長期縦断疫学研究
公開日:2016年7月25日 03時00分
更新日:2022年4月19日 14時33分
老化による機能の変化
歳を取るとからだのいろいろな機能が変化していきます。しかし老化による変化には個人差が大きく、世代や時代の影響を受けることもあります。
たとえば、老化とともに背骨が曲がって、さらに椎骨と椎骨の間隔が狭くなり、身長は低くなっていきます。しかし、現代の若者と高齢者との身長の差は、このような老化による変化以上に、生まれ育った時代の栄養状態の影響が大きいのです。ですので老化による変化を正確に評価していくためには個人個人を追跡調査し、老化の進み方を長期にわたって観察していかなければなりません(リンク1参照)。
長期縦断疫学研究とは
多数の対象者を集めて、数年ごとに検査をくり返し、病気や老化の進行状態などを観察していく研究を長期縦断疫学研究といいます。
老化には様々な面があり、人の老化を総合的に評価するには多くの分野の調査や検査が必要です。多くの分野でのデータを同時に集めることで、医学、心理、運動機能などのそれぞれの分野での老化による変化を個別に明らかにすることが可能なだけでなく、例えば栄養摂取が骨密度の加齢変化に与える影響、肥満に関連する遺伝子の検討などというように、複数の分野での結果を合わせた老化、老年病に関する検討が可能になります。
また老化の進行、老年病の発症・進展を予測し、その予防を進めて行くには、環境、生活習慣、病気などが人生のどの時期でどのように健康や生活に影響を与えてきたかを明らかにしていく必要があります。このためには老化が始まる以前の段階からデータを追跡し解析していくことも必要です。
国立長寿医療研究センターにおける長期縦断疫学研究
老化に関する長期縦断疫学研究の実施には10年以上にわたる年月、膨大な専門的人材や費用、専用の調査センターの設置など多くの困難を伴いますが、米国では国立老化研究所(NIA)において人件費を除いても年間5億円以上もの費用をかけた国家プロジェクトとして1950年代から研究が進められてきました。
国立長寿医療研究センターでは平成9年11月から、老化に関する長期縦断疫学調査研究(NILS-LSA)を行ってきました。
この研究では約2,400名の無作為抽出された40歳から79歳までの地域に住む人たちを対象に2年に一度ずつ、毎日7名の検査を朝9時から夕方5時まで年間を通して調査を国立長寿医療研究センターの施設内で行っています。
調査内容は脳のMRI、骨量評価、老化・老年病関連遺伝子検査、包括的な心理調査、運動調査、写真記録を併用した栄養調査など数多くの検査や調査を含んでいます。また調査を行っているどの分野においてもその内容および規模ともに老化の縦断研究としては、世界に誇ることのできるものとなっています。
第1次調査は平成11年度に終了し、以後2年ごとに調査を継続して行っています。調査の膨大な結果はインターネット上に公開しています(リンク2参照)。また学術専門誌や国内外の学会などに数多くの研究成果の発表がされています。(図)