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高齢者の感覚器系の老化

公開日:2019年7月30日 09時00分
更新日:2024年9月 9日 16時27分

感覚器の加齢に伴う変化

 高齢になると、加齢に伴って「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」のいわゆる五感に加えて、「平衡感覚」「運動能力」「免疫能」など幅広く身体機能の低下が生じます。ここでは五感を受け取る感覚器の加齢に伴う低下について解説します。

感覚器とは何か1)

 主な感覚器としては一般的に、視覚、聴覚、味覚、嗅覚を司る器官のことで、具体的には、目、耳、鼻、舌の各臓器のことです。その他に身体全体の表面に分布する感覚器によって触覚、痛覚、温度覚、振動覚などを感じる体性感覚があります。さらに身体の内部では動脈の周囲や内臓をおおう膜に痛覚器官が分布しており、病気によって腹痛や胸痛などを生じます。

 それぞれの感覚器が得た感覚の情報は、脳神経や末梢神経、自律神経を伝わり脳の中で感覚を司る部位に届き、それぞれの感覚を認識します。まずはそれぞれの臓器について解説します。

目で感じる感覚1)

写真1:目の写真

 目は、ものの形、色(色彩、明度、彩度)などを感じ取っています。目はカメラと似た構造をしていますが、レンズの役割をしているのが水晶体で、ここから目の中に入った光は、目の奥にある網膜に映し出されます。カメラでいえば、フィルムに焼き付ける仕組みと似ています。

 網膜に映し出された感覚は、形や色を脳へ伝えます。脳はその信号を受け、目の前にあるのもが何なのか、どのような色をしているのかを判断します。

耳で感じる感覚1)

写真2:耳の写真

 耳は、音を感じ取る感覚器です。耳は、体の外にある耳介から続く外耳道、鼓膜、鼓膜から内側の中耳、その奥にあって迷路のような形状をした内耳に分かれています。

 耳介とは、体の外にある「耳」そのものをさしますが、これはいわば集音器のような役割を担っています。耳介で集めた音は音の通路である外耳道を通り、鼓膜へと届けられます。

 鼓膜は厚さ0.1mm程度の薄い膜ですが、音が届くと振動します。鼓膜の中心部分は常に緊張し、その奥(鼓室)にある3つの小さな骨にその振動を伝えます。鼓室の骨はツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨といい、複雑な形状をしていますが、それぞれの一部がつながり、鼓膜からの振動を順番に伝えていきます。アブミ骨の奥には第二鼓膜と呼ばれる2つ目の薄い膜があり、アブミ骨からの振動をその奥の内耳へと伝えます。内耳は、骨迷路と呼ばれる複雑な形状の骨で囲まれた管腔となっており、ここに集められた音は内耳神経を伝わって脳に伝えられます。

 内耳には音を伝える他にもう一つ、平衡感覚を司るという役割があります。内耳はリンパ液で満たされていますが、ここに異常が起こると平衡感覚が乱れ、めまいなどを起こします。

鼻と舌で感じる感覚1)

 鼻と舌は別々の感覚を感じ取る器官ですが、それぞれが相互に影響し合っています。

写真3:鼻の写真

 鼻は主に、臭いを感じ取る感覚器です。鼻の内部の粘膜には「嗅細胞」と呼ばれる細胞があり、鼻から入った空気の中にある臭い物質を受け取ると、その情報が嗅神経を通じて脳へ伝えられます。

写真4:舌の写真

 舌にはその表面に「味蕾」と呼ばれる細胞があります。食べ物や飲み物が口の中に入ると、舌にある味蕾が刺激され、味を5つの味覚(塩味、酸味、うま味、甘味、苦味)として感じ取ります。これらの感覚は舌からの求心神経を通じて脳へ伝えられます。

 臭いを感じ取る嗅覚と、味を感じ取る味覚は、いずれも私たちの進化の過程で、比較的早くから形作られてきた感覚だといわれています。また、この2つの感覚は相互に作用し、臭いと味を決めています。しかしどちらか一方が上手く機能しないときは、もう一方の感覚も変化することがあります。例えば風邪などで鼻がつまると、美味しいはずの食べ物でも味が分からなくなったり、食べ慣れているはずの食べ物でも違う味に感じてしまうことがあります。

加齢による感覚器の変化

 人は加齢に伴い、「見えにくい」「聞こえにくい」「味が変わった」などの感覚の変化が起きます。一方身体の表面に分布する体性感覚には、加齢による変化はあまりみられません。それぞれの感覚器ではどのような感覚の変化が起きているのでしょうか。

視覚の変化2)

 40歳~50歳くらいから、視覚の老化は始まります。最初に変化が起こるとされているのは、遠方視力の低下です。原因はいくつかありますが、角膜や水晶体での光の屈折力が衰えたり、網膜の老化により光を受け取る能力が衰えることが考えられます。

 その他、加齢との関連がある病気として、表のようなものがあります。

表:加齢と関連のある目の病気
病気視覚障害となる仕組み
白内障 水晶体が濁ることで、視力・色覚に異常を来す。進行はゆっくりだが、少し暗いところでは影や段差が見えにくくなるため、転倒のリスクとなる。
緑内障 目の中の圧力が高い状態が続くと、視覚を集める視神経に異常を来し、視野(見える範囲)が欠損したり、場合によっては失明する。
加齢黄斑変性 網膜にある視神経が集約する部位(黄斑部)の周囲に脈絡膜新生血管と呼ばれる新しく細い血管がつくられ、ここから出血などが起こるとものが歪んで見えるようになる。 進行すると場合によっては失明する。

聴覚の変化2)

 音は、高音域(高く聞こえる音)と低音域に分けられますが、一般に、40歳を過ぎると高い音から聞こえにくさが始まるといわれています。さらに年齢が進み、50歳を過ぎる頃になると、高い音はさらに聞こえにくくなるとともに、低い音も聞こえにくくなってきます。聞こえにくさの進行度は個人差が大きいのですが、高い音ほど聞こえにくさが強くなるといわれています。

 聴覚の老化により老人性難聴となることがあります。これは主に、音を伝える仕組みの中でも、内耳の機能低下によるものが大きいとされ、初期の頃に耳鳴りを感じる人もいます。聴覚の低下(音が全体的に聞こえにくくなる)に加え、言葉も聞きとりにくくなってきます。

嗅覚の変化と味覚の変化2)

 老化が進むと、鼻粘膜の感覚細胞が減ってくることと、嗅覚に関する神経の機能低下により、嗅覚が衰えてきます。多くの場合、男性では60歳代くらいから、女性では70歳代くらいから、嗅覚の低下が認められるようになります。

 味覚も同様に、老化とともに変化します。要因としては、舌にある味蕾の数が減ることや、味覚に関する神経の機能低下が挙げられます。

 前述の通り、嗅覚と味覚は相互に関連し合う感覚です。感覚の変化の進み具合は人によって違いますし、嗅覚から低下する人、味覚から低下する人など、その変化の進み方も違います。しかし、嗅覚と味覚はいずれも、生きるために必要な「食事を美味しく食べる」という行動に影響するため、早めに対応することが大切です。

参考文献

  1. 坂井健雄ら(編):カラー図版 人体の正常構造と機能.第2版,日本医事新報社,東京,2014年,P708, P718, P732
  2. 社団法人 日本老年医学学会:カラー版 老年医学系統講義テキスト.初版,西村書店,東京,2013年,P152-153, P154, P155

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