高齢者の神経系の老化
公開日:2019年7月30日 09時00分
更新日:2019年7月30日 09時00分
神経系の老化
人は誰でも、加齢によってさまざまな変化があらわれます。例えば、以前とは体の動き方が違う、物の理解の仕方が違う、反応の速度が違うなど、身体やこころの変化のあらわれ方や、度合いはさまざまです。加齢による身体やこころの変化には「神経系の老化」という要素も関係しています。
神経は大きく3つに分けて考えられる1)
神経と聞くと、何を思い浮かべるでしょうか。
人の体には「中枢神経」と「末梢神経」と呼ばれる、神経系があります。このうち「中枢神経」は主に脳と脊髄をあらわし、「末梢神経」は脳や脊髄から先に出て各臓器や筋肉、指先、足先までを支配する神経系をあらわしています。
中枢神経は図1のとおり脳と、脳から伸びる脊髄に分けられます。神経系の老化を考えるときは、脳、脊髄、末梢神経の3つに分けて考えます。
神経系の老化による変化
前述の通り、神経系を大きく3つに分けて捉えると、それぞれの神経系には、老化により次のような変化が起こります。
脳2)
加齢によって脳で起こる大きな変化としては、脳の萎縮が挙げられます。
人の脳は、子供の頃から徐々に大きくなり、重さも重くなりますが、20歳頃に重さがピークとなります。その後は大きさや重さを維持していますが、50歳頃を境として、徐々に脳の萎縮が始まり、重さも減少していきます。脳の中でも、大脳の萎縮がもっとも強く、次いで小脳、脳幹の順で萎縮が進んでいきます。大脳の中では、前頭葉、側頭葉の萎縮が大きく、頭頂葉や後頭葉は萎縮が少ないとされています。
脳はそれぞれの部位で司る内容が違います。運動や皮膚の感覚の統合、視覚などを司る頭頂葉や後頭葉の萎縮は比較的少ないのですが、記憶や言語を司る側頭葉や、それぞれの働きを統合し、意欲や意志の源となっている前頭葉での萎縮が大きいということになります。
脳には萎縮の他にも、神経細胞の萎縮や消失がみられたり、いわゆる「老人斑」とよばれるシミ「アミロイド斑」がみられるようになります。
脊髄1)
脊髄の老化は、骨の老化とも関連しています。脊髄は、脊髄骨(椎骨)と呼ばれる円盤状の骨と、その間にある椎間板と呼ばれる軟骨に守られています。老化による変化は、この椎間板に現れます。
椎間板は元々、椎骨と椎骨の間でクッションの役割を果たしています。老化が進むと椎間板は硬くもろくなり、クッションの役割を果たせなくなってきます。すると、椎骨の中を通る脊髄を圧迫したり、椎骨の間から末梢へと延びる神経(神経根※1)を圧迫し、神経を損傷してしまうことがあります。これにより、感覚が鈍くなる、筋力が低下する、平衡感覚が低下するなどの変化が見られるようになります。
- ※1 神経根:
- 神経根とは脊髄から脊髄神経節までの間の末梢神経のことをいいます。
末梢神経3)
末梢神経の老化によるもっとも大きな変化は、神経の信号を伝える速度が低くなることです。脳および脊髄から出る末梢神経には、脳からの信号を末梢へ伝える運動神経(遠心神経)と末梢からの感覚を脳に伝える感覚神経(求心神経)を合わせた「体性神経」と、交感神経と副交感神経を合わせた「自律神経」があります。
末梢体性神経の老化による変化では、反射が低下・消失する、感覚が鈍くなる、筋力が低下する、などがあります。
一方の自律神経は、自分でコントロールできない神経系です。自律神経には体の調子を整えるための「アクセルとブレーキ」の役割があります。例えば、暑さに応じて汗をかいたり、目が覚めると心拍数や血圧が上がってシャキッとした動きをするようになります。
しかし、自律神経が老化によって変化すると、気温の上昇に対して、汗をかき難くなることがあります。さらに、起きている時と寝ている時での内臓の動きが変化しにくくなって、食べたものを消化しにくい、尿意や便意をコントロールでき難くなるなどの変化が見られるようになります。
高齢者に起こり得る神経の老化による変化
神経は、ほんの1本の神経が損傷を受けても、ある程度は周りの神経が助けるような働きをします。しかし、神経の老化は体の中のさまざまな部分で起こります。感覚や運動能力が衰えてくるだけではなく、気づかないうちに、大きく体調を崩してしまうこともあります。一人ひとりの神経系の老化が、実際にどの程度まで進んでいるのかは分かり難いことがあります。
何となく全身の感覚が鈍くなって温度の変化を感じられなくなった、反応が遅くなった、若い頃のような動きをすることが難しくなったなど、自分自身や周りの人の「気付き」が大切です。
参考文献
- 坂井建雄ら(編):カラー図解 人体の正常構造と機能.第2版,日本医事新報社,東京都,2014年,P588