脳の形態の変化
公開日:2016年7月25日 12時00分
更新日:2022年6月 8日 14時44分
脳の加齢に伴う形態の変化
私たちの脳は、年をとるにつれて少しずつシワが深く大きくなっていきます。これは、徐々にではありますが、脳が萎縮しているからです。
一般的には、30歳代くらいから少しずつ脳の萎縮が始まり、65歳くらいになると、肉眼的にも「明らかな萎縮がある」ことが、分かるようになります(写真)。
脳の重さは、成人男性で1300~1400グラム、成人女性では1200~1300グラム程度ですが、90歳になると60歳の脳よりも5~7%程度軽くなると言われています。萎縮の早さや程度は個人差によるところが大きく、また脳の部位によっても差がみられます。特に前頭葉や側頭葉は、前頭葉の前方や後頭葉に比べて、加齢(老化)に伴う萎縮が目立つ部分であるといわれています。
脳の萎縮の程度や範囲、部位や症状を診ると、認知症かどうかの判断をすることができます。「脳が萎縮していると認知症なのではないか」と思われる方も多いようですが、萎縮の程度によって動作が緩慢になったり、思い出すことが難しくなることがあったとしても、必ずしも認知症には至っていない場合もあります1)。
脳萎縮の原因
脳が萎縮する主な原因の一つに、「神経細胞数の減少」があります。一説によると、脳では毎日およそ10万個もの神経細胞の脱落が起きており、これにより脳全体のボリュームが小さくなっていくのです。
しかし、脳全体には140億個もの神経細胞がありますから、毎日10万個の神経細胞が脱落しても、全部なくなるまでには400年近くかかる、非常に膨大な数が存在していることになります。また、脳は強い「代償能力」があるため、仮にいくつかの神経細胞が脱落しても、残った神経細胞が新たな神経伝達の経路を作り出すため、脳の機能は失われにくいといわれています。したがって、脳の機能に急に大きな影響を及ぼすことはありません。
過去に海外で行われた研究では、脳の一部(海馬や脳室の周辺)には、神経細胞を新生する能力のある細胞(幹細胞)が存在し、高齢者の脳でも神経細胞の新生が行われていることが明らかにされました。これによって「神経細胞は発生と成長初期に分裂した後は生涯決して分裂増殖できない」というそれまでの常識が打ち破られることとなりました。
他にも加齢に伴い脳動脈硬化が進むことで脳血流量が低下し、その結果脳の萎縮に至るという説もあります2)。
脳の検査方法
脳萎縮を知るための検査は、CT、MRIを利用します。CTはレントゲンと同じような機械の構造をしており、短時間で簡単に画像を出すことができ、初期の脳萎縮の発見には向いています。
一方、MRIは時間をかけて撮影をしていくため萎縮の部位や範囲、程度の詳細を把握することができます。
これらの検査は、脳ドック等でうけることができ、近年では、このMRI画像に解析処理を施して解析する「脳萎縮解析検査」というものもあります。
脳の萎縮による影響・症状
脳が萎縮することによる影響が考えられるのは、認知機能の低下、いわゆる認知症です。しかし、これは脳が萎縮した誰しもが起こり得るものではなく、脳の萎縮が病的に起こった場合にのみ発症すると考えられています。認知症を発症すると、物忘れや短期記憶障害(少し前のことを覚えられない)だけではなく、見当識の障害、うつのような症状が出ることもあります3)。
また、アルツハイマー病も「脳の萎縮が見られる病気」とされており、認知症のうちの4割以上4)を占めています。症状としては、記憶障害や見当識の障害、うつの症状などが出現します。
一方で、アルツハイマー病以外の原因で認知症になる人もいます。つまり、「脳が萎縮しているかどうか」で症状が決まるのではありませんが、萎縮が病的な萎縮であった場合には、その病気に該当する症状が出現するということになります。