの安定化に関係する遺伝子は、体の中で細胞を変化させる可能性があり、老化にも関係していることが考えられます。
遺伝子による老化の仕組み
前述の通り、遺伝子の元となるDNAは、アデニン、グアニン、シトシン、チミンとよばれる4つの塩基によって形成されています。一つのタンパク質の遺伝子は、ほとんど同じ配列になっていますが、遺伝子の設計図ともいえる「塩基配列の法則」には個人差があり、一つの塩基配列の違い(SNPとよびます)による「遺伝子多型」が存在することがわかっています。
この「遺伝子多型」と老化との関連についてはまだまだ研究途上ですが、動脈硬化・骨粗鬆症・糖尿病などといった、様々な老年病の発症のしやすさとの関連についても、研究が進められています。特に、動脈硬化などの「血管が関係する病気」では、何らかの形で遺伝子が関係していることが明らかになってきました。
これらの研究成果などにより、早老症などの場合はすでに関与する遺伝子が明らかになっていますし、老化には何らかの遺伝子が関与しているといえます。
参考文献
- 教えて!ドクター 第4回 金沢医科大学病院