高齢者の生体リズム
公開日:2016年7月25日 00時00分
更新日:2019年10月17日 11時37分
生体リズムとは
動物、植物そして微生物など、すべての生物が持っている生命現象の周期的な変化を、「生物リズム」あるいは「生体リズム」といいます。
生物は、固体の生存、種の保存、繁栄にとって最適な、空間構造(形態と生活空間)と同時に、時間構造を選択しています。これが生体リズムの本質であり、一定の時間間隔で生命現象、行動が繰り返されます。
生命現象にはいろいろな周期性がありますが、もっとも注目すべきは、24±(プラスマイナス)4時間の周期を持つ、サーカディアンリズム(概日リズム)です。サーカディアンリズム(概日リズム)は、自然環境サイクルの長さ、つまり一昼夜に一致したリズムであり、大多数の生物の基本的なリズムです(図1)。
図1の通り、人の体内の機能も1日のうちでこれほどの違いがあり、生体リズムの中で我々が活動しやすいように体内を調整してくれているのです。
現在、人の体内では300以上のリズムが証明されています。身体の細胞自身にリズムが与えられ、それらの集合による組織としてのリズムが生まれます。これが、脳、心臓、肺などの各臓器にもリズムとして伝わります。こうして人は、持てる機能を最大限に発揮しながら、生活しているのです。
生体リズムを刻むための「体内に備わっている時計」、すなわち「生物時計」は、1972年にアメリカの科学者らによって発見されました。研究者らは、ラットの左右の視神経が交叉(差)する部位(視交叉上核suprachiasmatic nucleus:SCN)に、この生物時計があることを証明したのです。
その後、人でも同じ部位に、生物時計の中枢がある事が明らかにされ、その詳細な機能が解明されつつあります。現在では、生物時計を制御しているのは「時計遺伝子」とよばれる遺伝子であり、これが時計たんぱくと呼ばれる物質の生合成を介して、体内リズムを調整している事が分かっています。
加齢による生体リズムの変化
しかし、加齢によって生体リズムが大きく変化することが分かってきました。最も大きく変化するのはサーカディアンリズムとされ、その振幅が低下してきます。つまり、1日のうちでの体調や身体機能の上下幅が小さくなるのです。元々のサーカディアンリズムの周期が、地球の自転の24時間に近いほど、寿命は長くなるとされています。
また、食事のリズムの変化も、加齢や老化の調節要因であると考えらえています。すなわち加齢によって食事のリズムが乱れると、加齢が加速するということです。
生体リズムの変化は加齢に伴って起こるものですが、一方で、生体リズムの変化がさらに加齢を加速する要因にもなっている、ということなのです。
高齢者の生体リズムの特徴
高齢者の生体リズムにはどのような特徴があるのでしょうか。まずは、前述したように、サーカディアンリズムが変化します。その結果、朝早くに目が覚め、夕方になると眠くなるという人が増えることが特徴です。また、海外旅行などへ出かけた際に「時差ボケ」の程度が大きくなるのも、高齢者の生体リズムの大きな特徴となります。
生体リズムと病気の関連
"西洋医学の父"と称されるヒポクラテスは、今から約2400年前に「規則性は健康の兆候であり、不規則な身体機能や不規則な習慣は不健康状態をつのらせる」と述べ、健康の維持に生体リズムが重要であることを指摘していました。現在のような西洋医学が発展するずっと以前から、生体リズムと健康の関連性は重要視されていたのです。
体の機能に24時間周期があることにより、さまざまな病気にも、発症しやすい、あるいは悪化しやすい時間帯があります(図2)。
図2を見ると、病気にも日内変動が存在しているということが分かります。生体リズムが変化し、日内変動が崩れると、その変化に伴う症状が出やすくなります。場合によっては、治療の効果に影響を及ぼすことも考えられます。