ビタミンB1の働きと1日の摂取量
公開日:2016年7月25日 21時50分
更新日:2023年8月17日 13時15分
ビタミンB1とは
水溶性ビタミンの仲間であるビタミンB1はビタミンの中で最初に発見されたものです。科学的にはチアミンという名称の化合物で、ブドウ糖をエネルギーに変換する際に必要な栄養素です。また、ビタミンB1には、チアミンにリン酸が一つ結合したチアミンモノリン酸(TMP)、二つ結合したチアミンジリン酸(TDP)、三つ結合したチアミントリリン酸(TTP)がありますが、それらの化合物は消化管でビタミンB1に消化された後、吸収されるため、ビタミンB1と同等の活性を持ちます。
ビタミンB1の吸収と働き1)
生細胞中では、ビタミンB1は主にチアミンにリン酸が二つ結合したTDPの形で、酵素タンパク質に結合して存在しています。食品が調理されたり消化されたりする際に酵素タンパク質が変性すると、酵素たんぱく質に結合していたTDPが遊離し、消化管内でフォスファターゼという酵素の働きによりリン酸が取れて、チアミンとなって、空腸と回腸で吸収されます。食品によっても異なりますが、食事中のビタミンB1の利用効率は約60%程度と推定されています。
ブドウ糖がピルビン酸になるまでを解糖系といい、酸素を使わずにエネルギーを少し産生します。ピルビン酸はさらにアセチルCoA(コエンザイムA)になり、TCAサイクル(クエン酸回路)に入って酸素を消費して代謝されます。最終的には二酸化炭素と水になり、たくさんのエネルギーを産生します。ビタミンB1はピルビン酸からアセチルCoAに変わる際に必要な水溶性ビタミンです。
ビタミンB1の1日の摂取基準量1)
ビタミンB1はエネルギー産生に関与していますので、推定平均必要量をエネルギー1,000㎉に対しチアミン塩酸塩で0.54mgとして算出されています。この推定平均必要量の値は、半数の人が必要を満たすと推定される量です。この推定平均必要量に推奨量算定係数の1.2を掛けた値が、推奨量となり、約97.5%の人が必要量を満たすと考えられる量になります。2020年版食事摂取基準では、一日の推奨量は、女性では18~74歳で1.1mg、75歳以上で0.9mg、男性では18~49歳で1.4mg、50~74歳で1.3mg、75歳以上で1.2mgとなっています(表1-1、1-2)。
また、糖質を多く摂る人や、よく体を動かす人は、エネルギーの産生が盛んなため、より多くのビタミンB1を必要としますので、特に不足しないように注意が必要です。
年齢等 | 推定平均必要量 | 推奨量 | 目安量 |
---|---|---|---|
0~5(月) | - | - | 0.1 |
6~11(月) | - | - | 0.2 |
1~2(歳) | 0.4 | 0.5 | - |
3~5(歳) | 0.6 | 0.7 | - |
6~7(歳) | 0.7 | 0.8 | - |
8~9(歳) | 0.8 | 1.0 | - |
10~11(歳) | 1.0 | 1.2 | - |
12~14(歳) | 1.2 | 1.4 | - |
15~17(歳) | 1.3 | 1.5 | - |
18~29(歳) | 1.2 | 1.4 | - |
30~49(歳) | 1.2 | 1.4 | - |
50~64(歳) | 1.1 | 1.3 | - |
65~74(歳) | 1.1 | 1.3 | - |
75以上(歳) | 1.0 | 1.2 | - |
年齢等 | 推定平均必要量 | 推奨量 | 目安量 |
---|---|---|---|
0~5(月) | - | - | 0.1 |
6~11(月) | - | - | 0.2 |
1~2(歳) | 0.4 | 0.5 | - |
3~5(歳) | 0.6 | 0.7 | - |
6~7(歳) | 0.7 | 0.8 | - |
8~9(歳) | 0.8 | 0.9 | - |
10~11(歳) | 0.9 | 1.1 | - |
12~14(歳) | 1.1 | 1.3 | - |
15~17(歳) | 1.0 | 1.2 | - |
18~29(歳) | 0.9 | 1.1 | - |
30~49(歳) | 0.9 | 1.1 | - |
50~64(歳) | 0.9 | 1.1 | - |
65~74(歳) | 0.9 | 1.1 | |
75以上(歳) | 0.8 | 0.9 | - |
妊婦(付加量) | +0.2 | +0.2 | - |
授乳婦(付加量) | +0.2 | +0.2 | - |
- チアミン塩化物塩酸塩(分子量=337.3)の重量として示した。
- 身体活動レベル2の推定エネルギー必要量を用いて算定した。
特記事項:推定平均必要量は、ビタミンB1の欠乏症である脚気を予防するに足る最小必要量からではなく、尿中にビタミンB1の排泄量が増大し始める摂取量(体内飽和量)から算定。
- 推定平均必要量:半数の人が必要量を満たす量。
- 推奨量:ほとんどの人が必要量を満たす量。
- 目安量:一定の栄養状態を維持するのに十分な量であり、目安量以上を摂取している場合は不足のリスクはほとんどない。
ビタミンB1は、過剰に摂取しても余分なものは尿中に排泄され、比較的蓄積しにくいために、耐容上限量が設定されていません。しかし、サプリメントなどによって1日10gのチアミン塩酸塩を2週間半摂取し続けると、頭痛、いらだち、不眠、速脈、脆弱化(ぜいじゃくか:もろくてよわい)、接触皮膚炎、かゆみなどの症状が現れたという報告もあります。通常の食事をとっているだけであれば過剰症の心配はありませんが、サプリメントなどを利用する際は注意が必要です。
日本人のビタミンB1の一日の平均摂取量は令和元年国民健康・栄養調査によると0.95mgでした。食品群別の摂取量で見ると、肉類からの摂取量が最も多く、次いで穀類、野菜類、魚介類の順に多く摂取されています2)。
ビタミンB1が不足するとどうなる1)
ビタミンB1が不足すると、ブドウ糖から十分にエネルギーを産生できなくなり、食欲不振、疲労、だるさなどの症状が現れます。また、脳はブドウ糖をエネルギー源としているため、ビタミンB1が不足するとエネルギーが不足し、脳や神経に障害を起こします。さらに、重症な場合は脚気(足の浮腫、しびれ、動悸・息切れ)やウェルニッケ・コルサコフ症候群(中枢神経が侵される障害)になり、重篤な場合は死亡することもあります。
玄米が重要なビタミンB1の摂取源だった日本では、ぬかを取り除いた精白米を食べるようになった元禄時代以降、脚気にかかる人が多くなり、江戸患い(わずらい)とも呼ばれていました。現代でも、インスタント食品などの利用の増加により、ビタミンB1が不足し、脚気にかかる人もいます。
ビタミンB1を多く含む食品
ビタミンB1は、肉類、魚類、豆類、穀類、種実類などに多く含まれています。穀類では米ぬかや小麦はいがに多いため、精白米にするとビタミンB1の含有量は少なくなります。
ビタミンB1はニンニクやタマネギなどに含まれているアリシンと結合してアリチアミンになると、吸収率が高くなります。しかし、熱に弱いため、調理による損失が大きいといった欠点があります。
一般的な食品スーパーなど身近なところで購入できる食品で、調理しやすく、日常的に摂取しやすい食品からビタミンB1を多く含む食品を表2から表6にまとめました。
食品名 | ビタミンB1量(mg) | 食品の目安重量(廃棄部分を含む)(単位:重量) |
---|---|---|
ぶた [大型種肉] ヒレ 赤肉 生 | 1.32 | 1人前:100g |
ぶた [大型種肉] もも 赤肉 生 | 0.96 | 1枚:200g |
ぶた [ハム類] ボンレスハム | 0.90 | 1枚:20g |
ぶた [大型種肉] ロース 赤肉 生 | 0.80 | 1枚:200g |
ぶた [大型種肉] かた 赤肉 生 | 0.75 | 1枚:200g |
食品名 | ビタミンB1量(mg) | 食品の目安重量(廃棄部分を含む)(単位:重量) |
---|---|---|
うなぎ かば焼 |
0.75 |
1串:100g |
かつお節 | 0.55 | 1人分:1.5g~2.5g |
削り節 | 0.38 | 1人分:1.5g~2.5g |
まだい 養殖 皮つき 生 | 0.32 | 1切れ:80g |
べにざけ 生 | 0.26 | 1切れ:80~150g |
- 可食部とは、食品全体あるいは購入形態から廃棄部位(頭部、内臓、骨、ひれなど)を除いたものです。
食品名 | ビタミンB1量(mg) | 食品の目安重量(廃棄部分を含む)(単位:重量) |
---|---|---|
全粒 国産 黄大豆 ゆで | 0.17 | 1パック:100g |
あずき 全粒 ゆで | 0.15 | 1カップ:170g |
挽きわり納豆 | 0.14 | 1個:30~50g |
おから 生 | 0.11 | 1カップ:100g |
調製豆乳 | 0.07 | コップ1杯:200g |
食品名 | ビタミンB1量(mg) | 食品の目安重量(廃棄部分を含む)(単位:重量) |
---|---|---|
[水稲めし] 玄米 | 0.16 | 小盛り1杯:100g |
ライ麦パン | 0.16 | 1枚(6枚切り):60g |
[水稲めし] 発芽玄米 | 0.13 | 小盛り1杯:100g |
ぶどうパン | 0.11 | 1枚(6枚切り):60g |
食品名 | ビタミンB1量(mg) | 食品の目安重量(廃棄部分を含む)(単位:重量) |
---|---|---|
ごま 乾 | 0.95 | 大さじ1:9g |
らっかせい 乾 小粒種 | 0.85 | 殻付き10粒:25g |
ごま いり | 0.49 | 大さじ1:9g |
ぎんなん 生 | 0.28 | 1粒:2~3g |
アーモンド 乾 | 0.20 | 10粒:14g |
食品に含まれる成分について
食品に含まれる成分は、
から検索が行えます。食品成分データベースは、「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をデータソースとして、食品成分に関するデータをインターネットを通じて提供しているものです。
下記のようなさまざまな情報を知ることができます。
- 日・月・年単位の期間内で検索の多い食品のアクセスランキング
- 各栄養素を多く含む食品成分ランキング
- 食品群名/食品名、可食部100gあたりの成分表(一般成分-無機質-ビタミン類-アミノ酸-脂肪酸-炭水化物-有機酸等)など食品の詳細について掲載。重量を変更し、お好みの量で表示が可能
- 日常の食生活において複数の食品を組み合わせた場合の成分値の表示が可能
複数の食品の成分を検索する方法
複数の食品の成分を検索する方法についてご紹介します。
- 「フリーワードで検索」において食品名を入力するとワードに合致する食品がチェックリストで表示されます。本来検索したい食品以外も表示される場合がありますので、該当する食品を選択してください。
- 検索結果で表示される成分項目は、一般成分の基本成分である廃棄率、エネルギー(kcal)、水分、たんぱく質、脂質、炭水化物、灰分※です。一般成分の基本成分のみの表示は、「結果を表示」ボタンを押してください。重量は変更ができますので、摂取する量を入力し重量換算を行ってください。
- ※灰分:
- 一定条件下で灰化して得られる残分で、食品中の無機質の総量を意味する。また、水分とともにエネルギー産生に関与しない一般成分として、各成分値の分析の確からしさを検証する際の指標のひとつとなる。食品成分表に記載される数値の測定規準としては、550℃で残存炭素がなくなり、恒量となるまで灰化すると規定されている。
- 一般成分に追加して表示したい成分がある場合は、「表示成分選択」ボタンから、食品を追加したい場合は「フリーワードで検索」ボタンから検索し、追加することができます。
参考文献
- 香川明夫(監修):八訂 食品成分表2021. 女子栄養大学出版部, 東京, 2021.